"都市"
朝
アパートの玄関の扉を開くと、足元に紙袋が落ちて居る事に気が付いた
開ける間でも無く
袋から立ち昇る臭気が、中身が酷い物で在る事を伝えて居る
それでも我慢出来ずに中身を覗いて、僕は、うっ、と思わず声を漏らした
中には、ここに書くのすらが憚られる様なものが詰められて、酷い臭いを放ち続けて居た
とはいえ、朝は忙しい
僕はそんな事で立ち止まるべきでは無い
辺りを確認し、誰もアパートの廊下に居ない事を確認した上で二軒隣の扉の前に紙袋を避けると、僕は会社に向けて階段を降りていった
夜
帰宅すると、また僕の部屋の扉の前に紙袋が在った
確認しなくても解る
あの袋だ
不愉快さと共に袋を手に取って、別の部屋の前に置こうとする
階段を登る足音が聞こえて来た為、僕は慌てて朝とは逆側の隣室に袋を置き、なるべく平静を装いながら自室の玄関を潜る
入って直ぐのキッチンの磨り硝子から、息を殺して廊下の様子を窺う
とん、とん、と階段を上がって来た足音はよりによって隣室の住人だったらしく、足音の主は無言で袋の前と思しき場所で立ち止まる
───視られて居ませんように
必死で頭の中で祈って居ると、隣室の住人は紙袋を拾い上げ、更に別の部屋の前にそれを静かに置いた
急にこそこそと機敏にし始めた足音が、隣室の中に消えていく
ドアの閉まる音
そこから先は、耳を澄ましても何の情報も無かった
週末
友人と出歩いて居ると、彼が静かな喫茶店に居る時に「実はさ」と話し始めた
「引かないでね?」
「本当に赦せない奴が居て」
「そいつの部屋の前に、☓☓☓☓☓を捨てて来たんだ」
「理解出来ないかも知れないけど、結構やったら愉しくて………」
「でも、後悔もしてるんだ」
「と云うか、バレたらどうしようみたいなさ」
そんな事で今更引くかよ、と僕が云うと
彼は「ありがとう」「でも、多分そうだと知ってたから話したんだけどね」と笑った
僕も笑って、その日はそれで彼とは解散した
帰り道
不意にアパートの二階の廊下を視ると、紙袋が捨てて在った
あの紙袋だ
様々な事が頭を巡ったが、答えを解る為には情報が足らな過ぎた
別のアパートの廊下にも紙袋が落ちて居た
その他のまた別の、或いは更に別のアパートの廊下にも、誰かの部屋の前に紙袋は落ちて居た




