もう目の前まで迫る危機
「へぇ、本当に来たんだ」
来いと言ったのはあんただろう。
体育倉庫は校庭の隅にあった。
放課後午後4時、霜村高校体育倉庫。
まだ外は明るいのに、窓がほとんどないのでそこは薄暗く、けど中学校の倉庫よりはいくらか広い。そんな埃臭い妙な空間の中央に女子が3人、そして奥に男子が1人の計4人が仁王立ちして待っていた。全員知らない顔だ。この奥の男子は、何だ……えっと、アレだ。用心棒か。
私は入口を開けたまま、彼らと一定の距離を保って口を開いた。
「……あんたら誰」
3人のうち、中央のパーマに失敗したような痛んだ茶髪の女子がさも愉快そうな顔をして答えた。
「あたしらはミカの友達だけど」
誰だミカって。
そんな名前に覚えはない。私の顔を読んだのか、向かって右にいる高校生にしては老け顔のくせに年齢に合わない変なツインテールの女子が言った。
「入学初日にあんたに話し掛けた子だよ、覚えてないワケ?」
……あー…。アレですか、あの妙な、派手な頭の女。アレの連れかよ。どおりでろくなのいないのね。
「私に何か用?」
私は扉を開けたまま固定した。そう言うと左にいるキノコみたいなショートヘアの女子は笑った。
「何って、何でそんなの聞いてくんの?」
「そうだよ、用なんて特にねーし」
「あたしら、ただあんたがムカつくだけだし」
そうですか。よくわかりました。
恐らく派手な頭がこいつらに密告したのだろう。自分で手を下さないのか、あいつは。それでいて、この茶髪と老け顔とキノコが執行部ってことか。ご苦労なこった…
「何かあたしらに言う事ないワケ?」
「……暇だねぇ」
相変わらずの無表情でそう言った。女子3人は顔を真っ赤にすると、茶髪は私にずかずかと近付いてきて私の頬を思い切り平手打ちした。
衝撃と共に、叩かれた向きのまま顔が下を向く。
「お前人の事なめんのもいい加減にしろよ。調子乗ってんの?」
下を向いているから、奴らがどういう顔をしているのかは分からなかった。
私は茶髪を思い切り睨みつけた。
「あんたらが1人相手に複数で来るからでしょ。言っとくけど、不愉快なのはこっちなんだよ。あの派手な頭したのに言ってやれ、腹立つんなら直接かかってこいって。あんたららもだよ。自分達より明らかに小柄な私ごときに何で複数で来んの? 1人で来なよ。それができないんなら、あんたなんか相手になんない」
すると女子は痺れを切らし、奥にいた男子に「もういい、やってやれ」と意味のわからない指示を出した。すると女子2人は素早く私を羽交い絞めにする。私は弱いので、それだけで抵抗できなくなった。
男子は体育倉庫の扉を閉め、鍵をかけた。すると女子が私の周りから離れ、代わりに男子が私を身体ごと強く壁に押し付けた。背中に当たるコンクリートが、冷たい。
よく見えなかったけど、そいつは金髪で頭の悪そうな顔をしていた。耳にいつくものピアスをしていて、ガタイのいい身体つきをしている。こいつ、1年じゃない絶対。
そいつはニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべると言った。
「あんまなめてっと、黙らせるぜ」
何かこれはよくない予感。いや、これはもう決定的だろう。
今から私、こいつに襲われる。
私は男を睨みつけたが、それは男の興奮材料でしかないようだった。
ちょ、待て。そんな勝手に盛るな発情期かよお前、つかやりたいんなら何も私じゃなくたって…って、うわ。
男はセーラー服の胸元に手を掛けた。
何これ。
やばい…
高校生活1日目。
女子を敵に回して親友と昼を過ごし、不良と一緒に帰った。
高校生活2日目。
良く分からん明るい女子にテラスに連れて行かれて弁当を一緒に食う羽目になった。
高校生活3日目。
果たし状が下駄箱に放り込まれていたが友達が元気づけてくれた。
そして週末を終えて月曜。
高校生活6日目。
体育倉庫に呼び出され、男に襲われる。