表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1.月咲昴

natural-blue、第一部の書き直しです。かなりの変更点(追加、カット、訂正)があります。完結いたしましたら元の方は消す予定です。第二部と同時進行なので更新は2週に1回になります。どうぞよろしくお願いします。

 本当のことが知りたい。そう思うことが間違いなら裏切り者といわれようとも俺はレジスタンスになってやる。




「本日12時ちょうどをもって、月咲昴を釈放する」

 国際軽度反軍者収容所、大層なお堅い名前をもったこの場所は、その名の通り軍に反した者で比較的罪の軽いものが収監される。比較的軽い罪というのがどういう基準で決められてるのかは、わからないが、軍の総司令官を殴り付けたら、1年間ここにお世話になるようだ。


「どうした、早く行かんか」


 日は高い、一年間この場所に縛られっぱなしだったのだ、急にどこかに行けと言うのもな、まぁ出る前はいろいろ考えていた、しかしいざ出ると。


「なあ、おっさん、これからどうすりゃいいんだ?」


 収容所で1年世話になった、おっさんにそんなこと聞いて何になるんだ俺、ため息がでそうだ。


「そんなもん、ワシは知らん」


 だよな…


「じゃがもうここに戻って来るようなことはするなよ、お前はまだ若い十分やり直せる」

「ああ」


 1年間収容されてた、このおんぼろの錆びた鉄の塊を外からまじまじと見るのは初めてだ。


「本当は分かってるんだ」

「ん?」

「何をすればいいか」


 やることはわかってる、ただやることが多くて何から手をつければいいのかはわからない。


「まぁ時間は腐るほどあるんだ、精一杯やってみるよ」

「頑張れよ、青少年」






 いつからだろうか軍に憧れだしたのは―。

 いつからだろうか軍に不信感を抱くようになったのは―。


 父が軍人だった、母も軍人だった。父は優秀な戦闘員で、母は優秀な医療隊員だった。


 10年以上も前の話だ、両親が死んだと聞かされた当時は幼かったから、それを聞かされてもよく意味がわからなかった、その時の記憶も曖昧だ。じいちゃんもいたし、血は繋がっていないが弟もいた。だから軍に入るまで両親の死について考えてこなかった。ただ優秀だった、父と母のように自分も優秀な軍人になりたい、そんな思いしかなかった。






「おおー」


 国立BA闘技場、目の前のドーム状の巨大な建物から金属の摩れ合う音が外まで漏れている、自分でも気持ちが高ぶるのがわかる、心臓が早くなる鼓動が高鳴る足が勝手に動く。



 階段を登りきり、場内に響く歓声を耳にする。

 『BA』、鋼鉄の鎧を纏う巨大な人型兵器、闘技場内には2つの機体がある、闘技場なのだからその2つの機体は今まさに闘っている。

 やばい、どうにかなりそうだ、気が緩むと何かを大声で叫んでしまいそうだ。いや、叫んだところでこの歓声だ、誰も不思議に思わないだろう。


「あぁーーーッ!」


 と思っていたが、まぁ、怪しい者を見るような目もあるわけだ、叫ぶにしてもあーッはないよな、でもスッキリした、俺もBAに、あの巨大な機体に乗りたい、乗りたい、乗りたい。



 そういうえば列車が来る時刻までそうない、ほんとやばい。


「マドラント発、ヒュースト地方行きの列車、まもなく発車しまぁ〜す」





 頭の中はBAのことで一杯だ、ゆっくり開く列車のドアが煩わしい、炭酸が弾けるように飛び出した。


ただいま故郷。

おかえり自分。




 懐かしい街、たくさんの機械工場が並ぶ、小さいが活気の溢れる街、走れば肩がぶつかるメインストリート、そこを抜けると質素な作りだが無駄に面積だけは広い工場がある、工場横には大きな看板もある。


 『豊吉BA工場』


「ただいま、じっちゃん」

「んぁッ、誰じゃあ!」


 声は聞こえるが、姿は見えない、こんなの時は決まって仕事中なのだ。


「俺だよ、じっちゃん」


 ドンと置かれた巨大なBAのエンジン、その下からするするとでてきた老人は、顔を真っ黒に汚している、その老人は目を細めまじまじと俺の顔を覗き込む。


「ぬぁ? おおーもしかして椿か!」


 残念…


「孫の顔ぐらい覚えとけよ、椿は俺の母ちゃんだ!」

「ん〜、…てことはスバルか!」

「そうだよ、じっちゃん」

「ずいぶん、長い間帰ってこんで何をしとったんじゃ?」

「手紙かいたんだけど」

「手紙?」


 まっ、予想の範囲内だ。


「俺、軍を止めたんだよ、じっちゃん」

「軍を、ということはついにワシの後を継ぐ気になったんじゃな」

「そうじゃないよ」

「じゃあ、何しに帰ってきたんじゃ」


 孫が故郷に帰るのに理由が入るのだろうか、理由はあるのだけど…


「相棒を向かえにきたんだ」

「〈SDX〉か!」


 〈SDX〉、それが俺の乗る機体。


「SDXなら、ガーレジの方じゃ」


 ガーレジね、それも変わってない。


「わかった、見てくるよ」

「何も整備しとらんからのがっかりするなよ、あとガーレジの鍵はあいとるからの」

「わかってる、あとじっちゃん、ガーレジじゃなくてガレージな!」





 大きなガーレジもとい、ガレージには2つのシャッターがある、1つは人の出入りのための小さなシャッター、もう1つは機体の出入りのための大きなシャッター、小さい方を勢いよく開ける。

ガラガラといきたいが、錆びているのか、なかなか力がいる。

 窓から差し込む光だけが僅かな光源、朝の光は舞い上がる埃をキラキラと輝かせる。


「よう、元気にしてたか?」


 返答なんてない、相手は機械だ、だが…。


「元気ないよな」


 電気をつけると軽やかに機体を登り、比較的小さなパーツを取り外せるだけ取り外していく、機体チェックだ。


「こりゃずいぶん…」


 機体のあちこちには錆、エンジンも使い物にはならない、かなり大がかりな修理が必要だ。


「待ってろよ、今綺麗にしてやるからな」




 棚には工具がところ狭しと置かれている、昔使っていた繋ぎはそのままだ、そのままということは、数年ぶりに着る俺には少し小さい、必要なのを片っ端から手に取りに工具箱に詰めていく。すぐに一杯になったそれを運んでいると足音が聞こえる、だが重い箱のせいですぐに振り向けない。


「スバルさーん」


 ガシャーン、と工具が散らばる、振り返る隙を与えず、タックルするように抱き付いて来たのはカーチェス・ストラムだ、血は繋がってないが弟だ。


「いつつ、カーチェスいきなりだな」

「すいません、嬉しくてつい!」

「お前はワンコか!」

「えへへ、修理するんですか?」

「ああ」

「何か手伝います!」


 ああ、変わってないな、久しぶりの、カーチェスを見て思う、幼い顔立ちに女性なのではと思うほどの華奢な体、そして特徴的な大きな瞳、好奇心の塊のようなその目は気になることにまるでレーダーのようにキラキラと反応する。

水色に黄緑を混ぜたような色のツナギには、油なんかで汚れたのであろうか、所々黒ずんでいる。


「そうだな、足りない材料を揃えてくれないか?」

「何が足りません?」


 振り向いて再び機体をみる、ふーっと空気を吐き出す。

「全部だな」






 世界最先端の科学技術、軍事産業が結集する軍事メガロポリス、アーク、静まり返る夜の帳に煌々と建ち並ぶビル、工場、その中心にあるのが多国家集合軍、通称guardianの本拠地ノアである。


 カツカツ、不機嫌そうな足跡が廊下に響く、廊下に蛍光灯の灯りが等間隔で散りばめられている。


「腹が減ったな」


 俺、瀬戸雷瞬は腕にはめた時計に目をおとす。後ろに続くのは2メートルもある巨大な2人の男。


「隊長、今何時?」


 そう聞くのは右後ろを歩く大男、ビル・アーベック、スキヘッドの頭に黒い肌、厳つい外見とは裏腹に円らな瞳が彼の性格を物語っている。


「7時前だ」

「あら、ちょうどいい時間じゃない、夕食にしましょ」


 そのしゃべり方に似合わない貞操のこちらも大男、オルガノ・セントルイス、道化師のような厚い化粧に長い髪、クネクネした体の動かしかた、図太い声質にそぐわないしゃべり方の彼は左後ろを歩く。


「そうだな」


 三人一組で行動するguardianの特殊部隊、三人で歩くのも随分慣れたものだ、同じチームになってから1年以上経つ。

はたと足を止め、2人の方へ向く。


「ビル!」


 蛇に睨まれたウサギのようなビル、俺の顔はそんなに怖いか? さすがにずっと一緒にいれば俺がなにを言うかわかるか。


「はい!」

「今日の戦闘は良くなかった、敵の行動を先に読めといつも言っているだろ」

「すいません」


「オルガノ」

「はい!」

「援護に移るときの状況判断が遅い、あれじゃ俺もビルも安心して敵に攻撃を仕掛けていけない、気をつけろ」

「すいません」


 ため息を吐く、説教は別に滅多なことではない、だが今日は特別動きが悪かったわけではない。自分の部下にあたってどうするのか、とんだ上官だ。イライラの原因は一目瞭然だ。




 食堂に入ると先客がいる、食堂、兵舎、入浴施設は通常部隊も特殊部隊も共用だが先客の彼以外は誰もいない。ビルとオルガノは彼が上官というだけのことはあって挨拶をするが雷瞬は無視だ。

適当に料理を選びわざわざ端の席に腰をおろしたというのに先客の男はその前の席に移動する。


「なんだ」

「なに、怒ってんだよ」

「怒ってない」

「思春期ってやつか」

「無駄話がしたいなら他所へ行ってくれ」


 男はゲラゲラ笑う、口と顎の髭が特徴的、軍での立場的には同じものの年齢は40代だ、基本スタイルは自由、空気など一切読まない、それが彼ハザック・バルド。


「ハザックさん、あんま隊長をからかわんでください」


 ビルがその横に座りながらいう、同時にオルガノは俺の横に座る。


「悪い悪い、で雷瞬、その様子から察するに昨日がなんの日か分かってるみたいだな」


 ああそうだ、機嫌が悪いのも確かに昨日からだ。


「昨日何かあったんで?」

 ビルは聞く、オルガノもわかっていない様子だ。


「月咲昴だ」


 自分の眉がピクリと動くのがわかる、オルガノはどうやら気づいたようだ。


「それがどうかしたんで?」

「軍にいるんだ、月咲昴くらい知ってるだろ?」

「それは知ってます、瀬戸総司令を殴って軽反所に入れられた人でしょ」


 瀬戸総司令、俺の父親だ。


「その釈放日が今日なんだよ」


 ああ、それでといった表情…ビルもようやく理解する。ハザックは相手を俺に戻し再び話を始める。


「で、どうすんだよ」

「なにがだ!」

「やつが、レジスタンスになったらだよ」


 ギロっとハザックを睨み付ける。

 どうする? そんなこと決まっている。


「捕まえて、今度は重反所に入れる、それだけだ」


 それだけ言うと、茶を飲み干し、トレイを持って立ち上がるまだ半分も食べ終えていない、もちろん少食ではない。


「捕まえるってお前にできるのかよ」


 背中に言葉を浴びせかける、捕まえられるさ俺なら! そのまま食堂をでていく。





「ハザックさん、隊長すごく怖かったですよ」

「実力はあっても、あいつはまだまだだな、自分の感情を他にばら蒔きすぎだ」

 ガキだな、と付け加える。


「で結局なんで昴って人は捕まったんです?」


 そりゃ総司令殴ったからだろう、とでも言いたげな表情をしてみせると、慌ててビルは付け加える。


「だって、総司令を殴っただけで1年って酷すぎませんか?」


「確かにそうね」


 とオルガノ、ビルはスバルが捕まったときguardianの特殊部隊にはいなかったので詳しい事情は知らない、しかし特殊部隊にいたオルガノも実はあまり詳しくはしらないのだろう。2人は困ったような表情でこちをみる、めんどくせぇ、野菜サラダを口に運ぶ、事情は知っている。


「あいつが総司令を殴った理由が大きな問題になったんだ」


 理由? ビルもオルガノも同時に言う。1年も軽反所に入れられる理由が思い付かないようだ。


「俺も詳しくは知らねーんだよ、ただなんか悪い実験をしてた科学者を擁護しようとして総司令を殴った、それでそいつと共犯にされたみたいだな」


 面倒くさくなった、残ってる食べ物口に詰め込む、同時に任務にでも行くか! と立ち上がる。二人は目を丸くしたまま呆然と俺を見ていた。 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ