4.海上戦、敵は空からやってくる
「ずいぶん長かったですね」
手すりにもたれ掛かってカーチェスは、ぐったりしている。俺が手に持った双眼鏡と方位磁針を不思議そうに見つめていた。
「まあな、ちょっと面白い情報を手に入れた、えっと南はどっちだ!」
方位磁針に目をやろうとするが、それより早くカーチェスはぐったりとした腕を持ち上げ、指差す。
「南はあっちです」
「ん? そうか…ちょっくら拝見…」
方位磁針から双眼鏡に持ちかえ、覗く。
「スバルさん水は?」
「あ、忘れた」
「ひどい・・・」
それは遥か遠く、ほんの一ミリ程の点にしか見えないが、確認するまでもない。あれだな。
「カーチェス、中に入ってろ」
「へ?」
「ちょい揺れるかもしれんが我慢しろよ」
「どこいくんれすか? お〜い、スバルさ〜〜ん」
向かう場所は決まっている、操舵室だ、乗組員はみな集まっていた。彼らは一様に慌ただしくしていた。
「間違いないです」
「くそ! どうするですか?」
「現状の戦力でなんとかするしかないだろう!」
「対空機銃一門でどうしろというんです」
作戦会議はヒートアップしていて、堂々と入ってきた俺に誰一人として気づきはしない。
「お困りのようですね!」
「なんだお前は」
「しがないBAライダーです、向かってくる賊、なんなら俺がなんとかしましょうか?」
「助けてくれるというのか?」
「200万セル、でどうだい?」
「にっ200万だと、ふざけるな!」
「ふざける? 別にふざけてないげど、まぁ別に船が沈もうがしったことじゃないけど、200万で助かるんなら安いもんじゃないかい?」
くっ、と奥歯を噛み締めている、選ばざるをえない、死か、生き残っても一生償っていかなければいけない問題だ。
「なんとか、なるのか? 三機もいるのだぞ」
「賊、三機がなんだよ、数百以上同時に相手にしたこともあんだ、余裕だっての」
「ん…、わかった」
船長! と声が聞こえるしかし。
「黙っとれ!」
「俺の機体、四番格納庫な、開いてなかったら、ハッチぶち破るぞ」
「わかった、任せたぞ」
「おう!」
胸が高鳴る、いいねぇこの感覚だ。敵を迎え撃つ前のこの感覚、懐かしい久しぶりだ。
機体に飛び乗り、船内アナウンスが入る。
「船内に居られる皆様に連絡を申し上げます、ほん船は賊と思われる機体を確認したためただいまより、戦闘体勢に入ります、なお揺れることが予想されますのでお客様は速やかに船内へとお入りください…、繰り返します…」
「行くぜ、相棒」
頭上のハッチが開く、同時に飛び出す、クルッと反転するとそこにはこちらへ向かってくる、青を貴重とした機体、数にして3。
「イズか、安上がりな機体だな」
三機はいずれも、量産型の機体、〈TP03ーイズ〉の改良機。サイドパックから、オロゾド鉱石製のナイフ、いわゆるオロナイフを取り出す、数あるナイフの中では最も主流。今持っているのはナイフ、一本。
問題はない、これがあれば事足りる、ナイフは 最強の武器だ、と言ったのは過去の大戦の時にナイフ一本で数十機を落とした有名なライダー。
「なら俺が、ナイフで三機倒すなんて、わけないよな」
ナイフを前に構える、こらちに気づいた敵機も警戒して止まる。敵機が持つのは、機体とは釣り合わない、少し立派な小銃、単純なことだ敵機は俺を近づけさえしなければ勝てるのだ。
さて…それができるかな。
操縦悍を前に倒す、全速前進、ブースターアクセルを踏み込むと敵機は散開する、まず狙い目は、移動せずこちらに銃を向け、引き金に指をかける機体。
「撃ってこいよ」
敵は自機を十分に引き付ける。
銃口が火をふく、高度を下げ、横に水平移動、敵機の照準から完全にそれる、瞬間、〈SDX〉は爆発的なスピードで敵機に接近する。
「いただき!」
一機撃墜。
*
スバルさんはどこに行ったんだ? ぐったりと倒れ込んだまま考えていると。
BAが外で戦ってるぞ、という声が聞こえた。
もしやと思い、甲板へ飛び出る。
「すごい」
外にでると、戦ってるのは〈SDX〉ではないか、まるで流れるような動きで敵機の銃撃の間を掻い潜り、装備したナイフで斬る。
敵機は火花を散らし、海に沈む。
「どっからでもかかってきな!」
スピーカーからスバルさんの声、残った敵の二機は慎重に様子を窺いながら、〈SDX〉の周りを回る。
「来ないなら、こっちから行くぜ!」
片方の機体に狙いをつけ、前進する。同時に後ろの敵機は銃を放つが、背に目がついているかのように、それを昇降の動きでかわす、さらに狙いを定めた敵機からも射撃、それを待っていたかのように、ブースターが火を吹く。
「ニトロブースターをあんなに簡単に使いこなすなんて」
通称、瞬間爆発推進装置、一瞬にして距離は縮む、二機目もあっさり墜落する、敵機はあと1つ。甲板にはギャラリーが増えている、珍しいものでも見るように集まる、いや実際、一般市民にはBA同士の戦いなど映像の中の話だ、僕だってそう。
歓声があがる、残りの敵機も落ちた。すごいと思った、でもこれはゲームじゃないし、ルールの決められた試合でもない、生きるか死ぬかの戦争だ、みんなはそれを理解しているのだろうか、今3つの命が消えたということを…、敵機はゆっくり海に沈んで行く。
*
「すごいな、ここまでの操縦士は初めてみた」
「どうも、金の振り込み頼むよ」
少し頭をさげる、船長は両手を広げ俺を迎え入れる。
「もちろんだ、それより我が船の専属の」
「俺は暇じゃない、やらないといけないことがあるんだ、そういう話しは無しだ!」
めんどうだし、端からそういう話しはお断りだ、船長の声に被せながらきっぱり断る。
「そうか残念だ…」
「スバルさん」
「どうしたカーチェス」
機体に乗り込むと、カーチェスも続いて乗り込む、相変わらず座席裏は荷物まみれだ。
「初めて生でBA同士の戦いを見ました」
「どうだった?」
「凄かったです、ニトロを使いこなすスバルさんには感激すらしました、でも…」
「でも?」
「なんだか、もやもやした気持ちもあるんです」
星のように輝いていた、カーチェス目から輝きが失われる、俯いたまま、続ける。
「そのもやもやが、なんなのか分からないです、けどとても大事なことだと思うんです」
俺はカーチェスの頭を撫で、笑う。
「お前は物事本質を見ようとするいい目と考えを持っている、もやもやの答えも旅を続ければ分かるさ、それはBAのパイロットになったものなら皆乗り越えなければならないことだからな!」
船が停まると直にハッチが開く。
「それとなカーチェス、お前はあいつらが死んだと思ってるかもしれないが、そうでもないぜ」
「えっ?」
「コックピットは狙ってないし、落ちたのは硬い地面じゃなく、水面だ、緊急救命装置を付けてれば溺れることもない」
「ほんとですか」
カーチェスの顔が少し明るくなる、目的地へ向け機体を飛ばす。
「ほんとに強いやつってのはそういう戦い方ができんだよ、覚えとけ」
「はい」