第52話 動き出す共生派
「っていうことがカラオケボックスであって。ファンの人っているんだなーって感激したんです!」
「へえー、男の子のファンがね! 魔法少女アクア……? どこかで聞いたことが……まあいいや。でも上鳴くん、男子のファンはガチ恋こじらせると怖いからねー。気を付けなくちゃねー」
「えっ、そうなんですか!?」
社長が重々しく頷いた。
ここは事務所。
最近、暇があれば事務所に顔を出すなあ。
社長の家でもあるんで、買い出しの時以外は常にファイヤー社長がいるからか。
「実際、ファンが家に押しかけてきて大変なことになった配信者もいるしね。中にはファンに殺されちゃった人までいるんだよ」
「ひえーっ! ほ、本当ですかっ!? ぼ、僕気を付けなくちゃ……」
「まあ、殺された人は登録者数二桁の女の人だったんだけどね。これだと同接のパワーもあまり乗らないし、世間から認識されてないから普通の人と同じだからねえ」
すごい話を聞けてしまった。
これはつまり、どんな人でも登録者が多いとか世間から広く認知されてれば、凄く強いということでは。
ただ、不思議なことにダンジョンに挑んだことがない人は、有名でも強くないんだそうだ。
不思議過ぎる……。
世の中に、そういう目に見えない法則があるのかな……?
「あ、上鳴くん麦茶飲む? 会社の収益が上がったからね、ちょっといい麦茶にしたんだ」
「いただきます!」
社長と二人で、冷えた麦茶を飲む。
グラスを包む、僕の細い指先が目に入ったので、元の持ち主であった花咲里さんの事を思った。
今頃、二世さんと一緒に配信してる頃だろうなあ。
怪しげなダンジョンに挑むそうだから、何事もないといいなあ。
そんな事を考えていたら、リーシュさんが出勤してきた。
「社長社長! あ、かざりちゃんもいる! 大変! 大変だよー!」
世間ではGWに突入した頃。
そう言えば、花咲里さんの誕生日も5月だったのでは。
これはお誕生日配信をしなきゃいけないかも。
僕自身は、秋の生まれなんだけどね。
「どうしたんだいリーシュくん」
大慌てでやって来たリーシュさんは、フスーッと鼻息も荒くカバンを床に降ろした。
そして汗ふきシートで顔をペタペタ拭っている。
「んもー大変なんですよー。この間、退魔師支部をやっつけたじゃないですか。妖怪を秘匿してたーってことで、警察が突入したんですけど。そしたら霊合教の人が出てきて、今やりあってるみたいで!」
「えーっ! 大変じゃないか! ちょっと待って」
社長がスマホでニュースを検索している。
「あった! 退魔密教関東支部に警察突入、っていうニュースかな」
三人で顔を寄せ合って、スマホを覗き込む。
そこは、僕がこの間いた御本尊のあるところ。
どうやら本尊の下が地下室への入口になってたらしく、そこから霊合教の人達が出てきたんだそうだ。
霊合教というのは、人とダンジョンが共存することを旨とする教えの宗教。
もともとはそういう主張の活動団体だったらしいんだけど、いつからか宗教になった。
それで、ダンジョン配信を妨害したり、ダンジョンをあちこちに生み出すなどのテロ行為を繰り返した結果……。
「三十年前の八王子ハザード事件! あれでダンジョンを使った国家転覆を狙った霊合教は、英雄、大京嗣也によってその野望を粉砕された。この間、上鳴く……かざりさんが行ってたサバゲーの場所だね」
「はい、色んな人から聞きました! もう宗教団体としては解散させられてるはずですよね?」
「そうなんだよねえ……。ただまあ、活動家として散ってて、あちこちの組織に入り込んではいるみたいなんだ。その一派が退魔師の中にも潜り込んでいたんだねえ……」
ライブ中継では、霊合教の人達が魔法みたいなのを使いつつも、機動隊に押し込まれていくところだった。
機動隊の装備にも、ダンジョン配信から得られたシステムが活用されてるそうだ。
特にライブ中継で視聴者が多いと、機動隊側がパワーアップする仕組みが強力だとか。
「あっ、機動隊がさらに押し込んだ。相手が総崩れだー。へっぴり腰だなあ」
「かざりさんは荒事得意だもんねえ」
「いやあ得意ってほどじゃないですけど……」
リーシュさんが「またまた!」と笑った。
「配信見てたよ! たくさんの退魔師を相手にして、次々と捌いていく豪快なアクション! ほんっと気持ちよかったー! かわいい女の子が大の男をぶっ飛ばすって言うんで、かざりさんの女子人気ってかなり高いんだからね?」
「そ、そうなんですか!?」
「あーっ、地下室に突入した!」
もう動画を見てるのが社長だけになってしまった。
社長の解説を聞くに……。
退魔師関東支部の地下には、広大な地下空間があった。
そこに、教会形式の施設があった。
密教系である退魔師が、教会と!?
さらに霊合教まで合わさってる!?
どういうことだろう……?
「なんか、そういうのを結びつける要素があるのかなあ……。退魔師も霊合教も、今はパッとしないけど」
教会の系統は、世界に魔王とか魔女とか魔法とかが当たり前みたいに行き交うようになって、いわゆるガチ信者みたいな人が減っていってるらしい。
なので教義を再解釈して、良い魔女、良い魔王みたいなそんなのを受け入れていっている。
そりゃあそうだよねえ。
ダンジョンが現れる前の世界の話を聞いたことがあるけど、信じられないくらい平穏だったし。
平穏すぎて、人間同士で争い続けていたそうだし。
地下空間を、霊合教の人達が逃げていく。
その後を追おうとした機動隊だけど、画面いっぱいに真っ白な羽根が飛び散った。
何も見えなくなり、何も聞こえなくなる。
少しして、羽根は嘘のように消え……。
霊合教の人達もいなくなってしまった。
地下空間には結局、何も残されていなかったらしい。
うーん……。
なんか、陰謀の香りがしない……?
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