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無重力高校生。  作者: メイ
事件編
12/25

アイロニーを吐くだけで、

 男の身につけているアクセサリーがじゃらじゃら鳴る。

 きつい男物の香水の匂いがして、思わず顔を顰めた。


 ビリッという音がした。それはセーラー服のスカーフが引きちぎられる音だった。


「なめてっとこうなるんだよ。こんなとこ、泣き叫んだって誰もこないから思う存分泣けば」


 全くもってその通りである。誠に残念ながら、体育倉庫の後ろは土手でその上は森林である。無駄にだだっ広い校庭には声は響かない。要は何をしても徒労に終わる。無駄なのだ。


「……あんた最低」

「またそんな睨んじゃってよぉ、お前今の自分の状況分かってんの?」

 男が楽しそうに言う。舌舐めずりなんかするから気色悪くて、私は男の顔を殴った。

「いいよ、やり返して」

 そんな指示が下ったもんだから、私の顔も殴られた。熱いような衝撃が顔を通じて頭にも走り、頭の中がぼーっとする。こいつ、私の非力な攻撃に対して本気で殴りやがった。口内に血の味が広がる。


 抵抗できなくなって、私は完全に男のするがままになった。冷たい床に押し倒されて、次に聞こえたのはぶちぶちっ、という音だった。セーラー服のボタンが引き裂かれて、制服の前が完全に開いた。


 こいつ、やる事なす事ほんっとに荒い。


 顔にまだ残る痛みに耐えながら、私は無駄だと分かっていながら見えている下着を腕で隠した。男がニヤッとまた笑ったが、その顔はすぐ疑問に変わる。

「……何だこれ」

 男が何かに気付き、私の見えないところにある何かを拾った。


 それはスカートのポケットから落ちたであろう、私の生徒手帳だった。私は顔色を変えて、胸を隠すのも忘れて飛び起きた。


「待って、やめて! それは、」


 それは、

 その中には……、


 私が焦っているのを見ると、男は女子の顔を見る。女子が「好きにしろ」と言った。男は立ち上がり、倉庫の扉を開けた。

「返して、何すんの? ちょっと、」


 男は私の方を向くと、ニヤッと笑った。

 私は全身が凍り付いたような気がした。


「やめてっ…」


 男が生徒手帳を持っている腕を上げる。

 私は出せる限りの声を上げて叫んだ。


「だめぇえ――――っ!!!」


 その叫び声も虚しく、男は生徒手帳を思い切り遠くに投げた。

 私はバッと扉に飛びついた。投げられたそれは明らかに意図的な方向を通り、校庭の隅の――土日に降った雨でできた土色の水溜りの中に落ちた。


 パシャン、と小さな音がしただけだった。


 声にならない声を上げた。息が切れていた。

 女子の甲高い笑い声がした。


 憤りも感じられなかった。喪失感が大きすぎた。


「何、あれがそんな大事なもんだったのー?」

「だったら犯さないで最初っからアレ取っちゃえばよかったじゃん」

「無駄骨ってヤツ? ハハハハ!!!」


 私はただ茫然とそこに座り込むしかなかった。


「ほらぁ、再開しなよー。こんだけじゃつまんないじゃん」

 女子が笑うと、男も笑って私を押し倒す。


 女子が扉を閉めて、男がニヤつきながらスカートに手を伸ばしてきた。

 この時になって、やっと怒りが湧いてくる。


「ふざけんなっ、触んな!! 誰がお前なんかにやられっか、このっ…!!」


 必死に抵抗して男の腹を思い切り蹴った。するとまた顔を殴られた。今度こそ意識を失いそうだった。まずい。ここでのびたら、絶対犯される。


 だけど、もうだめかも。

 私、何やってんだろう。

 高校入って女いっぱい敵に回して、そんで男に襲われるって。

 ふざけてる。こんな高校生活。


 死んでしまえ、と思った。

 何もかも。全て死んでしまえ。私も死んでしまえ。そうすればもう何も残らない、何を感じる事も、ない。

 その方がどんなに楽だろう。どんなにいいだろう。



 こんなクソみてーな奴ら大嫌いだ。

 全部まとめて死んじまえよ、もう。



 クソ喰らえだ、と思ったその時だった。


「………っ、え…?」

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