第7話 普通の学校生活と、普通じゃないクラスメイト
あたしが引っ越したのは、会社から一駅のところにあるマンション……っていうかアパート。
同じ街に、彼の通う学校があった。
そこは当然、今はあたしの学校になるわけで……。
「すげえ変な気分。男子のブレザーを着て、通ったことのない道を歩いている……」
あとは、男って股間が邪魔じゃない!?
こんなんでよく動けるなあ……。
いや、配信で確認したけど、パワーは元のあたしの倍はある。
股間というハンデを背負った代償に、圧倒的パワーを持つのが男ってわけね……。
これ、活かしきれたら強い。
だが問題は……この間の配信、人気は完全に上鳴明の方に行ってること。
あんな活躍したのに、スルーされた!
「普通の男だってこと、配信だとかな~りマイナスだぞ……。女子人気のある男子配信者を研究しないといけないか……。あたしは男の体になっても、夢を諦めてないからな……」
当然、元の体に戻れるのが一番だ。
だが、どうして入れ替わってしまったかの原理が分からない以上、戻ることもまた難しいんじゃないかと思う。
ここはあまり期待せず、現状でベストを尽くすべき。
あたしは不屈だった。
校門をくぐり、教室に向かう。
明の話では、通路側の一番うしろだったな……。
ここか。
1クラス25名。
割と数は多いほうじゃない?
ちらほら、異種族の姿がある。
なるほど、それで1クラスの数が多いんだ。
あたしの学校は1クラス20人だったもんな。
さて、クラスにおける、上鳴明のポジションを確認する。
とりあえず、教室に入る時に「おはよーっす」と声を出してみたら、先にいた生徒たちが振り返って「はよー」「おはよー」「上鳴くんが挨拶するの珍しくない?」とか言っていた。
ふむふむ……。
人間関係は普通。
むしろ明の方でコミュニケーションを控えめにしていた節がある。
退魔師とかいう、わけのわからない仕事のせいね、これは。
あたしもいまいちよく分かっていない。
「おはようございまーす。ややっ、上鳴氏」
隣に女子が座ったと思ったら、声を掛けてきた。
なんだ!?
彼女か!?
そんなのがいるなんて話、聞いてないぞ。
「今日はちょっと雰囲気が違いますな上鳴氏」
メガネを掛けた、ちょっとポチャッとした外見の女の子だ。
あたしは素早く彼女の全身をチェックする。
アイドルとして身につけた技である。
やや癖のある黒い髪を結っておさげにしている。
丸い縁のメタルフレームメガネは、恐らく度が入っていない。
レンズの奥の輪郭が歪んでいないからだ。
ぽっちゃりして見えるけど、胸元の下にスペースがある気配。
こ、こいつ……巨乳なだけだ……!
敵か……?
いや、今のあたしは男子なんだった。
ええい、巨乳を認識した瞬間に反応するな、上鳴明の体!
男の生理現象は恐ろしいな……。
「いや、そうでもない」
「返答がぶっきらぼうに! 明らかにキャラ変してますなー。……ということは。今日こそは、私のお誘いに答えてくれるのでは?」
「は? 何の話をしているのかさっぱり分からないのだが?」
男の喋り方なんてものは良くわからない。
地下アイドルのファンやうちの社長の喋りが一般的ではないことはよく分かる。
では、無難にちょっとぶっきらぼうなキャラを装うのがいいだろう。
あたしは上鳴明の気弱そうな喋りとか嫌いだし!!
そう言えば、隣りに座るこの女子の名前はなんだろう?
明から聞いていないぞ。
こんなに話しかけてくるタイプの女子なのに、名前を共有しないとは何事だ。
あたしは机の中で、スマホから明に連絡を送った。
名前を教えろ!
返答はない。
あいつ、女子校でテンパってるんじゃないだろうな……。
「それで上鳴氏。開かずのオカ研部室の話ですが」
「開かずのオカ研部室!?」
突然パワーワードをぶっこまれて、あたしの意識が持っていかれた。
なんだ……なんだその、撮れ高がありそうな話は!!
「詳しく聞いていい? いや、実はちょっと最近健忘症気味で記憶が飛ぶんだけど」
「おおっ、今日の上鳴氏はグイグイ来ますな! ええと、先日リトルウィッチ・デュオが我が校で配信して、ダンジョン化した校舎西棟を解放したの時にですね」
リトルウィッチ・デュオ。
正体不明の双子の魔法少女だ。
炎を使う方は、フレア。
水を使う方は、アクア。
チャンネルは主にフレアが運営していて、時折やる気なさそうにアクアが協力する。
冒険配信者として、なかなか人気のチャンネルだ。
開設一年目にしてもう十万人の登録者数を誇る。
「へ、へえ……。彼女たちが配信してたんだ」
「おや? 上鳴氏も一緒にその光景を見ていたはずでは?」
「健忘症なんだ」
「ああそうでしたか」
女のメガネがキラッと光った。
不穏なものを感じる……。
「それじゃあ、ダンジョン化は解けたんだろう? どうして開かずの部室なんだ?」
「ええ、それがですな。倒されたはずの悪霊が、オカ研部室に立てこもりまして。我らオカルト研究会はこの部室を使えなくて困っているのです……! そこで、男子である上鳴氏の助力を仰ぎたく……」
つまり、まだオカ研部室はダンジョン化してるってわけだ。
隣の彼女は、オカルト研究会の部員。
上鳴明に、このダンジョンを踏破してもらい、部室の解放を願っている……。
……あれ?
なんだか違和感がある。
明は彼女に、退魔師であることを明かしていたのか……?
「ああ、そう言えば私の名前も忘れているかも知れませんな」
度の入っていないはずのメガネの奥で、彼女の瞳がキュピーンと光った。
「オカ研の刑部恵美奈です。思い出しましたかな、上鳴氏?」
思い出したも何も、最初から知らないあたしは……。
「思い……出した……」
絞り出すようにそれだけ告げたのだった。
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