5.あるスバルの1日
「こっこれが国立BA博物館」
カーチェスはいつものようにその目を輝かせてい。何百人もの人が出入りしている、無駄に立派なその建物には国立BA博物館と書かれている。
さかのぼること、2時間前…
「スバルさん、スバルさん」
カーチェスは、やはり荷物まみれのコックピット座席裏の指定席から俺に話しかける、〈SDX〉は北へ向かって飛んでいる途中だった。
「なんだ?」
身を乗り出すカーチェスの手には、どこで手に入れたのか観光マップ、BAで世界を見る! なるものが。
「お願いがあるんですけど」
「お願い? いってみろよ」
若干の嫌な予感もあったが、この旅でのカーチェスは意見は尊重したいと考えていた。飛行速度少し遅くする。その観光マップを俺の前に出してきたからだ。
「この先にあるルノーアっていう街に行ってみたいんです」
ルノーア、観光都市か・・・、そこに行ってもいいが、とりあえず行くのでは
行く意味がない。深いため息を吐いたあと、嫌そうな顔をしてカーチェスを見る、少しでも行く意味を持たせればいいという思いだ。
「ルノーアっていったら観光名所じゃねーか、遊びに行くつもりか!?」
「いえ、前から一度ルノーアにある国立BA博物館に行ってみたかったんです」
でも、そんな時間無いですよね・・・とカーチェスは再び荷物にまみれる。観光マップからは目を離さない。
「ああ、博物館…そういやあったな、そりゃいい休憩ついでに行くか」
「ほんとですか!」
カーチェスの目の色が変わったのはいうまでもない。
「ああ、ほんとだ」
「ありがとうございます、スバルさん!」
という流れでルノーアにきていた。
「やばい、人に酔いそうだ」
どうも昔から人の多いところが苦手だった。観光名所だけに見て回るところは腐るほどある。それに比例して観光客も腐るほどいる。その流れを目で追うだけで気分が悪くなってくる。
「はやく、行きましょう」
「カーチェス、やっぱ俺はやめとく」
「はい、じゃーいってきます」
たぶん、相当ひどい顔になってるだろう、カーチェスはそんな俺を気にもとめず、ルンルン気分で博物館へと向かう。船での仕打ちを根に持ってるのか?
「おい、ちょっとは心配しろよな」
愚痴をいいながら機体のところに戻る。
体をふらふらさせながら、機体のところに戻ってきた俺の目に移ったのは3人の10歳ぐらいのガキ。なにをしてるかと思えば〈SDX〉のコックピットに座って何かしている。ポケットを探る、キーは付けっぱなしだ。
「おっおい、ガキども何してんだ!」
慌てて駆け寄るが、それは逆効果だった、耳にエンジン音が届く。
「よし、動いた」
「にっにげるぞ」
やばい、やばい、やばい、やばい!!
「まて、おいそのBAはお前らが扱えるよう…」
ダメだ聞こえるわけがない、全て話し終わるまえにBAはものすごい勢いで横を通り抜けて行く。
「オートブースト切ってねーよ!」
〈SDX〉は急発進し建物の壁などを削りながら進んで行く。あたりを見回す。そこにはバイクを持つ男が、通り過ぎて行ったBAを見てあっけにとられていた。スバルはそこに駆けよりながら、ポケットの中に入っていた金をバイクの持ち主の胸に押し当ていう。
「もらうぞ!」
バイクは轟音とともに走りだす。持ち主はさらに訳の分からない状況にあっけらかんとしていた。
何かの拍子にスピーカーのスイッチが入ったようだ、〈SDX〉内では子供達がパニックに陥っている。
「なっなんで、アクセル踏んでねーのに、ブースターが動くんだよ」
「早く止めろよ!」
「うるせー今やってんだよ」
「おい!前、前ーー!」
避けろ! 心の中で強く願う。危うく建物にぶつかりそうになるがギリギリのところで右に避ける。
「くそ、追いつけねぇー」
時速は100キロ近くでているがブーストを使うBAには追いつけない。
「早く追いつかねーと、なんかの間違えでニトロなんて使われたらたまったもんじゃない」
焦りは頂点だ、そこに赤いランプ、白黒の機体、警察BA機動隊が現れた。
「そこの暴走BA止まりなさい」
しかし、BAは止まらない、当たり前だ、止め方が分からないのだから。 道を逸れバイクで階段を登っていく。やるしかない。
「とべー!!」
バイクが宙に浮く、投げ出されそうになる体を懸命に押さえ込みながら、屋根へ飛び移り、〈SDX〉に近づくことを試みる。
屋根に登ると街がよく見えた。〈SDX〉に近づくのは簡単だ、屋根をつたい〈SDX〉に近づいたスバルは意を決して飛びつく。
バイクは地面に落ち変形し火花を散らしながら数十メートル滑り壁にぶつかる。何とか〈SDX〉の腰にしがみつく。だが、左右に揺れる機体にしがみつくのに必死で登ることはできない。
機内から子供の話す声が聞こえる。
「どうするんだよ」
「キー、抜いて見ろよ」
「バカ、機体を停止させないとキーは抜けないよ」
「こ、この赤いボタン押してみるとか」
その声が聞こえたときには叫んでいた。今までこんなでかい声を出したことはないんじゃないかと思うほどの大きさだ。
「それは押すなぁー!!」
それはニトロの発動スイッチだった。ス声に気づいた子供達はコックピットから顔を出した。
「お前らー!」
「止まんないんだよ」
「どうすればいいの」
子供達は今にも泣きだしそうな顔で言う、いや泣いている。
「とっ取りあえず、アクセルを踏め」
振り落とされそうになりながら必死にいった。
「でっでもアクセルなんて…」
「いいから、そのBAはオートブーストなんだ、だからアクセルを踏めばブースターは停止する、ブレーキはそれからだ!」
「早く、あっアクセル」
「ああ」
その時ある建物が目にうつる。国立BA博物館だ。近すぎるだろ!
「踏んだら次はブレーキだ」
なかなかスピードは落ちない。あんな小さなガキが踏むには少し堅すぎるのかもしれな。最後の力を振り絞り機体をよじ登る。
「みんなもここ、押すのを手伝ってくれ」
徐々にスピードが落ちていくが、一度上がったスピードを落とすには時間がかかる。BA博物館の距離はあと約400メートル。
「間に合わねー!」
最悪だ、衝突を覚悟し目をギュッと閉じる。
数秒後、目を開けた俺の鼻先に博物館の壁があった。
〈SDX〉はギリギリの所で止まったようだ。
「たっ助かった?」
だがあの距離でどうやって止まった? ブースターの逆噴射なんて、あのガキどもに出来るわけがない。後ろを振り返ると〈SDX〉の肩部をつかむ白黒のBAの姿があった。その足下はだいぶ地面がえぐれている。
泣きわめく子供というのはどうしようもないものだ、警官はもう何時間も説教をする。子供達が可哀想になってきた。
「そんなもんでいいんじゃないか」
「いい訳ないだろう、運のいいことに死者、負傷者はでなかったものの、一歩間違えれば、どんな大事故に繋がったか。だいたい、あなたも鍵をかけずにBAから離れるとは、マナーを守れんのか、大人は子供を守る義務があるんだ」
心のなかで呟く、まだ未成年なんだが。
「それに建物を壊してるんだ」
「俺の〈SDX〉もな」
「何か言ったか」
「いえ何も」
「とにかくだ…」
と、そこでひとりの少年が話に割ってはいる。
「それぐらいで、いいんじゃないですか」
見覚えのある軍服に胸のマーク、襟に記章。
「あなたは?」
「guardian(多国家集合軍)のものです」
「guardianの、しっ失礼しました。」
警察といっても機動隊は軍の所属なので軍の関係者、自分よりも明らか若いこの少年には逆らえない。
「建物の弁償と後の話は僕がしておくから君はもう下がっていいよ」
「はッ!」
こういうとき軍というのは便利なものだ、とりあえず助かったと頭をさげる。
「災難でしたね」
その少年は俺に話しかける。
「ああ、まったくだ」
今度は子供の方を向き諭す。
「君たちがやったことは立派な犯罪だ、それは分かってるね」
「はい」三人は声を揃えて返事をする。
「BAに乗るのは14歳からだし、人の物を勝手に盗るのも、建物を壊すのもな、それはしっかり反省しないとダメだ」
「はい」
「だが…」そういって少年は微笑み話を続ける
「BAに乗りたいと思う気持ちは大切にしてほしい、今日のところは僕が責任をとっておくから君達は家に帰りな」
「はい、すいませんでした」
そういうと子供達は一礼をして去っていく。
「BAが相当好きみたいだな」
「ええ、それよりこのBA、おもしろい装備がたくさん付いてますね」
「量産型だ、改造のしすぎで原型をのこしてないけどな、最高のBAだよ」
「改造は加えれば加えるほど愛着がわいてくるものですからね」
「そういえば軍人なのか?」
「はい」
「若いのにすごいな」
「いえ、みなさんいい人たちばかりで…」
「どこの部隊なんだ」
「僕は…」
彼が話し終わる前に遠くから声がする。女の子の声だ。
「ゼロー! 何してんのー早く行かないとハザックさんに怒られるよー」
「悪いエリーすぐ行く、すいません、他に用があるのでこれで」
「ああ」
少年は走って少女のもとへ向かう。
「ハザック…懐かしいな、てことはあいつedenなのか」
ハザック、懐かしい名前だ、そんなことを思う俺の耳に聞き覚えのある声が届いた。
「あー楽しかった、最高ですね」
声の主と目があう、ヘラヘラ笑いやがって。さぞ楽しかっただろうな。
「あれ何してんですかスバルさん、うわ、なんで〈SDX〉こんなボロボロなんですか」
イライラした感情が湧きあがってくる。
「カーチェス…お前…人が大変だったときに一人楽しみやがって!」
「なっ何がですかぁー、すっスバルさん…暴力はいけ…ぐふッー」
その日カーチェスは訳も分からぬまま、跳び蹴りをくらう羽目になった。