─【序】
日本国神奈川県某所─
狭い路地を男が走る。
「ハァ…ハァ…」
何かに追われているようだ。
腕には小さな鞄。それを大事に抱えながら、男は走る…。
「ハァ…ハァ…、こ、これさえあればこの国から抜け出せる、抜け出せるんだ…」
男は走りながら呟いた。
路地の向かうに光が見える。あそこまで行けば、追手は諦めるだろう─。
───パンッ
後ろの方から乾いた音がした。
同時に足に走る激しい痛み。
「ぐ…ぎゃあぁぁ!?足が…」男は足を押さえて倒れた。
抱えた鞄は放り出され、地面を滑った。
…ガッ
突如現れた黒い靴が鞄を押さえつけて止めた。
「はい、確保〜」
やる気の無さそうな男の声。撃たれた男が顔をあげると、若い青年が自分に拳銃を突きつけているのが見えた。
「あ〜、わかる? あんたもう終わりだよ?」
死んだような目をした青年は、痛がる男に呟いた。
「……かっ、金!金ならいくらでも出す!!命は助け─」男が慌てて後ろに逃げようとすると、何か硬いものが後頭部に当たった。
「………」
振り返ると黒光りする銃口──初老の男が銃を構えていた。
「─ヒィ!?」
男は逃げ出そうとするが、
「へぇ?あんたじゃあいくら金出すんだい?」
最初の青年に髪の毛を掴まれ、無理やり顔を向けらせられた。
「ぜ…全部だ!!有り金全部やる!!」
男はポケットを探り、財布を放った。ずしりと重い音がする。
「…ふん、もらっていくぜ。」青年は髪の毛を離し、財布を拾ってポケットに閉まった。
「ハァ…ハァ………え?」
ひとしきりほっとしていた男は肩で息をしていたが、顔をあげると目の前に黒いものが……
「鞄も金も、お前の命も全部もらっていく。じゃあな、おっさん?」
──ガキンッ
「ちょ……お前…ツ!!」
──ズッダァァァン!!
青年の銃は火を吹いた。
…ザッ
後ろで見ていた初老の男は鞄を拾い上げた。
「…行くぞ……」
「あいよ〜」
二人はそのまま路地を出て、行方を眩ませた。
後には死体だけが残された────
──20XX年、積もりに積もった不良財政を抱えた日本政府は全世界に向け非常事態宣言を発した。
─先進国の財政破錠─
それは世界的にも類を見ない異常事態だった。
国民の信頼を失い、単なる借金団体と化した政府は民衆の暴動で倒れ、日本は完全なる無法地帯に変化した。
国外に逃亡する富裕層、国内に流入する膨大な銃火器…。
─文字通りの“混沌”だ。
もちろん諸外国の干渉はあった。平和維持と名付けられた、侵略軍は世界各地から日本に送り込まれた。
─しかし、軍隊は壊滅した。
民衆たちの激しい抵抗………想像を絶する市街戦………あまりの激しさに軍隊は撤退せざるを得なかった。
──此処に世界で唯一政府を持たない地域が出来た─
国名すら無い、【ニホン】と呼ばれる場所…
世界の警察を自負する某経済大国は更なる軍を派遣しようとしたが、世界の批判を浴び、何も出来なくなった。
──対立する諸外国は均衡を保つために【ニホン】を干渉を許さなかったのだ。
誰も【ニホン】に手出しが出来ない─
犯罪組織、マフィア、諜報組織、─世界の“裏”を支配する連中は【ニホン】に巣くい始めた。
血で血を洗う抗争、巨大化する企業、無限に広がる無秩序なスラム…
此処を支配するのは“正義”じゃない。
圧倒的な金と暴力だけが力だ。
自らの頭と体しか信じてはいけない世界…
民衆は武器を握り、嘘と裏切りで生活する。
──それが【ニホン】………
その中を駆け抜けた強者たちのストーリー。
絶えない銃声、あたりを覆う硝煙の煙───
無慈悲な銃弾が撃ち抜くのは、相手か己か──