第55話 おやあ~? 大変なところに繋がっている!
「入ってみるしかないな」
「アクアさん本気!?」
「本気だ」
※『アクアちゃんムキになっとる』モチョチョ『クール系美少女が感情的になる様は美しい……』『かわいいねえ』『それはそうと危ないと思うなあ!』
「危ないよねえ! ほら、みんなも言ってますよー!」
僕はアクアさんを説得しようとしたけど、彼……? 彼女の意思は硬い!
ええーい、羽交い締めだ!
「失礼します!」
「あーっ」
後ろからギュッと抱きしめたら、アクアさんの動きが止まった。
「あ、危ないところだった。魔法少女で良かった」
なんかぶつぶつ言ってる。
「それはそうと、一緒になったなら好都合だ。行くぞ!」
ふわっと飛び上がるアクアさん。
僕ごと!?
凄く奇妙な浮遊感がある。
これが魔法で空を飛ぶってことかあ。
「お二人が戻れるよう、これを!」
園宮さんが、ポケットからメジャーを取り出した。
それをシュッと振ると、黒い帯が飛び出してきて……。
僕とアクアさんをぐるっと一巻きしてから固定された。
「念のため、この扉から半径50メートルまでしか移動しないで下さい。情報を収集してもらえれば、迷宮省で調査できますから」
「わ、分かった」
「アクアさんが冷静になった」
「後ろに抱きつかれてるから、別の意味で冷静じゃないけどな!」
耳が赤いぞー。
※モチョチョ『ハッ! も、もしやアクアちゃん、耳元で常にかざりんのささやき声が聞こえているのか!?』今川『なんでおじゃると!? あれは天下を取れる声でおじゃるぞ!』『かざりんはASMRを出せー!』『そうだー! 出せー!』
変な盛り上がりのチャット欄だー!
とにかく!
ふわふわと空中をよろめくアクアさんに掴まって、僕は空間に開いた扉をくぐり抜けたのだった。
空気が変わる。
そこは、暗闇の中。
ホコリとかカビの臭いはしない。
なんていうか……乾いた木のニオイがする……。
「かざりさんのAフォンを通じて、場所を特定しています。しばらくそのまま……そのままでいて下さい」
扉の向こうから、園宮さんの声がする。
「はーい。……って、アクアさんがどんどん先に!」
「半径50メートルまでは調査できるだろう? だったら限界までやるべきだ」
「アクティブな人だなあ」
「も、もぞもぞ動かないでくれ! 柔らかいものが背中にずっと当たってるから……!」
「あっ、最近またちょっとお肉がついたので」
お腹周りの増加は、退魔師の時同様のトレーニングをやることで防げてるけど、女の人って二の腕とか太ももとかが太くなるんだねえ……。
脂肪と筋肉が合わさって、動きにさらにキレが出てるんだけど、太さは増してるのが不思議だ……。
※『アクアちゃんお年頃カナ?』『いいぞー』モチョチョ『年上のお姉さんを背負って、意識しちゃってるねえ』『ここのチャットにキモいおじさんたちが湧いてるぞ!!』モデレーター『一時間コメント禁止にしときますね』『そんなー(´・ω・`)』
「ライトスフィア」
アクアさんの手から、光の玉が生まれた。
それが照明になって、僕たちの頭上にふわふわ浮かぶ。
ほえー。
魔法だー。
現代魔法ってやつかな?
……あれ?
そう言えば園宮さんは、アクアさんのAフォンについては何も言ってなかった。
もしかしてこの人、Aフォンなしで変身している?
ってことは、アクアさんは配信者とか現代魔法とかそういうものではなく、本物の魔法使いってことになる。
ええーっ!?
本当にーっ!?
※回転『これこれかざりん、百面相するだけでは我々には何も伝わりません』『言葉で語ってくれー!』今川『モチョチョがコメント制限されたでおじゃるな……』
「あ、みんなー! コメントは節度を持ってしてね! モデレーターさんはこの辺厳格な人なので、男女問わずコメント制限してくるからね!」
※『こわあ』『チキンレースが捗るな』『やるなやるな』
真っ暗だった空間が光の玉に照らされると、そこは木造の部屋。
広さは二十畳はありそう。
天井も壁も床も板張りで、明らかに古いものだけど……。
「掃除は行き届いてるね」
「ああ。そして扉がある」
ふわふわと扉に向かうアクアさん。
近づいてみて分かる。
これ、引き戸だ!
手を掛けると、カチッと引っかかった。
鍵がかかってる。
「アンロック」
カチャッと鍵が開く音がした。
「すごーいアクアさん、なんでもできる!」
「な、なんでもじゃない。パパに言われて、汎用魔法を一通り覚えただけ」
※『かーわいい』『なんでも感心する素直なかざりんと、照れる素直じゃないアクアちゃん』『いやー、いい配信ですわ』『退魔師と霊合教の謎に近づく配信だと言うのに、チャット欄はほっこり一色である』
鍵が外れた引き戸を、スーッと開ける。
そうしたら、そこには廊下があった。
ここからは真っ暗ではなく、床に和風の照明が、点々と置かれている。
※回転『行灯だね。この優しいぼんやりした明かりが雰囲気たっぷりで、和風家屋の独特な雰囲気を作るんだけど……』御座候『オカルトな場所に点々とあると、普通にホラーでござるな』
「ほんとに! ちょっと不気味だよねえ。よーし、僕も妖物が出てきた時のために、エコバッグを構えちゃう」
「あーっ、後ろでもぞもぞ動かないで! 動かないでー!!」
「むっ! いちゃいちゃする女子の声が! 何奴!!」
気付かれた!
誰かがバタバタと走ってくる!
「二人とも、戻って下さい! 気付かれたのか、扉が消え始めています!」
「えーっ! アクアさん!」
「わ、分かってる! あっ、反転したらメジャーの帯が絡んで……。うおお、かざりんに抱きつく姿勢に!」
※『うおおおおお』『ぬおおおおおお』『叫ぶだけならコメント制限されまいうおおおお』
「じゃあ、僕が頑張りますね! 壁を……おりゃー!」
全力で壁を蹴ると、浮遊してる僕らの体がビュンと加速。
確かに薄くなっている扉に向かって突き進んだ。
一瞬だけ引っかかるような感覚があったけど、エコバッグを振り回して叩いたらパリーンと割れた。
突破ー!
僕らはまた、さっきの地下室に転がり出たのだった。
背後で消えていく扉。
「危なかったー!」
「むぎゅう」
「アクアさんが潰れてる!」
「今帯を外しますから……」
僕は彼女から体を離したあと、抱き起こした。
「いけない、鼻血がー!」
「こ、これは倒れたショックの鼻血じゃなく……気にするな……」
鼻血を止める魔法があるから大丈夫ってこと?
こうして、退魔師支部の地下空間はなぞのまま。
あとは園宮さんに調べてもらうことになったのでした。
僕の古巣があんなことになっているなんて……。
なんで退魔師やめて女の子になってから、次々に分かってくるわけ!?
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