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無重力高校生。  作者: メイ
日常編
18/25

メランコリック

「わ、瀬村さんその顔どうしたの!? 傷だらけだよ〜」

 言われなくても分かってるよ、そんな事。


 1時間目が終わり、10分間の休み時間。岸谷薗香は私の机に来て驚いたような、いや驚いている顔でそう言った。私はもうコイツのしつこさに耳タコのような気分だったので、彼女が近付いて来た瞬間に寝たふりをしていた。いや、バレてるけどさ。

「ちょっとー、さっきまで起きてたでしょ。寝たふりはやめてよ」

「……」

「起きてるんでしょ? 返事くらいしてよー」

「……」

 突っ伏した腕の隙間から、岸谷薗香に訝しげな視線を送る篠原くんが見えた。訝しげっていうより呆れている。あーあ、そんな目をしたいのは私の方だよ。

「ねぇ、瀬村さん! 次数学だから寝てたら怒られるってば…」

 そこで我慢の限界が来た。

 私は突っ伏していた体を瞬時に起こして立ち上がり、岸谷薗香の目の前で早口で言った。

「いいっ加減にしてよ。迷惑だって言ってんでしょしつこいな。あんたみたいな奴って大嫌い」

 岸谷薗香をきっと睨んだ。彼女は目を丸くしてしばらく私を見ていた。岸谷薗香が口を開く前に、篠原くんが相変わらずけだるそうにこっちを一瞥してぼそっと言った。

「……人に大嫌い大嫌いって言い過ぎ」

「黙れチンピラ」

「だから俺はチンピラじゃねぇっつの。お前マジでいい加減にしろ」

「篠原くんはまずビジュアルをどうにかした方がいいと思う」

「はぁ? 俺の見た目に何か問題でもあんの」

「あるよ。ありまくりだよ。むしろ問題しかないよ」

「何だそれ。俺って問題の塊なのか」

 そこまで言うと、岸谷薗香は不意に笑い出した。

「あははっ、篠原くんと瀬村さん面白いねぇ。やりとりが息ぴったり」

 私と篠原くんひお互い顔を見合わせた。

「だってよ」

「……知らねぇよ!」


 2時間目の始まり辺りで、昨日と同じような頭痛が始まった。

 どうせすぐ治まるだろ…となめてかかっていたらその痛みは短時間で随分と強くなり、数学の公式さえも呪文に聞こえてきた辺りで耐えられなくなった。2時間目が終わると同時に教室を出て保健室に行った。

 養護教諭は私の訴えた頭痛よりも、顔の怪我の方を見ていた。どうにか誤魔化すと早退許可を貰い、広子さんの店に電話をし迎えを頼んだ。

「じゃあ、お家の人が来るまで帰る支度してなさいね。それじゃ気をつけて。お大事に」

「……失礼します」

 保健室を出るとチャイムが鳴った。休み時間が終わったのだ。帰りの支度をしないといけない……教室へ向かうと、誰もいない。無人の教室で自分の机に行き、鞄の中に教科書を入れる。

 今の時間…3時間目か。3時間目の授業って何だっけ。


「おっ? 瀬村だっけ、次体育だぜー。着替えないの?」


 えらく能天気な声にやや驚いて顔を上げると、教室の入口に知らないジャージ姿の男子が立っていた。

「……誰」

「あ、俺? 鳥飼とりかい。いちおー席、君の後ろなんだけどなぁ」

 こいつもか。篠原くんと初めて話した時と同じような感じだ。それにしても、席の近い人間に気付かない私は一体何をしているんだろう。彼は特徴的な話し方をしている。リズムに乗っているような、楽しそうな話し方。

「それにしても瀬村さ、その顔の怪我どうしたんだよー。可愛い顔にそんな怪我は似合わないぜ」

「……は?」

「でも美少女と怪我っていう組み合わせもなかなかいいね」


 何、コイツ何なの?

 ヤツは腕を組み、女子の何たるかみたいなことを語り出した。ノリノリで何言ってんの、理解不能なんだけど……。


「でさ、瀬村は体育出ねーの?」

「……早退」

「あ、そーなんだ。お大事に。じゃな~」


 ……テンションの高い男だ

 あんなうるさいのに私、あいつが後ろにいたの気付かなかったのか。どうでもいいけど。


 脈と同じリズムで痛む頭を押さえつつ、鞄に入れるもの全てを入れ終えると机に突っ伏した。


 あー、痛い。ほんっとに痛い…頭カチ割れそう。

 昨日殴られたせいだ絶対。まさか脳の方に異常きたしたか。広子さん、私の為にお店を臨時で休んで来るんだろうな……迷惑掛けっ放し。本当に何してんだろう、私は。


 ……何かちょっとしたメランコリックになってるのかもしれない。


 これは冗談抜きで生理近いな、と思った。何となく窓辺に行って外を眺めた。広い校庭に、臙脂色のジャージの群れが2つある。男子の群れと女子の群れだ。そうか。1年2組、体育ってさっき鳥飼とか言う男が言っていた。私は集団の中に、何故か篠原くんを探してしまった。

 集団から少しばかり離れた所に、遥くんはぼーっと佇むようにしていた。相変わらずだるそうだ。彼はだるそうにしかできないのだろうか。

 よく見ると遥くんは、何やら女子の方を見ていた。誰か探してるのか? そう思っていた時だ。私は朝に作った弁当と、返さないといけないシャツを思い出した。自分の鞄から、あの紙袋を取り出す。

 今日中に渡さないと、弁当は悪くなる……けど私は、もう帰るし。そう思って、私は教室の一番後ろにある全員のロッカーから、彼のロッカーを探す。さ、佐藤、椎名、指田、……篠原。あった。


 鞄が雑然と放り込まれている篠原くんのロッカーに紙袋をそっと入れて、私は教室を後にした。

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