第6話 全て失ってしまった……!!
「おおお……すべて失ってしまった……!!」
あたしは目覚めると、頭を抱えて呻いた。
片付いた部屋。
パイプベッドとカラーボックスが並び、座卓の上にノートパソコン。
小さいクローゼットはあたしが好きな黄色の花がら。
そこに並ぶのは……。
男子の制服。
「はあ、はあ、はあ……。寝て起きたら元の体に戻っていると思ったけど、普通に男だ……。しかも色々元気だし。シャワー浴びてる時に見たけど、こうなってんのね……」
ぶつぶつ言いながらも起き上がる。
朝は強い方だ。
アイドル時代、早朝からイベント準備なんか当たり前だった。
あたしは、高校デビューと同時に念願のアイドルデビューを果たした。
だが!
あたしが参加した地下アイドル、放課後プレデターズは運営会社の社長が資金を持ち逃げし、解散することになってしまったのだ!
「たった一ヶ月半のアイドル生活……。あたしじゃなきゃ脱力感から廃人になってるところだったね」
そこで出会ったのが、機材管理担当だったファイヤー。
「君才能あるよ! 元配信者の俺には分かる! デビューしよう、冒険配信に!」
「しまあす!!」
その言葉に乗せられて、あたしはダンジョンと戦う冒険配信者に転身!
したんだけど……。
「社長、そもそも現役時は登録者数三桁の配信者だったんじゃん。食べていけなくて色々なバイトをしてたわけでしょ? 今は師匠のチャラウェイさんに保証人になってもらってお金を借りて運営している……。そしてあたしは社長と運命共同体。うおおおおお」
なのに!
あたしは男と入れ替わってしまったー!!
床の上をのたうち回る。
完全に目は覚めているのだが、心が!
起き上がれない!
助けてーっ!!
と思ったら、隣室から壁をノックする音が聞こえた。
「あのう……朝ごはんができたので食べに来ませんか」
優しいトーンの女の子の声がする。
それは、本来あたしの体だったものが発する声だ。
中身は、あたしが入ってるこの体の持ち主。
「うう、今行く……」
せめて顔を洗い、髪をとかし……。
シャワーを浴びたいけれど男って朝シャワーを浴びるの?
いや、学校に行く前には浴びよう!!
そう決意して隣室を訪れた。
綺麗に整理整頓された、六畳のワンルーム。
あたしの部屋と同じ構造の一室だ。
座卓の上に、白いご飯と野菜炒め、お味噌汁が乗っている。
あ、納豆まである……。
「おはよう……。朝ごはんサンキュー」
「おはようございます。今日はお互いの学校に登校ですけど……その、あんまり無茶しないでくださいね……」
「分かってるわよ。そもそもあたし、そんな見境無く暴れるタイプではない」
「はあ……」
「信用してない顔をしてる!! まあいい! いただきまあす! うんまあ!」
「あの、お弁当も用意してありますから」
「マジで!? ……あんた、男よね?」
「はあ、まあ……。自炊すると、全部一度に用意したほうが安上がりなんですよ」
「なるほど……なるほどぉ……」
圧倒されるあたし。
こいつ……!
あたし以上にあたしの体を乗りこなしているのではないか……!
少なくとも、彼、上鳴明があたしと入れ替わった途端、ずっと二桁だったかざりちゃんねるの登録者数は四桁に跳ね上がった。
たった二回の配信で!
四桁台後半に!!
悔しいけど美味しい朝食をいただきながら、あたしは考える。
この男の方が、あたしよりも配信の才能が……?
それだけじゃない。
アイドル的な、リスナーを惹きつける才能があるってこと……?
ば、ばかなー!!
それじゃあ、数々のオーディションに応募して必死にアイドルの座を掴み取り、転落しても人前に出る機会にしがみついて戦ってきたあたしの立場はどこに!
いやいや、落ち着け。
落ち着くんだ花咲里明日奈。
「あたしはあたしで、男性配信者として身を立てていくべきなのではないか。なんか法術の才能があるし」
「ええっ!? 僕の体で配信するんですか!?」
「なんかふにゃっとした顔をしない! あたしそんな顔できたんだ!? っていうか、当然でしょ! あたし、まだアイドルへの情熱は無くなっちゃいないんだから! 死ぬまでチャレンジするわよ!!」
「ふええ」
「ふええじゃなーい!!」
「あの、退魔師であることや法術は、世間一般に知られてはいけないんですけど」
「現代魔法とかが幅を利かせるこの時代に、まだあんたの所属してる組織はそんなこと言ってるの!? か、化石……!! まあいいわ。配信で法術とやらを使っても、どうせ現代魔法だって思われるから! それにあたし、そっち方面は才能あるっぽいし」
「僕としては大変複雑な心境です……。ずっと鍛えてきた法術が、僕の思いも寄らない使い方だったなんて……」
「よくあることよ。ということで! あんたは花咲里明日奈として! あたしは上鳴明としてやれることをやる! よろしい?」
「は、はぁい」
「いちいち可愛い仕草をするなあ! ごちそうさま! 美味しかった!!」
本日の予定を確認する。
「あたしの学校は、事務所があるのと同じ駅。ちょっと坂を上ってたとこにある女子校ね。治安いいとこだから安心して。あんたのは……ふうん、一応私立なんだ」
「はい。両親が、退魔師の才能がないならせめて社会人として真っ当に生きてくれって。ああ、それなのに僕の体が配信者に……」
「嘆くな嘆くな! まあ任せろって。あたしがばっちりイケてる男子高校生としてやっててやるから」
「あまり学校では目立たない方だったんで、そのう」
「分かった分かった。あたし流で行く……!!」
「ひーん」
泣き言なんて聞かないぞ!
あたしだってまだ、夢を諦めちゃいないのだ!
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