第3話 術式を開示する
「本当は極秘なんですが、体が入れ替わった以上隠しておくことはできないと思います」
僕が改めて話し始めたので、対面にいた花咲里さんが目を丸くした。
「お、おう。なんだか分かんないけど、シリアスな話ね」
「はい。僕が退魔師なのはご存知だと思うんですが、退魔師は法術というものを使います」
「法術?」
ここはファイヤー・アンド・ウインド合同会社の事務所。
帰ってきた僕らはここで休憩のお茶をしているのだ。
麦茶だけど。
「退魔師はみんな、法術を使うんです。独自の法術を使う人もいれば、一般的なものしか使えない人もいます。そしてみんな法力をもっているんですが……僕はそれがとても弱くて」
花咲里さんに説明する。
僕の力は、手にした物体を、退魔に使える道具……法具に変える力。
ただし、その法具はとても弱い。
そして僕はこの力の反動で、他に法具を使うことも、一般法力を使うこともできない。
「だからその、僕は花咲里さんに凄い苦労を押し付けてしまう形になってしまって……。というか、僕と花咲里さんが入れ替わったこれ自体が多分、花咲里さん生来の法術だと思うんですが。一般人にも何万人かに一人、法術を持って生まれてくる人がいるそうで」
「えっ!? それってあたしと上鳴くん、また元に戻れるってこと!?」
「あの……言いにくいんですけど……。この体の法力はもう空っぽなのと、それっぽい法術の気配がないので一生に一度だけ使えるようなものだった可能性が……」
「なななな、なにそれーっ!?」
花咲里さんが叫び、天を仰いだ。
「おーい上鳴くん……じゃない花咲里さん、編集してるから静かにねー」
奥から社長が顔を出して、また引っ込んだ。
「ああー、デビュー直後にそこの社長が金を持ち逃げして、一瞬で無職になった元アイドルが冒険配信者として返り咲き! って思ってたのに……」
花咲里さんが絶望していらっしゃる。
僕も、これから頑張ってやっていくぞと思った矢先に、自分の体となけなしの法力を失っている。
「これからどうしよう……」
「どうしましょうか……」
「ひとまずさ、あたしと上鳴くんで、お互いの情報を開示しよう。まず、あたしから。あたしはね、音ゲーが好き。元地下アイドル。高校二年生」
「そうなんですね……。音ゲー……って、あの画面の上からたくさんバーが落ちてきて、タイミングよく叩くやつですか?」
「そう! それ! しかも、全国でも順位高いんだよー。世界19位」
「すご!?」
「上鳴くんは?」
「僕……僕はその、たまに退魔師としての仕事が来ます。高校生やりながら、一人暮らしもしてて……それでたまに仕事を受けたり。あの、実家には帰れないです。僕が弱いので」
「ふんふん、なるほど。家に帰れないのは一緒ね……。で、趣味とかは?」
「お料理を少し」
「自炊できるの!? マジで!? 助かる!」
「助かるって……」
「あたし、引っ越すわ。あんたの住んでるとこの隣に。どうせあんま高くないとこ住んでるでしょ?」
「はあ、それはまあ……」
日々の退魔師で得られるお金では、高い家賃は払えない。
でも、花咲里さんが一人で越してくるなんて、女の子一人じゃ不用心なのでは……。いや、今は僕の体なんだったな。
ていうか、僕が花咲里さんの借りた部屋に住んで、花咲里さんが僕の部屋に住むことになるのか……!?
こうして、話がどんどん進んでいく。
僕はバイト初日だったはずなのに、いつの間にかダンジョン配信を行うチャンネルの中心人物になってしまい……。
花咲里さんは退魔師デビューすることになってしまった。
「絶対なんか裏があると思うのよね」
「何がですか」
即断即決。
本当に隣に引っ越してきた花咲里さん。
僕が暮らすマンションも、事故物件だらけの古い建物だ。
お陰で空き部屋がたくさんあって、希望があれば即日入居ができる。
僕は花咲里さんのふりをして入居を希望し、隣室を借りることができた。
それにこの物件、実際に霊障も起こるしね。
ただ、僕程度の退魔師でも祓える程度の霊障だ。
花咲里さんの部屋……つまり僕が住むことになる部屋も、僕が祓っておいた。
「弱いだけの能力ってある? 絶対に何か仕掛けがあるでしょ。あたし、そういうゲームとかに詳しいんだから。上鳴くんちょっと来て。今度のダンジョン配信アーカイブで検証してみましょ」
「検証……!? ど、どうやって……!?」
というか、あの危険な配信をまだやるつもりなんだろうか。
この体には何の法力もないし、戦うための格闘技とかを学んだことも無いらしい。
ゴボウで悪霊を祓ったのは何かの間違いとして……。
いや、あの時の光はなんだったんだ……!?
「あのね、あたしの体を使ったあんたが何故か受けて、今チャンネル登録者数が増えてるの。でさ、勢いがある今のうちに配信しないと流れが離れていくわけよ。今夜! 今夜やるわよ!」
「で、でも花咲里さんの体は法力がないから……」
「そんなもん、同接があればなんとかなるわよ! ……もしかして上鳴くん、同接の力とか知らない?」
「……なに、それ……?」
「その不安そうな顔! あたしが知らないあたしの表情! くうーっ、そんな顔ができたら、あたしはデビュー直後にセンターになれたのに! 女ゴリラとかダンシングプレデターとか、業界人にも噛みつくラーテルとか呼ばれずに済んだのに! 男の上鳴くんの方があたしをやれる才能があるのが悔しい……!!」
「お、落ち着いて花咲里さん! はい、これお茶。今朝作った緑茶を魔法瓶に入れてたから」
「あ、これはどうも……。美味しいー。あんた家庭的ね……。そのカワイさで家庭的……。女の子やる才能に満ち満ちてる……。ああそうそう、同接の話だったよね。これ、常識だと思ってたんだけど……もしかして子供の頃から、ダンジョン配信見させてもらえない家だった? あのね、同接……同時接続してる視聴者が増えるほど、配信者って強くなるのよ。で、上鳴くんにはそれを集める才能がある」
「そ、そうなの!? そんな、僕にそんな力が……」
「仕草があざとい!! 素なのか!? 素なのかその仕草! いい? 引っ越しの片付け終わったらすぐ事務所! 社長がダンジョン押さえてくれてるから、配信するからね!」
「は、はい!」
物凄い勢いに押されて、僕は次なる配信の約束をしてしまった。
しかも、僕が主役なのだ。
目に見えない視聴者相手に、僕が喋るのか……!?
そんなの未経験なんだけど……!!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




