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2.シーナ

 彼が去ってから一年が経った、この1年で私は退屈と悲痛という言葉の意味をどれほど実感させられただろうか…。彼がいない世界は苦しく、切なく、悩ましく、憂い、私には生きていく意味がないのだ。彼は約束してくれた。だから私は・・・





「シーナ」


 それが私の名、私を呼ぶのはもうすっかり見慣れた男だ。


「雷瞬か…、どうした機嫌が悪そうだな」

「君は相変わらず無表情だ」


 私の髪と同じ色の月が見える、光が木々を照す、軍のちょうど中心には、中庭がある。思えば毎晩ここに通い空を見ている。


「無表情は私のシンボルよ」

「無いものがシンボ? 変わっているな。

やつがいたときにはそんな表情はしなかったが」


 やつ? …スバルか、雷瞬の機嫌が悪いのもそのせいだろう。


「あたりまえよ雷瞬、私は彼を愛していた」


 ばつの悪そうな表情、それを隠すように私に背を向け座る。中庭の中心には

一本の大きな気がある。天井は開かれ、そこから見上げる景色は切り取った一枚の絵のようにみえる。雷瞬も同じように見上げる。


「いや…、いたではない、今もなお愛している」

「なぜ、そこまでやつを思う、やつに何がある」

「軍にとって私は、ただの調査対象に過ぎない」


 そうだ、私は調査対象、望んだわけではない、調査対象になったのはそもそもスバルのせいだ。だが私は彼を愛している。


「けれど調査対象の私をスバルは調査対象とはしなかった、それだけの理由」


 私は立ち上がる、雷瞬を振り返らず聞く。


「スバルが敵になったなら軍の皆は戦うのか?」

「ああ」

「それは、悲しいことだな、軍の皆も嫌いではないのだが」


 雷瞬は、フッと一笑する。





「なぁシャロ、お前にとっては嬉しいことか、悲しいことか?」


 機体の前に胡座で座り、腕を組む、目の前に輝きをなくしたような黄金色の機体、NABA、BAではないBA、月咲昴が見つけてきた機体。機体名は〈シャーロット〉。


 開け放たれたハッチからは、それを照すように光が差し込む、生きているのではないかと思える。生命の流れを感じる、人のような鼓動を感じる、柔らかい質感の装甲はもはやそれをロボットだ、兵器だ、とは思わせない。有機質な機体、…いや存在。


「俺はよ、嬉しいぜ、いやちと違うな、ワクワクするんだ、こりゃなにか起こる、間違いない!」


「なに一人でブツブツ言ってるんです?」


 振り向くと若い少年が入り口からこちらへ向かって歩み寄ってくる見えた、立つほどの短い髪、顔立ちは穏やかだが、目だけは少し違う、毅然としたような感じを持つ少年、ゼロ・ショーサーは俺、直属の部下の1人だ。


「ゼロか…なに、ちょいとシャロと話していただけだ」

「機械と?」

「わかってね〜なぁ、機体と話せないようじゃお前もまだまだだ」

「なんて言ってるんです?」

「さあな」


 彼がはぁ? というような顔をしてる、それがおかしくて少し笑う。


「感じるもんだよ」

「感じる・・・」

「ガキにはまだ早い」

「ハザックはすぐそうやって子供扱いだ、いい加減やめてくれよ」

「20も歳が離れてるんだ子供みたいなもんじゃないか」

「やなんだよ」


 ムッとした顔、そういうところもまだ子供だ。


「エリーはまだか?」


 俺が聞いたのと同時だ、特徴的な赤とピンクの間、そんな色の長い髪を揺らめかせ格納庫に入ってくる。入って来るや否や、元気いっぱい、これもその少女の特徴、そんな声で言う。


「ごめんなさ〜い!」


 謝罪を元気いっぱいにされてもこまるんだよ、エリー・ザジョイよ、まったく。俺が訝しい顔をしてるのに気づいたのか、ゼロと交互に俺を見て、オロオロする。


「もしかして、かなり待ちました?」

「今来たところだ気にする」


 ゼロはエリーに甘すぎる、まぁ彼の感情など、下心など、みえみえだ。


「ほんと、よかったぁー」


 ここで甘やかすののはエリーにとってよくない、俺は心を鬼に、『おに』にする。


「よかっただぁー? 俺は二時間待ったぞ」


 寄せた眉をさらに寄せる、それだけでエリーは再び取り乱す。


「えっ、にじ、にっ二時間あ、え、あぁ、えーー!」

「そうだ、その間ずっと正座してたんだ足がしびれてしかたない」


 ニシシと笑う、これはあくまで隊の乱れを正すためで、楽しんでるわけではない。その横でゼロはため息混じりに首を左右に振る、呆れているようだ。


「落ち着けエリー、少しは考えてみろ」

「へ?」

「いいか、このおっさんは」


 こら、指差すな、おっさんはいいが、指を差すな。


「暇だから2時間も前からここにいただけで、任務は今入ってきたところだ、エリーのついた時間は妥当だよ」

「そうだよね」


 ホッと胸を撫で下ろす、なんと人の言葉に左右されやすいやつだ、俺もまだ引き下がらんぞっと立ち上がる。


「ばかもん、チームEDENのメンバーたるもの、常に先を読み行動する、お前にその意識があるならば2時間前にここへ来て、機体整備の1つでもしようとするのが妥当だ!」


 まるで演説のように大げさな手振りも加える。どうだ、どうだ、クソガキどもめが、ガハハハ。



「たったしかに、もっともです」


 またオロオロ、笑いが止まらんわ!


「はぁ〜、どっちが子供だよ、ガキリーダー」



「お前たち、何をしている、さっさと出発せんか!」

 放送だ、声の主はよく知ってる、guardian総司令、瀬戸総一郎。


「がっはっはっー、エリーのせいで怒られちまった」

「えっ私のせいですか!」


 そんな声は無視で機体に乗り込む。NABAは、BAとは違うといっても、中はそう変わらない。起動させると前面がクリアになる。


「エリー早く」

「えっあ、ごめん」


 エリーは機体に1人で乗れない、それほどの運動オンチである、いつもゼロに引っ張られやっとのことで登る。


「エリー、隊長の言葉をあまり、真に受けるな」

「うん」

「あと、ちょっとしたことで取り乱しすぎだ」

「はっはい」


 「はい」って同期だろ、ゼロが飛び降り自機へ向かう、それをエリーは呼び止める。


「いつもありがと」

「あ、ああ」


 顔赤くして、まったく。

「うぶだねー」



 左右に同じフォルムの二機が並ぶ。


「んじゃ、行きますか!」

 ブースターに点火、自機〈シャーロット〉が浮く、次いでゼロ機、赤い〈ギャラクシー〉、エリー機、蒼い〈ヴァルキリー〉も浮く。三機は飛び立つ、煌々と輝く月の夜に。






 目をあけるとやはり朝日に照らされた自機が目の前にあった、どうやらいつのまにか眠っていたようだった。横でカーチェスも延びている。


「スバルデラックス」


 略して〈SDX〉、それが機体の名前、初めてじいちゃんにもらった機体、なんとも稚拙な名前は、当時の俺が何を言われても曲げようとしなかった。稚拙と思えるのなら俺も少しは成長してるのかもな。


 寝ているカーチェスに上着を被せる、同時にガラガラとシャッターが開いた。2月の冷たい風が中に入ってきたせいで、カーチェスに上着を被せたことを後悔する、入って来たのはじっちゃんだ。


「すっかり全盛期の姿に元通りじゃな」

「いや、じっちゃん、それより遥かに高性能だよ」


 機体を見ていたかと思うと、何やら視線をカーチェスにおとし、彼を起こさないようにか、聞こえないようにか、声のボリュームを下げる。


「ちょっと話したいことがあるんじゃが~、いいかの?」

「ん、ここじゃダメな話し?」

「別に構わんが、ち~と寒い、老体にはつらいわい」

「それもそうだ」





 あれ?

 目を覚ますと上着がかかっている、体を起こし振り向くと〈SDX〉がドーン、シルバーに輝くその存在感たるや、他の機体とは一線を凌駕している。 キョロキョロ庫内を見回すがスバルさんの姿は見当たらない。




 朝だと思っていたが時刻は11時過ぎだ、工場の壁にかかっている時計を見て気づく。そこから見える事務室にスバルさんとじっちゃんがいた。


「おはようごさいます」


 暖かい事務室に入ると2人はまじまじとこちらを見つめている。


「カーチェスここへ座れ」

 とじっちゃん、なんだかドラマで見たことがあるシチュエーションだ。もっともドラマは悪いことをした息子と激怒した父親との会話だった。


「えっ…と」


 冷えた体が徐々に暖まってくる、が指先はまだ冷えた缶ジュースのように冷たい、対面するスバルさんとじっちゃんの前にはさっきまで湯気を出していたであろうカップが空になって置かれている。

 僕が座ったのは2人がそれぞれ斜め右と左前にくる位置だ。


「じっちゃんと話してたんだが」


 カップをいじりながらスバルさんは唐突に話し始めた、斜めに持ったカップが木製の机を叩きカタッと音をならす。


「カーチェスも俺と一緒に世界を見て廻らないか?」


 世界とはまた大きな話だ、だからなのか僕の頭は話についていけてない、どんなものだって容量を越えるものは、収まりきらない。


「えっ世界? スバルさんはもう軍に戻らないんですか?」

「戻るつもりはない、とりあえずは世界を見てまわりながら、やりたいことを1つずつ解決していくってのが俺のこれからだ」


 それに僕を連れてく? それに返す言葉はすぐに決められた、行きたい、世界を見たい。


「でも、じっちゃん…」


 渋面、じっちゃんはこっちを見ない、行かせたくないということ? そう思った、だからスバルさんの次に発した言葉には驚いた。


「ちなみに、これはじっちゃんの提案だ」

「えっ」


 驚いたのと同時に嬉しさも込み上げる、しかし、なぜ? と思う気持ちが一番大きい。じっちゃんは何重にも重く縛ったような口を開くと、スバルさんがやったようにカップをカタッとさせる。


「わしはBAの技師として実に充実した生涯を送ってきた、大きな企業の創始を後押しし、新しいものを多く作り、世界に1つしかないものも作り上げた」


 BA技師の先駆者、じっちゃんはあまり詳しく話してくれないが世界一にまでなった人だ。憧れるし尊敬もしている。ただそんな話をするじっちゃんがどこか悲しげだ。


「じゃが、わしにも後悔がある、ただ1つの後悔、じゃがその1つはもっとも大切なものじゃった」

「もっとも…大切」

「BAの技師にとって技術、知識は大切じゃ、だがカーチェスよ、それよりも大切なものがあるとしたらなんじゃと思う?」


 BAへの愛? ん〜違うか、BAライダーとの絆? 間違ってないと思うけど…


「世界を知るということだ」


 世界、またでてきた大きなキーワード、それを思わず復唱する、世界とは? なんて聞かれて、それを一言で答えることなんてできない。


「私は世界を知らずに今まで生きてきた、BAは工業、産業の発展に大きく貢献する、人類の宝じゃ、しかし、同時にそれは人の命を奪うことのできる兵器なのじゃよ」

「そんなことわかってますよ」

「カーチェスよ、実際に見るのと、テレビやラジオで聞く世界とは違うのじゃ、お前には目で見て、正しい判断でBAに携わってもらいたい、お前にとってBAはまだ機械いじりの単なる趣味だ、だからこそBAを、兵器をつくるということが、どういうことかスバルと見てきてほしい」


「それは大切なこと? 世界一の技師になるために必要なこと?」

「世界一の物を作るには必要ない、だが世界一の技師になるには必要なことじゃ」


 僕は世界を見たい、今はただ興味がある、それだけだ、じっちゃんの言う言葉の意味なんて半分も理解しきれない、でもそれは必要なことなんだよね。


「スバルさん!」

「カーチェス、これはお前が決めることだ、世界を見るってことは、片田舎の工場でぬくぬく日々を送ることとは違う。正直つらいこともある、もしかしたら死ぬことだってありえる」


 死、今までの生活には正直あまり関係ない、寿命がくれば自然な流れ、ただ漠然とそんな風にしか考えなかった。突きつけられた言葉はいきなり僕に世界を意識させる。そうか、たがらじっちゃんは行けというんだ。イスが倒れそうになる勢いで立ち上がる。


「僕、行きます! 世界を見たいです!」


 スバルは小さく頷く。



「これで良かったんだな」

「ああ、スバル、カーチェスを頼んだぞ」


 機体のエンジン音とブースター音が声をかき消さん勢いで響く、声を少し張り上げる。


「わかってる」

「あと、いつでも帰ってこい、ここはお前たちの家なのだから」

「寂しいのか?」

「当たり前じゃ!」

「はは、そっか

じゃ行くわ!」



 乗り込んだ機体はすぐに浮き、空へ飛ぶ、徐々に小さくなるじっちゃん、工場、街、カーチェスは見えなくなるまで手を振っていた。


やっとスタートラインにたった、俺たちの旅が始まる!

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