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─【五】─It will be rainning, but … <part2>



お待たせしました(´・ω・)ブラックです


ちょっと忙しくて更新が遅れていました(泣)


今回はアクションなしですが読んで貰えれば幸いです(´∀`)



あと、登場人物のところに挿し絵を実験的に配置ヽ(^∀^)/


他の絵も書いていくんでよろしくです〜


ではどうぞ→



一体どれくらいの間 助けを呼ぶ声を 無視してんだ


その背中に張り付いた 泣き声の主を 探すんだ


前ばかり見てるから なかなか気付かないんだ


置いて行かないでくれって 泣いて すがる様な SOS




聴いた事ある 懐かしい声 なんか随分 大切な声




ひとつずつ ひとつずつ 何かを落っことしてここまで来た


ひとつずつ 拾うタメ 道を引き返すのは 間違いじゃない──






───出典、BUMP OF CHICKEN「ダイヤモンド」より抜粋。






溝ノ口エリア駅前地区─


ある雑居ビルにBHUのボス、山中智美は居た。


「ねぇ、まだなのかしら?もう一時間経つわ。」

イライラしたように呼び掛ける。

しかしその相手の姿は見えない。

代わりに部屋の奥の鉄製ドアから何かが聞こえた。


「…待ッテクレ、セキュリティガ堅インダ…デモモウ少シ…」

聞こえてきたのは、人の声を真似た合成音だった。性別の区別さえつかない異質な機械音…何度聞いても嫌な音だと山中は思っている。


「セキュリティねぇ…そんなに厳重に何を隠しているのかしら…」

自慢ではないが、山中は自分でも結構情報処理ができると自負していた。

そうでなければとても一会社の責任者はつとまらない。

その山中が全く歯が立たなかったのが今回の戦利品、大量の記憶媒体だ。セキュリティが厳しく、パスワードと暗号化がいくつもかけられている。

今の時代、情報は金に等しく価値があるものだが中身を知らないのでは、価値もつけられないし、誰に売っていいのかもわからない。

ただここまでの厳しいガードが施されているなら必ず価値ある情報だと山中は考えていた。

徹夜同然に解析を続けたが、全く進歩がない。


そこで山中はプロに任せることにした。

自分の会社の一員であるはずなのに素顔すら知らないこの天才ハッカーに。


腕だけは信用できるが、人としては信頼できない。


今はそういう時代だ。気安く心を許せる時代ではないのだ。


「─“K”、早くしてちょうだい」


「ソウ急カスナ、後1分30秒で解析ハ終了スル」

“K”と呼ばれた姿無き声はイラついた感じに聞こえた。


「じゃあ後少しね、中身が気になるわ…」

そう言って山中は暇そうに視線を泳がせた。

この部屋には装飾品と言うものが全くない。

薄暗い室内には中央に簡素なテーブルとパイプ椅子が置いてあるだけだ。

他には何もない。驚くことに塵やごみもひとつも落ちていない。なんていうのか、人が住んでいるような空間ではないのだ。


部屋でただ目立つのは、入ってきた反対正面にある重厚な鋼鉄製のドアが取り付けられていて、山中がいる方からは開きそうになかった。

“K”の声や途切れることのないキーボードを叩く音がその向こうから聞こえてくる。

山中はその向こうに入ったことはなかった。



──、ピィー、ピィー、ピィー…


ありきたりな電子音が殺風景な部屋に響く。


「パスワード解除、暗号解析完了…ボス、全テ終了シタヨ」

再び人工的な声が言った。


「礼を言うわ、“K”…。私じゃ手がつけられないもの。」

昨日の夜の解析のせいで彼女の目は真っ赤に充血し、隈がはっきりと出来ていた。

恐らく彼女の形相は相当壮烈なものだろう。

レイが山中に合っていたら腰を抜かしたに違いない。


「世辞ハ要ラナイヨ、ボス?」


「謙遜するのは良くないわ、こんなこと出来るのは私の知ってる限りあなただけよ。」


「確カニコレヲ解析出来ルノハアマリ居ナイ…………デモ、コノ情報………町ノ連中ニ知ラセタ方ガイイ…」


「…?…なんですって?」


「見レバワカル」

鋼鉄製のドアの向こうで、何か音がした。


ドアの下の方のからだ。

ちょっとした小窓が付いており、ガコッという開閉音と共に開いた。

小窓の向こうには底知れない闇が佇んでいた。


山中はふとなかを見てみたい気持ちにかられたが、その小窓から例のCD-ROMが出て来たので、そっちに興味は戻った。


ガラガラ…という音と共にケースに入ったそれがいくつも出てきて落ちる。

最後に分析結果らしい紙の束がひらりと出てきて、そのCD-ROMの山の上を舞う。


───ガチャン!


小窓が閉められたのはそれと同時だった。


紙の束を引っ掴んで、山中は貪るように読んだ。


「こ、これって…………」


「カネニナル情報ナンカジャナイ、コレハ危険ダ」


「…冗談にできる話じゃないわ、連絡よ」

彼女は紙の束を粗末なテーブルに叩きつけ、携帯電話を取り出した。


「…“会議”を開く必要があるわね…」

彼女の知っている人々に片っ端から電話していった。

テーブルの上に乱暴に置かれた書類には、ひとつの国旗が見える…


赤と青のストライプ(縞)…青地に浮かぶ数多の白星…

─【United States】だ…


──────────

───────

────



「…で、これはどういう状況なのかな?」

事務所に着いたレイは途方に暮れていた。

事務所の中は、想像を絶する光景だった。


目の前に広がるのは、書類、本、CDケースの山…


一面に色々なものが散乱している。まるで下手な泥棒が入ったみたいだ。


「…山中のヤツだ…」

書類の山だと思っていたものがモゾモゾ動く。よく見れば煙が出ている。火事…出はない。鼻をつく臭いはタバコのそれだ。


「うおぁっ!?村仲のオッサンか?」

誰も居ない空間に問いかけただけで答えは期待してなかったので、レイはいささかビックリした。


「…ああ、車のメンテを終えてソファで昼寝していたらこのざまだ。まったく…」

村仲がゆっくりと起き上がると無数の書類がバサバサと落ちてゆく。


「何があったのさ〜?」

レイは村仲とテーブルを挟んで向かいのソファに座った。テーブルの上も書類に占領されており、邪魔なことこの上ない。

書類を一つ取って見てみたが、難解な数式の羅列が続く意味の無いものだった。


「…この前の件の膨大な情報を…」

「あ〜、そこら辺はリンから聞いてる。」

レイは話を遮った。


「…そうか…なら話が早い。山中が分析をしていたんだがな、コンピュータウィルスが紛れ込んでたらしくて情報機器が全部イカれたと山中が嘆いていた。その後であれだ…」

村仲が一旦話を切って部屋の向こうを指差す。

その先には印刷機が置いてあった。


「…あれにウィルスが移ったらしい。勝手に大量印刷し洪水みたいに吐き出してこうなったのだ…」

言い切ると村仲は疲れたかのようにため息を吐き出す。この人がこんな長くしゃべるのは珍しい。それだけ酷い光景だったのだろう。


「で、ボスは?」


「…言わなくても解るだろう?我慢の限界でぶちきれた。そのまま“K”のところに行った…」


「あ〜、そりゃ怒り狂うわな…」


「…ヤツは元から狂っているようなものだがな…」

タバコをふかしながら村仲はニヤッと笑った。

この人とボスの関係は、レイのそれより長い。

昔何が起こったのか知らないが、良いことではなさそうだ。



「…ってぇ あれ、リンは?ここで待ってる、て言ってたんだけど」


「…そういえばまだ帰ってない。一緒じゃないのか?…」

村仲が吸いかけのタバコを片手に質問したときだった。


────バッアァン!


「すまねぇ、レイ! あんまん買ってたら遅くなっ………ってなんだよ!この部屋!?」

小脇にあんまんの袋を抱えたリンが、蹴り開けただろうドアの向こうで棒立ちになっていた。

部屋を見た感想がレイと同じなのは、偶然の成せる技に違いない。


「よぉー、こっちこっち」

レイが入り口にいるリンに呼び掛ける。

声が聞こえてはじめてレイ達に気づいたようだ。


「レイとオッサンいたのか! どういうことだよ、これ?」

リンはテーブルまでズカズカと散乱した紙の束を容赦なく踏みつけながら近づいて来た。

テーブルの上にドサッという音をたてて、あんまんの袋が降ろされる。


(いったいいくつ食う気だよ…)

明らかに一つ二つではないことは確かだ。


リンはレイの隣に腰をかけた。


「…? なんか文句あるか?」

レイの視線に気付いたのか、リンが眉をつり上げて睨んだ。すでにあんまんの一つを手に取っている。


「…い、いやぁ〜、太りますぜ、リンお嬢さん?」

ちゃかして笑う。

当然のごとく剛腕(あんまんを持っていない方)が飛んできたので辛うじて避けた。


「─ふん、余計なお世話さ。」

しかめ面のリンが言う。すでにあんまんがその手から消えているのは幻覚か…?


「で、どうなのさ?」

リンは先ほどの質問を繰り返した。


「…朝、記憶媒体の分析…」「あ〜!めんどくせぇ!」

レイが村仲の説明を遮る。あの説明は長ったらし過ぎる。リンなら一言で理解するだろう。


「要するに…………ボスだ。」

「あぁなるほどね」

レイの一言簡潔な説明で事足りた。


「でぇー、リン?なんでここに俺を連れてきたのさ?」


「あっーと…ゴクッ…そうだった!仕事さ♪ 緊急のな。」

頬張っていたあんまんを無理矢理飲み込むと、機嫌よくリンは言った。

既にあんまんの袋はしぼみかけている。


「緊急のねぇ…、依頼人は誰だよ?ボスを通さなくていいのかぁ?」

のんきな調子で聞く。本来依頼人との接触はボス、山中がしている。山中が居ないのにどうやって仕事をとったのか…。


「あぁ、それはな…」

「…俺の依頼だ。悪いか…?」

「村仲のオッサンの依頼!?どういうことだよ?」

村仲が二本目のタバコをスパスパしながら答えたので、レイは面食らった。


「…ガソリンだ。今日のメンテでも確認したがもう貯蓄が終わる…補給しなければ車とドライバーなしで仕事することになるぞ?…」

無表情で村仲が言うのでかえって緊迫感がある。確かに車が動かなければ、彼はお役ごめんだ。


「マジかよ…ガソリンがないのかぁ〜」

「…正確には前の仕事の収入で補給するつもりだったが、ただ仕事同然だったからな…」

吸い終わったタバコを捻り潰し、村仲は唸った。


「…現物奪取だ。タンクローリーを奪う。…」

「そりゃ大胆で物騒な…」

レイはあきれたように腕くみしてソファの背もたれに背中を預けた。


「まっ、もう埼山の野郎からガソリン関係の情報は買ったのさ。」

リンはあんまんの最後の一つを口に放り入れて飲み込むと、くしゃくしゃに折り目がついた一枚の紙を取り出した。

そいつをレイの目の前でひらひらと振る。


会社らしい高層ビルと小型のタンクローリーが多数駐車している写真が載っている。

ビルの側面とタンクローリーには会社のロゴなのだろう“NEG”と描かれていた。


「巨大企業“NEG”。そこに燃料集積所があるんのさ」

写真を指差し、リンは言う。


「…そいつを奪う。そのままな…」


「ふ〜ん、情報は確かなのかぁ?」

「…アイツの情報は信頼できるからな…」

溝ノ口の情報屋、埼山は情報の信頼度の高さで有名だ。情報は正確さが命なのである。


「外見は小型だがあたしたちの会社て使うには有り余る量だ。奪って損はないよ♪」


「なるほどぉ…やってみますかぁ!」

レイは承諾した。こんなにおいしい話はそうそうない。事は急げだ。


「よし、そうと決まれば早速行くぜ!オッサン、車出せるか?」

ソファから腰をあげてリンが言う。


「…行きだけだ。ガソリンが足りんからな。帰りはタンクローリーに乗って帰る。…」

そこまで貯蓄が少ないのかとレイは驚いた。

それならこの仕事は失敗できない。


「…とにかく失敗すれば帰りは歩きだ…」


「りょうかいっ!行くぜ♪」

リンが我先にと事務所を飛び出していった


続いて村仲がハマーのキーを持って出ていく。


最後にレイが事務所を後にした。


レイは頭上を見上げる。


薄暗い雲が広がり雨が降りだしそうだ


(なんだか天気わりいなぁ……灰色か…気のせいだな)


「おいっ、レイ! 早くしろよ!!」

車庫の方でリンが叫んでいる。


「あぁ…今行く!」

レイは灰色の空から目を背け、ハマーに乗り込んだ───…








…───“あの日”もこんな空だと思い出しながら。


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