─【四】─Snatch away from them!
色めきたつ ネオンサイン
汚れた街 行き交う人波
君は明日に 何を見る
君の明日は輝いているか?
TVニュースが繰り返し
僕に投げつける世界
もう 当たり前のことかの様に
僕がこの世に命授かりしは偶然なのですか?
僕がこの世に命授かりしは必然なのですか?
君がこの世に命授かりしは偶然なのですか?
君がこの世に命授かりしは──……
─────出展、road of major「偶然という名の必然」より抜粋。
神奈川県北部川崎地区
“旧”尻手黒川幹線道路。
時は正午。
頭上に上がった太陽は、地上のあらゆるものを照らしていた。
真っ昼間の広い道路の路端にカーキ色の四輪駆動車ハマーが駐車している。
巨大な車体は二車線の道路に乗り出していたが、道路の交通量は極めて少ない。
他の車が幾度か、通り過ぎただけだ。
かつては川崎を縦断し、“工業都市川崎”の基盤となった大型幹線道路、尻手黒川線はほぼ廃線状態だ。
二十数年前、日本経済が崩壊すると同時に、近代輸送形態の要の石油は、ほぼ国内に入ってこなくなった。燃料が枯渇した国内では、自動車における活動は出来ないのだ。
かろうじて車を動かせる者達、すなわち闇ルートでの入手、巨大企業で独自に海外に、輸入のパイプを持つ団体。あるいは彼らから燃料を奪取したものだけが車という移動手段を使用できる。
現に、ハマーの窓から見えた通過車両は、いかにも輸送会社のものらしいジャンボトレーラーと、チンピラのおんぼろ乗用車が数台だけだ。
ハマーの前後の歩道には、乗り捨てられたのだろう、あらゆる種類の車両が放置されていた。
ほとんどが錆びにまみれているか、解体されて部品の山となっているものばかり。
─自動車の墓場だ。
放置車両の隙間にハマーは、目立つ巨大な車体をなんとか隠していた。
「…標的の情報は?…」
ハマーを操る初老の男、村仲はタバコに火をつけながら助手席の女性に尋ねた。
「東柴コーポレーションの輸送トラックよ。依頼人の情報なら午後一時前後に、ここを通過するはずなの。レイ、リン、見逃さないでね?」
依頼内容の書類らしいものを読みながら、助手席の女性─山中は後ろの席に座る2人に呼びかけた。
「あいよ〜、ボス。標的に護衛とかついてるのかねぇ?」
双眼鏡で遥か遠くの路上を見ていたレイは、尋ねた。
「そこまでは依頼人からは知らされて無いわ。でも相手は一流企業よ。護衛つきは間違いないわね。」
「あ〜、面倒臭っ!」双眼鏡から目を離して、あくびをしながらレイは文句をいう。
「大企業からの情報奪取か…依頼人も大企業なのか?」
窓を開けてレイと反対方向を眺めていたリンは、山中に振り返った。
「さあね、匿名での依頼だからそんなの解らないわ。」興味なさげに言い放つ山中。
「絶対大企業だ。まったく、企業同士の対立なんかにあたしらを巻き込まないでほしいよ。」
リンは窓から乗り出したまま、腕組みして呟いた。
…平穏時代が終わりを告げ政府という名の枷が外れた日本では、企業は合体融合を繰り返し巨大な社会組織と化した。
今となっては昔話に語られる“WW2(World War 2)”以前の財閥の様な、血縁企業ではない。
法の束縛から解放され、規制もくそもなくなった日本国内で、企業はそれ自体が異常増殖し“小国家”とも言える異様な支配体制を作り上げた。
国家のさまをなす企業同士の対立は、むしろ国家間の対立に等しい。
─強いものが生き残る─
世界の国家から数多の動植物までにも当てはめられるこの法則が絶対だ。
所詮この世のことわりとは金と暴力、それらによる支配に過ぎない。
「…必要の無いことには頭を突っ込むな…これが俺達の掟だ…忘れたか、リン?…」暇そうにタバコをくわえながらハンドルに手をかける村仲が呟く。
「ん…わかってるよ、村仲のおっちゃん。」神妙な顔でリンは遠くを見つめていた。
…視界の遥か向こうで何かが揺らいだ。
一直線に続く道路の地平線に動くものが見える。
だんだんと大きくなる…近づいているのだ。
次の瞬間、その動くものの正体がわかった。
「………! 車だ! しかも複数来るッ!」
たしかに見えた。でもリンの肉眼ではこの距離で細かいところまでは分からない。
唯一双眼鏡を持つもの…レイを見ると、彼はまだ車を探していた。
「リン〜、どこに見えるんだぁ?わかんねぇ。」
レイは双眼鏡をあちらこちらに振り回していた。
「南部川崎方面だよ。早く詳細教えな、レイ?」
「ピントがぼやけて…」
ぼやぼやしている間に点のような車の姿は豆粒くらいになった。
「あぁ!もう!貸しな?レイ!!」
レイの手から双眼鏡をもぎ取ると、再び車らしきものを見てみた。
──トラック1台に護衛車3台─中々のスピードでこっちに向かって来る。
既に双眼鏡なしでも車種が判ったが、リンの持つ双眼鏡はトラックの荷台のコンテナに、“東柴”のロゴがあるのを捉えた。
「“東柴”のロゴ!間違いない、標的だ!!」
双眼鏡にかじりつきながらリンが叫ぶ。
「あらあら、護衛に3台なんて足りると思ってるのかしら。」
見張りをリンとレイの二人に任せていた山中は、近づいてくる一団を一瞥すると、呆れたようにいった。
─ドゥルルルルン…ガゴッ
「…数など関係ない…質だ…」
アクセルをふかし、ギアを入れ換えながら村仲が呟く。吸っていたタバコを窓から投げ捨てる。
「やっと来たか〜、暇だったなぁ」
懐から、拳銃ベレッタM92Fを取りだし、レイは不敵に笑った。
護衛車両で挟んだトラック達は今では近くに迫り、ついにレイ達の乗るハマーの隣を、北川崎方面に走り抜けていった。
「なかなか速いわね…さぁ、“野郎共”…狩りの時間よ?」
─ドゥルルル…ブォンッ!
「…しっかりつかまれ…」
しっかり暖められたエンジンが咆哮を上げる。
─ブゥンッ ズガァァン!
轟音とともに前方にあった廃車を吹き飛ばし、ハマーは弾丸の様に発進した。
「…ふん…カーチェイスなんて久しぶりだな…」
巨大なハマーを操る村仲はニヤリと笑った。
「嬉しそうね。連中相当慌ててるみたいよ?」
山中はそう言いながら目の前に置いてある無線機を指差した。
「…ガガ…不明車両…追跡されている…ザザ…振り切れ…救援…ハマー…ガガ…」
途切れ途切れの会話が雑音に混じって聞こえていた。この特別製の無線は傍受機能付きだ。相手の会話が筒抜けである。
「ふ〜ん、良い仕事するじゃん、アイツ。」
お気楽な声はレイ。
「これで引きこもりでなきゃ完璧なのにねぇ〜」
ここにはいない仲間の悪口を言いながら、レイは窓を開けた。凄まじい風が車内に吹き込む。
「…そう言うな…ヤツにはヤツなりの仕事がある…」
「そうかねぇ〜」
風の音にかき消されそうな呟きをレイは言った。
「え〜と、トラックの前に護衛1台、後ろに護衛2台かぁ。てか、あっちもハマーあるじゃん。」
吹き抜ける風に目を細めながら、ひときわ大きい車体に気が付いた。
「…望むところだ…」
村仲はさらに速度を上げる。
「…ガガ…銃器…許可…ザザ…用意…」
無線がいっそううるさくなる。
「物騒なやつらだ、銃用意してるよ?」双眼鏡を手にリンが叫ぶ。最後尾のバンの窓を通して、銃の影が見えるのを彼女は見落とさなかった。
─ガチヤッ、タタタタッ!
バンの後部が開いたと思うとチカチカと銃火が瞬く。乾いた銃声が響いた。
「気が早いのね。撃ってくるなら撃ち返すまでよ。」
山中はそう言いながら、車内の天井のサンルーフを開ける。
─ガチャ
ハマーの天井の部分にはなんとM2重機関銃が装備されていた。
「淑女に乱暴な事をする男どもにはお仕置きしなきゃね?」
満面の笑みを浮かべながら彼女は引き金を引いた。
─ズガガガガガガッ!ダダダダダッ!
護衛車のアサルトライフルとは比べようもない大きな銃声が轟く。
遥かに太い火線が最後尾のバンを貫いた。
車体が飴細工のように引きちぎられ、12,7mm弾が雨あられのごとく叩き込まれた。
─ダダダダッ ズッガァァァン!!
突如被弾したバンはガソリンに引火したのか大爆発を起こし、吹き飛んだ。
「…フフ…殲滅よ。」
明々と燃える炎に照らされた山中の顔は満足げだった。
「いいぞ♪やっちまえ、ボス!」
リンが意気揚々と叫ぶ。爆発したバンは反対車線までぶっ飛んで火災を起こしていた。ガソリンの燃える匂いが鼻に届く。
(…うわぁ、おっかねぇ…まさに蜂の巣じゃねぇか。)
美しくも残忍な微笑みを浮かべるボスの顔を見上げながら、レイは絶対に山中を二度と怒らせないと誓った。命がいくつあっても足りない。
最後尾の車両がやられたのに焦ったのか、他の護衛車からも複数の銃火が瞬いた。
─タタタタッ!バババババ!
─チュンッ、チュンッ!
いくつかの銃弾がハマーのボンネットを襲うが、軽い音と共に火花を散らして、弾かれた。
「ギャハハハ、そんな豆鉄砲がハマーに効くわけないじゃん!」
下品な声で爆笑しながら、リンが怒鳴る。
無論嘘ではない。ハマーはアメリカ軍の傑作装甲車の民間転用型だ。大した事ではびくともしない。
「一両脱落か…あと2両!」双眼鏡で残りの護衛車を見ていたリンはとんでもないことに気付く。
バンが消えたことで、その前を走っていたトラックの荷台が見えるようになった。荷台では何人かの男が大きなものをいじくっている。
それは自動車を葬るのにはいささか過剰な装備だ。
「……─ッ!? TOW!!」
瞬発的にリンは叫んでいた。
兵器史上最強の陸戦兵器、戦車を破壊するために開発された武器─TOW対戦車ミサイルがハマーに向けて発射されようとしていたのだ。
いくらハマーの装甲が厚かろうが、あれの前には大した効果はないだろう。
「─なんですって!?」
山中は笑っていた顔を硬直させた。すぐさま重機関銃をミサイル発射装置に向ける。
引き金を引こうとしたところで、気が付いてしまった。
(…─残弾、0…!?)
景気よくぶっ放し過ぎたらしい。補充の弾倉は後部座席に置いてあるが、山中が陣取るサンルーフからは手が届かない。
─バシュッ!
勢いよく何か空を切る。
弾切れの事実に気づいたのと、TOWが発射されたのは皮肉にも同時だった。
至近距離で発射された殺人者は、瞬時にハマーに迫る。その距離20m。
(…やられる!)
山中は死を覚悟して目をつぶった。
…それは一瞬だった。
何者かが山中の足を掴んで、車内に引きずり込む。
代わりにものすごい勢いで誰かがサンルーフに身を乗り出すのがわかった。
「─消えろ。」
──バァッン!
冷たい呟きと大きな銃声。感情の欠片もないその声は、たしかにレイのものだった。
─ガンッ
─ズッドォォォォン!!
放たれた拳銃弾は、15mにまで接近したミサイルの先端を貫く。
猛然とミサイルは大爆発し、辺りを火炎が乱舞した。
すかさず山中はレイの足を掴んで乱暴に引きずり下ろす。
間一髪、爆炎がハマー全体を覆った。
開けたままのサンルーフから熱風が車内に吹き込む。
「せっかく助けてやったのに乱暴だなぁ、ボス?」
座席に叩きつけられたレイは顔をしかめて文句を言った。
「バカを言うんじゃないわよ。こうでもしなきゃあなた今ごろ顔面火傷よ?」
呆れながらも山中は内心ほっとしていた。
流石のハマーも対戦車ミサイルの直撃を受けたらスクラップは避け得ない。
何より車外に出ていた山中は消し飛んでいただろう。
(それにしても…)
あの一瞬の事を考えて背中に一筋の汗が流れた。
(至近の距離で放たれたミサイルを拳銃で撃ち落とすなんて…人の技じゃないわね)
神技とも言えるその銃の腕前を称えながらも、その背中に悪寒も感じていた。
(あの一瞬に聞こえた声…レイなのかしら?でも…)
山中の代わりに助手席に陣取り、傍受無線をへらへら笑いながら聞いている青年とはとても思えなかった。
「…やっと煙を抜けるぞ。…」
村仲が無表情でいう。この男だけがTOWを見ても何も動じなかった。
─ブワァ!
真っ黒い煙のカーテンからハマーは飛び出す。
巨大な車体が陽の下に躍り出た。
今のミサイルで追跡者を排除したと思ったのだろうか、油断していた護衛車たちは度肝を抜かれる。
「…ザザ…なぜ無事?…拳銃…TOW…ガ…撃ち落とした…馬鹿な…ガガ…」
俄然、無線が騒がしくなる。
無理もない。戦車をも粉砕するミサイルの直撃を確信していたのだ。
「…ガガ…小銃弾でミサイルをおとしただと!?そんな馬鹿な!…ザ…」
護衛のリーダーらしい声がひときわ大きく聞こえた。
「それが俺には出来るんだよね〜」
体を伸ばしながらレイが間延びした声で呟く。
「うわぁ、またあいつらTOWかよ…」
トラックの荷台をうろちょろする人影をリンの双眼鏡はとらえた。
「今度はしくらないわよ?」
山中は12,7mm弾の弾倉をごっそり持ってルーフに上がろうとした。
「ちょっと待てよ、ボス?」
リンは振り返って山中を引き留めた。
その顔には黒い笑いが…。
「あんな奴等には目には目を、ってな?」
リンは後部座席にある細長い包みを指差した。
「あら、そんな良いものあったのね。」
それを見た山中はかなり満足げだ。
(女ってのは怖いぜ)
包みの中身を知っているレイは渋い顔をしてリンがルーフに上がるのを見上げた。
───────────────
…護衛トラック荷台。
一人の男が、TOW発射の準備をしていた。
「あとは標準だけか…」
男がスコープを覗き込むとさっきと同じように女がハマーの屋根に陣取っていた。
「ふん、M2を撃とうったってその前に火だるまだぜ。」
男は嘲ったがあることに気づく。
(…?違う女か?)
さっきまでルーフに陣取っていた女は美人だったが、若いとは言えないヤツだった。
しかし今スコープにうつるその女はどうみても十代。おまけに大胆な服を着ている。
(ヤバい…タイプだ)
鼻の下を伸ばしていたが、その女が何かを担いでいることに男は気づく。
…─冷たい旋律が背中を走る。
─バシュッ
「………アッ、RPG!!?」
手遅れだった。若い女が担いでいた筒から白い煙が吹き出る。
男の叫びに反応した他の者が振り返ったときには、もう放たれたRPG─対戦車ミサイルは荷台に飛び込んでいた。
─ズッガァーーーン!
積まれていたTOWミサイルに引火し、荷台にいた男たちは肉片と化す。
皮肉にも火だるまになったのは護衛車だった。
───────────────
「二台目、爆殺!」
大声で叫びながらリンは歓声をあげる。
被弾したトラックはよろよろ走りながら中央分離帯に激突し、派手に燃え始めた。
「…ガガ…応答せよ…応答せよ…くそっ…ザザ…」
傍受無線からはリーダーらしき声が虚しく響いている。
「ついに最後の一両か!」
ルーフから降りながらリンは最後に残った大型車、ハマーを睨み付ける。
東柴社のトラックとレイ達の乗ったハマーとの距離は30mあるかないか。そのトラックにぴったりくっつくように護衛側のハマーが寄り添っていた。
「ハマーとなると少しきついわね。」
山中はさもめんどくさそうに言う。
「またRPG使うのか、ボス?」リンはこの武骨な対戦車ミサイルが使いたくてたまらないらしい。確かにスッキリ爽快な破壊方法だがいささか過激すぎる。
「そう思うのは山々だけど、敵サンはさせてくれないみたいよ?」
山中はそう言って座席にしっかりつかまる。
「どういう意味─「対ショック体勢!!」
普段は静かに話す村仲が珍しく叫んだ。
──ブゥーーン、ズガァンッ!
接近するエンジン音、鉄と鉄がぶつかる音と共に、凄まじい衝撃がハマーを襲った。
「…ちっ…」
村仲が華麗なハンドルさばきで車体を安定させる。
「─ってぇ!なんだってんだ!!」
おでこを押さえながら泣きそうな顔でリンが悲鳴を上げた。
見ると明らかに腫れている。衝撃で何処かしらにぶつけたらしい。
「親分さんのお出ましってか、乱暴だぜぇ」
とっさに身近に有った取っ手を掴んで難を逃れたレイは車の右側の見て驚きあきれた。
「体当たりなんてありかよ〜」
レイたちのハマーのすぐ隣にさっきまでトラックにくっついていたはずの護衛ハマーが並走していた。
村仲が運転するハマーとは車色や細部は大分異なるが、確かに巨大なハマー。
そいつが近づいてくる。
明らかに衝突進路だ。
「─おっさん、避けろ!」
リンが叫ぶ。
無理な話だ。いくら太い幹線道路を走っているとはいえ、元々巨大なハマーが二台並走しているのだから逃れる余地がない。
─ズギャッ! バギバキッ…
再び鋼鉄の怪物同士が衝突する。BHU側のハマーは大いに揺れ、歩道側に押し出された。
ハマーの巨体がガードレールをひん曲げ、街路樹をなぎはらう。
「…ゲホッ…、こりゃないぜ〜」
激しい揺れに翻弄されながらもレイは拳銃を抜く。
「喰らいやがれ!」
─カンッ カンッ
なんとも情けない音をたてて拳銃弾はいとも軽く弾かれた。
「さすが世界に誇るハマーね。傷すらついてないわ」
皮肉ったように山中は言った。
「冗談じゃねぇ!RPGを─「無理よ。」
騒ぎ始めたリンをいさめるように山中が制した。
「この揺れでルーフに上がったら落下決定。二台のハマーの下でミンチ決定ね。ハンバーグが作れるわ。」
恐ろしいことを平気で言う山中。ミンチになるのは事実だが、みんなが大好きハンバーグで例えないで欲しい。
「じゃあどうしろってんだ、ボス!?」
今度は頭を抱えて暴れ始めた。
「少しは落ち着きなさいな。銃は銃、車は車の専門家に任せるのが一番。」
そう言って村仲に視線を送る。
ミラーでそれを見た村仲はほんの少し口角をつり上げた。
「…任せろ…格の違いを見せてやる…」
─ブゥーーン…
再び相手のハマーが近づく。
今度ぶつけられたら完全に歩道に乗り上げてしまうだろう。このスピードで突っ込めば大惨事だ。
「─ハハッ、同じハマー同士だ。先手必勝だな!」
至近距離に迫った護衛ハマーの運転手が怒鳴る。声からして無線で聞いたリーダーだ。
「………。」
村仲は無言だ。
「ハマー同士で負けるのは悔しいだろうなぁ!」
最後のセリフだと言わんばかりに張り上げると、リーダーの男は更にぶつける体勢に入った。
「…あんたは一つ誤解をしているぞ…」
やっと村仲は口を開く。
「なにっ?」
「…この車はただのハマーじゃないんだ…」
めいいっぱいにアクセルを踏む。
─ギューーン…
「…こいつはM1109ハンヴィー…」
十分に加速したところでおもむろにハンドルを切る。
「…重装甲型ハマー…アメリカ軍装甲車そのものだ。…」
巨大なM1109の車体が護衛ハマーに迫った…
─メキャッ…
ガンでもドカンでもなかった。
何かが引き裂かれる音。
インパクトの時に咄嗟に目をつぶったリンを待っていたのは、想像しえない光景だった。
「ハマーが…」
まるで空き缶か何かのように護衛ハマーの外郭がめくれ上がっていた。
リンたちが乗っているBHU側のハマー、正確にはM1109ハンヴィーの装甲の角がもうひとつのハマーに深く食い込み、それを哀れな姿変えていた。
「…ふん…小僧が…」
村仲はさも興味がなさそうに、相手側の運転席にいるリーダーを見た。
彼は、すぐ背後で起きた惨劇に開いた口が塞がらなくなっている。
「…終わりにするぞ…」
そのままハンドルをゆっくり切った。
ぐちゃぐちゃになったハマーは中央分離帯に近づく。
何をしようとしているのか感づいたリーダーらしき男は、我にかえると脇目も降らず、スクラップと化したハマーから飛び降りる。
高速で移動するハマーから落下した彼はしばらく転がって動かなくなった。
彼が飛び降りた瞬間、激しい火花が飛び散る。
─ギャギャギャーーー!メキッバキッ!!
背筋が凍るような音をたてて鉄の怪物が潰れた。
村仲が操るM1109がハマーを中央分離帯に押し付けたのだ。
「…ふん…他愛もない…」
ハンドルを戻しながら無表情で呟く。片手でタバコを取り出すと、火をつけた。
「えげつないわね。ぺしゃんこよ?」
「…実力差だ…」
村仲は更にアクセルを踏み、本来の目標─東柴ロゴのトラックの横につけた。
「やっと標的ね…、面倒臭いったらありゃしない。村仲、レイよろしくね?」
山中は腕を組んで呼び掛けた。
「「了解。」」
煙草をくわえながら再び村仲はハンドルを握る。
中央分離帯に押し付けるようにハマーをトラックに近づけた。
「さっさと終わらせるかぁ〜」
愛用のベレッタのリロードをすると、ハマーの窓を開ける。
すぐ近くにトラックの運転席が迫っていた。
─ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ!
ほとんどゼロ距離で発射された9mm弾はトラックの側面窓ガラスを叩く。
防弾ガラスだったが、さすがにの距離では防ぐことは出来ない。
窓ガラスは砕け散った。
「トラックの運転手〜!今すぐトラックを止めなぁ?」
大穴と化した窓から運転手に向かって叫ぶ。
「ふざけるな!消えろ!」
運転席から銃弾が飛来する。ハマーの車体をかすった。
「どうする、ボス?」
ベレッタを握りながらレイは振り返る。
「“排除”するだけよ」
「…あいよ。おっさん!」
レイに呼ばれた村仲はハンドルを切る。
装甲車をも潰す鉄の怪物がトラックを中央分離帯に押し付けた。
激しい摩擦音を響かせ、火花が散る。
レイはハマーの窓から手をだし、トラックの中に向けた。
突き出された漆黒のベレッタM92Fが鈍く光った。
それを見て明らかに運転手は動揺した。
「黒いベレッタ…!お前まさか…?」
その言葉がトラック運転手の最期となる。
「─じゃあな。」
─バァンッ!
トラックの窓ガラスが赤く染まる。
拳銃弾は運転手の頭を穿った。
「いっちょ上がり〜。」
ベレッタを懐にしまいながらレイはため息をつく。
「…お疲れさん、村仲!車を止めて。」
「…了解した…」
山中に言われるまでもなく、更にトラックを押し付ける。
オレンジの火花が噴水のように上がり、トラックとハマーは停車した。
「さてと…村仲は依頼主に報告ね、後は下車して東柴社トラックを確保!」
奪い屋、BHUのメンバーはそれぞれ車を降りた………。
─生き残るために奪う。足りなければ奪い合えばいい─
それが俺達の街のルールだ。
奪われた者は消える。それもこの街のルールなのだ。
荒廃し続けるこの街で
俺達は今日も奪い続ける…
〜後書き劇場〜
レイ「やっと一仕事おわったなぁ〜」
リン「実はまだメインキャラが出てねぇんだよ。馬鹿作者め」
レイ「えっ、誰が出てないの?」
リン「傍受無線作ったアイツだよ!」
レイ「ああ〜、引きこもりかぁ!」
??「おっ、俺ハ断ジテ引キコモリジャナイゾ!?」
レイ「出やがったなぁ〜、ニート野郎!」
リン「えー、ニート野郎については次回出演…by作者…らしいぜ」
レイ「こんなひきこもりが気になる方は次もよろしく〜」
??「オイッ、勝手ニオワルナ…ぶちっ
─後書き劇場終了