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無重力高校生。  作者: メイ
4月編
2/25

毒舌ポーカーフェイス

 面倒だと、心の底から思った。


 今日が高校の入学式だった。

 制服が可愛いという理由で入った女子が沢山いるであろうこの霜村高校。

 それくらい、うちの高校の制服は人気があった。白いラインの入った紺のセーラー服だ。私は特にそういう理由で入った訳でもない。家から距離が近かっただけだ。


 入学式の翌日だから、恐らく面倒な事が沢山あるだろう。

 朝6時に起きた私は、寝巻きのまま味噌汁と卵焼きと御飯をもそもそとつついて、その後に弁当を作った。中学校までは給食があったからよかったものの、高校は違う。食堂はあるらしいけど、それじゃ金がもたない。それに、1年生が学食なんて使えないだろう。

 中学校とは違うセーラー服に袖を通す。何だか着づらい。ごわごわとした生地が身体に馴染まなくて、違和感がある。

 テレビを付けると、12星座の占いが流れていた。双子座が――――1位。今日の運勢は総合的に絶好調でいい事があるかも、ラッキーアイテムはヘアアクセサリー、色が白であればグッドでピンクなら恋愛運が何たらかんたら。

 こういったものは信じたくない。占いなんて当たりやしない。私の腰まで伸びた真っ直ぐな黒髪は、何年も前から放置状態で伸ばし放題である。前髪だけはちゃんと切っているが、そんな髪に今更アクセサリーだとか煩わしい。

 特に見る必要もなくて私はテレビをぶつん、と消した。部屋から音が失われる。静まり返った自宅の中は、いつも通りでもう慣れた。独り暮らしって大体こんなものだ。

 私の父親は私が生まれた直後に亡くなったらしい。母親は仕事だかで何処だか、何たら地方にいる。中学生の頃からだからもう慣れた。自由だし、母親が居ないのは嬉しい。家事だって得意だし、不自由はない。ここはマンションだから家賃もかかるけど、月1回10万の仕送りがある。結構厳しいけど、それなりにやりくりしてる。


 扉を開けて、私は学校まで歩き始めた。

 やなこったが、今日から高校生活が始まってしまうのだ。


 ……始まんなくてもいいんだけど



「あっ、レイー! おはよっ!」

 どうやったら朝からこんな高い声出せるんだろう。

 学校までの道のりを歩いていた途中、前方からやってきた奴がいた。

 同じセーラー服に淡いピンクのスカーフ。全体的に癖のある少し茶色の髪は、横で1本に束ねられている。明るい笑顔でこっちに手を振って来る。

 中学校からの親友である、相原梨華だった。はてさて、何故家の方向が違うこいつが私とほぼ同じ道を歩いているのか。私は取り敢えず彼女に近づく。

「梨華、あんた引っ越したの?」

「ん? 引っ越してないよ」

「じゃどうしてこんなとこ歩いてんの」

 低い声で私が言うと、梨華の甘くて高い女の子っぽい声がそれを掻き消した。

「ちーがうってばぁ! あたし昨日まで従姉妹の家に泊ってたから。そこから登校してただけー」

「登校初日から何してんのあんた」

 まともに付き合って来た友人と言えば、梨華しかいない。クラスは勿論離れたから、殆ど話す事は無くなってしまうだろうけど、同じ高校に行けただけでもまだ幸いだ。


 学校に着くと、2組である私と6組である梨華は下駄箱から別れた。私は1人知らない教室へと向かう。私の席は運がいい事に、窓際で1番後ろであった。この高校は丘の上にあり、窓からの景色がいい。鬱になりそうな高校生活も、ここだけは気に入った。


 オーソドックスすぎる自己紹介やら何やらが終わり。

 休み時間はある程度のグループができていた。ざわつく教室の中。新学期特有の空気だった。話すような人もいないので、私はひとりぼーっと今日の献立を考えていた。

「ねー、瀬村さんだよね? どこ中学出身??」

「は?」

 顔をあげると、いつの間にか座っている私の机の前に女子2、3人が立っていた。その中心に居る女子が意味不明な質問をしてくる。

「すっごい黒い綺麗な髪の毛、めっちゃ長かったから覚えてたのー」

 そう甘ったるい声をした女子が言う。梨華とは違う、嫌な感じの甘い声。

 これでもかって位短いスカートに、ほぼ白目が見えない不自然に長い睫毛の瞳。無駄に凝ってる派手な頭した奴らだ。

 嫌だ。関わりたくない、こいつらと。

「どうでもいいけど」

 女子を一瞥して、席を立つ。

「どいて」

 教室を出て、早歩きで逃げる。


 あの匂いが、目が、声が、仕草が、笑い方が、全て嫌いだ。

 女っていう生き物が理解できない。

 話し掛けるな。私を見るな。


 屋上に飛び込む。


「っはぁ、はぁっ……!」

 扉を背中越しに閉めて、座り込む。

 力を失くして蹲る。


 女は嫌いだ。


 微かに吹いた風が、私の長い髪を揺らした。

 視界の半分以上を覆った黒髪は、私の思考をも覆うようだった。

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