第4話 見つけた、これ音ゲーだ!
花咲里さんがスマホでゲームをしている。
流れる楽曲に合わせて、上から落ちてくる数々のバーを、タイミングよく叩くゲームだ。
「もともとゲームは好きなんだけどさ」
僕の声で呟く。
「アイドルになるためにゲームは封印つってやめて。でもこれなら音楽だし、アイドルと繋がりあるでしょ。だから暇さえあればやってたって言うか」
落ちてくるバーが、繋がった波のようになる。
何が起こっているのか全くわからない。
だけど、花咲里さんの指がそれを確実に捉え、Exellent!という評価を叩き出し続けているのが分かる。
さらに、流星群のようにバーが落ちてくる。
押すべき箇所は四つあり、それぞれに次々落ちてくる。
こんなもの、とても捉えきれない。
それなのに。
「凄い……全部エクセレントだ」
「当然。何度やり込んだと思ってんの。新しいステージが配信されても速攻でフルコンプしてみせるから」
振り返ってニヤッと笑う、僕の顔をした花咲里さんなのだった。
僕達を運んでいた車が停まる。
ファイヤー社長が振り返った。
「ほい到着。現場だよー。今回はちょっと大変らしいから、二人とも気合い入れてね! リスナーさんがね、あらかじめ予約しておいてくれてね。いやあ、ちょっとうちのチャンネルの実力じゃ厳しいかなーって思ったけどチャンスだからね!」
ファイヤー社長が怪しいことを言っている。
それって本当に大丈夫……!?
霊郭は、本来なら法力を持たない人間にはどうすることもできない、悪霊の世界。
そこでは悪霊の霊力に誘われて、この世の者ならざる妖物まで現れるという。
「ゴブリンとかでしょ? それに社長の種族のオーガって、もともとはダンジョンから現れるモンスターだったのよ。それがチャラウェイって人の尽力で人間と和解して、それで社会に参加したってわけ」
「在留許可の試験を受けなきゃいけないし、就労機会も限られてるけどねー」
わははと笑うファイヤー社長。
「さあて、生まれ変わったかざりちゃんねる、ダンジョン配信の第2回目行ってみよう!!」
大丈夫かなあ……!!
到着したのは、閉鎖された工場。
給料の未払で作業員がみんな逃げて、倒産したところらしい。
最近、そんなものばかりだな……。
世の中って、案外世知辛いのかな。
前の悪霊も、花咲里さんが所属してたっていうアイドルの会社も、資金持ち逃げでだめになったんでしょ?
「じゃあ、上鳴くん行ってみよう!」
「えっ、えっ!?」
いきなり振られて、僕は混乱する。
「一応今回はあたしも参加するからね。あ、でも顔出しだめなんだっけ? だと思って……このマスクを付けます!!」
花咲里さんが雷マークの派手なマスクを装着した。
「な、な、なにそれーっ!? 僕そういうの付けないと思うんだけどー!!」
「今の上鳴くんはあたしだから付けるの。そういうキャラになったの!」
「ひーん」
「ああくそ、またあたしが知らないあたしの可愛い表情をして!! なんであたし以上にあたしをやる才能があんのよ!? ていうかその可愛い声どこから出してんの!?」
「これは……お互い入れ替わって正解だったかも知れねえ」
「社長ぶっ飛ばすよ?」
僕は緊張しながら、配信をスタート。
深呼吸。
※モチョチョ『こんちわー! この清楚な表情は……』回転『入れ替わった方のかざりちゃんか』大判『我々は真・かざりと呼んでいます』
「だあーれが真・かざりだぁーっ! あっ、どうもどうも、お手伝いのサンダーマスクです」
「サンダーマスク!? な、な、なんですかその名前!?」
※モチョチョ『ああ~^』『元のボディがとんでもないことをやらかしたのを見る絶望したかざりちゃんの表情!』『堪らん~』
「ほらほら、かざりちゃん! 配信開始の挨拶!」
「う、ううー。あの、あの、それでは霊郭……じゃなかった。ダンジョン配信を始めまぁす! 僕、二回目なので慣れないことも多いと思いますけど、精一杯頑張りますので! 皆さん、今日もよろしくお願いしまぁーす!!」
必死に声を張り上げて挨拶した後、一礼する。
絶対声が裏返っていた。
聞き苦しくてごめんなさい……!
※『おおー』『清楚』『清楚だ……』『かわいい……』モチョチョ『やっぱ真正ボクっ娘は大正義よ』
「くっそー、あたしの頃の配信では見たことがないコメント……」
悔しがっている花咲里さんだけど、社長が進めて! と手振りで示してくるので、配信を進めざるを得ない。
僕は恐る恐る、工場の扉を開いた。
一瞬だけ抵抗のようなものがある。
霊郭の結界が開いた感触だ。
入ることはできるけれど、法力を持たない非術師は外に出ることができない。
そんなところに……法力のない体で入っていく……。
それがどれだけ非常識かを知っているからこそ、僕は恐怖を覚える。
「社長、武器は……」
「はい、これ。ボタンを押すと光って音が鳴る剣。シャイニング稲作カリバー」
「なんですかこれぇーっ!?」
金色のプラスチックのおもちゃを手渡されてしまった!
こ、これで悪霊を祓うの!?
本気で仰ってる……!?
「そら、行くぞ上鳴……じゃない、かざりちゃん」
「う、うん、花咲里さん」
「サンダーマスク!!」
「その名前で呼ばないとダメぇ……!?」
※『もう常に反応がかわいい』『俺かざりちゃんのこと好きになっちゃうよ』今川『女だけどガチ恋勢でおじゃる』『グッズ発売はよ!』
「あ、ニーズがあれば後でアンケートしますんで、グッズも作りますねえ!」
ファイヤー社長が声を張り上げた。
商魂たくましい!
こんなとんでもない状況なのに!
「おいでなすった! ほらかざりちゃん!」
「は、はいぃ!」
おもちゃの剣を構えて、向かい合う霊郭の先。
工場の機械が迷宮を形作っていて、地面から、壁から、天井から生えている。
中身は外見を遥かに超える広さだ。
ここからじゃ、果てが見えない。
どこまでも空間が続いているように見えた。
そして機械は、まるで僕らを認識したかのように動き始め……。
その中から、緑色の妖物が次々と現れる。
「3Dプリンター風にゴブリンを生成してるってわけ!? すっごい数!!」
花咲里さん、もといサンダーマスク(この呼び方嫌だなあ!)が身構える。
「じゃあ、あたし……俺はちょっと先に行って実験してくる!」
「ちょっと! 先行したら危ないからー! ぼ、僕の体ー!!」
※モチョチョ『またボクっ娘いただきました!』今川『これだけで推せるでおじゃるな』大判『ほら社長走って! カメラ止まってるよ!』
「はいはい! ひぃー」
走り出した花咲里さんと、後を追いかける僕。
社長も必死についてきている。
社長はお腹の肉を落としたほうがいいんじゃないかな……。
そして到着した先では、溢れ出した緑の小鬼たちと、花咲里さんが戦い始めていた
「すっごい! この体、めちゃくちゃキレがいいんだけど! しかもパワフル! 元の体の倍くらいの力がある! なんか棒で叩いても効いてる感じはしないけど……」
「そりゃそうだよ! 僕の法術は悪霊にまともに通用しない弱い法術だから……」
「だよねえ、コモンって書いてあるし……」
コモン……?
そんなの書いてあるの!?
僕が法術を使っていた時はそこまで見ていない。
攻撃が通じないことで、生き残るために必死だったから……!
「あ、でも慣れてきたらヒットのレベルが上がってるわ。バッドは取らないようにして、グッド、グッド、エクセレント! よしよしよし!」
ヒットを評価する表示まであるの!?
それ本当に僕の法術!?
花咲里さんの動きが、みるみる良くなっていく。
というか、あんなに連続して相手に攻撃を当てたことなんか、僕はない。
気のせいか、花咲里さんが手にしている法具化した棒が光り始めているような……。
次の瞬間、花咲里さんの頭上に『50連続COMBO達成!』の表示が出た。
な、な、なんだそれーっ!
僕も知らない、僕の法術!?
「うおーっ! 棒が……コモンからアンコモンになった!! そっか! 音ゲーがパワーアップ条件だこれー!!」
「どういうことーっ!?」
振り回された、光る棒が小鬼を一撃で跳ね飛ばす。
明らかにその威力は上がっていたのだった。
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