第16話 手を伸ばしてきた退魔師界
「まさか男になって女子とともに下校することになるとは……」
「ふふふ、男子の理想的な学園生活なのではありませんかな?」
「それが恵美奈みたいな変わった女子じゃなきゃそうだよ」
男子高校生として生活をし始めて五日目。
まあまあ慣れてきた。
最初の頃は間違って女子トイレに入りそうになったりしたが、今はもう間違えない。
男子が入ったら人生終わりらしいからな……。
気を付けねばならない。
というか、男子トイレのあの恐るべきデリカシーのなさというか、男同士で横並びになって用を足す構造はなんとかならんのか。
ならないんだろうなあ。
「おや? 女子とともに歩いている時に他の女のことを考えていますかな?」
「いや、そうじゃないけど。恵美奈ってそういうこと言ってくるタイプなのな」
「いえいえ、私は言いませんけど、そもそも上鳴くんもいきなり女子を名前呼びするタイプだったんですかな?」
「は? そこは俺のこだわりだし。その人の名前呼ばなくて、どうやって向き合うよ」
「おお、信念がある……」
恵美奈がなんか感激したみたいで、リュックのショルダーベルトをぎゅっと握りしめて「んー、なかなか高得点ですぞ」とか言っている。
その仕草をすると胸元が寄せられるので、ただでさえボリュームが有るところがさらに……。
「やはり敵か……?」
数日前まで、人生をかけて醸成されていた感情が浮かび上がってくる。
いやいや、男子はこう言うのが好きなんだろう。
あたしの感情はともかく、体が反応しそうになっている。
落ち着け!
落ち着け明の体!!
本当に健全な男子なんだから。
というかお前、巨乳好きだっただろ絶対!!
と、帰り道を歩いていたあたしたちの前に、黒いバンが停まった。
そこから、複数の男が降りてくる。
格好はバラバラで、スーツ姿がいたり、着物姿がいたり、ラフな甚兵衛姿がいたり。
その中で、パーカーを着た男が前に出た。
なんかネチョっとした口調で……。
「上鳴明くぅーん」
おっ、明の知り合い?
「あれ? 上鳴くんの知り合いですかな? 明らかに怪しい連中ですが」
「そうかも知れない」
あたしが返事をしないので、パーカーの男がいきなり不機嫌になった。
「おい明ァ! お前、俺の言葉を無視とか偉くなったもんだなあ!」
あっと。
明の名前で呼ばれてたから他人事だと思ってた。
まだまだ、意識は体に馴染んでいないなあ。
で、あたしはあたしで、こういう偉そうで高圧的な物言いが嫌いなんだよな。
「あ? なんだてめえ誰だ?」
あたしが返答したら、パーカーの男が目を見開いてフリーズする。
他の男たちもそうだ。
なんか戸惑ってるみたいというか。
「お、お、お前、お前なあ! なんだあ、出来損ないの分際でその口の利き方は!! どれだけ出来損ないって言ってもな、法術を人前で使う非常識さはわきまえとけや!! おい、お前ら!!」
パーカーが声を掛けると、男たちがあたしと恵美奈に向かって小走りで寄ってくる。
「俺はなぁ、この間もお前に才能ないからやめろって言ったろうが。なのに調子に乗って配信? とか言うのに出やがって。あんなんインチキだろインチキ! 霊郭とやりあえるのは今も昔も、退魔師しかいないんだよ! おい、その女も連れて行け! 明の目の前で分からせてやるぜ……!」
「おぉ、つまり、お前が誰だか知らないけど、ゲスってことは分かったわ」
あたしはファイティングポーズをした。
これに反応して、男たちは懐や袖から、特殊警棒みたいなのを抜き出してくる。
普通なら、武器のある相手に素手じゃどうにもならない。
でも、明のなんか分からん音ゲーパワーなら……いける。
「恵美奈、あたしのスマホの音楽再生して。あと撮影もな」
「あっはい! 私を守ってくれるつもりですな? むむー、頼れる~」
この場に及んでそのノリは、肝の太い女だなあ。
恵美奈はミスなく、あたしのスマホの音楽アプリを再生してくれた。
ご機嫌なソングロイド楽曲が流れ始める。
これこれ!
「なんだ!? まあいい! 覚悟しろ上鳴明! おらーっ!」
振り下ろされる警棒を……。
「だらあ!」
下から拳で迎え撃つ!
動体視力と反射神経はこの間の実戦で確認済み!
タイミングはここ!
PERFECT!!
光が弾けて、警棒が跳ね上がった。
拳はちょっと痛い。
だが、いける。
「な、なにぃーっ!?」「今度はこっちだ! おらーっ!! 祈祷済みの法具警棒を喰らえ!」
「タイミングが見え見えだぜ! うりゃあ!!」
これも叩き落とす!
PERFECT!
これを数度繰り返したら、俺の拳が光り輝いた。
『PERFECT10連コンボ達成! ランクアップします!』
アンコモンの拳が!
特殊警棒を迎え撃つ!
「ウグワーッ!? 法具警棒が曲がった!?」「うおおお、止められ……ウグワーッ!」
一人は警棒ごと殴りつけてやった。
そいつは一瞬宙に浮いたので、そこをさらにぶん殴ったらぶっ倒れる。
「おお、アンコモンになったら全然痛くなくなった」
「うおーっ、人間相手でもやりますなあ上鳴くん!」
「へっへっへ、むしろこの体なら、今までできなかった人間相手の蹂躙が可能って分かっちゃったぜ」
「上鳴くん、日本は法治国家ですぞー」
分かってる分かってる!
男たちをぶちのめしたら、いい感じでコンボも溜まってきた。
ついに業を煮やして、パーカーが前に出てくる。
そいつは空に手をかざすと、何も無いところから金色の剣を呼んだ。
「もういい。上からの命令でお前を連行し、尋問する予定だったが……。抵抗するなら、俺がここで処分してやる! 出来損ないが! どういうイカサマを使ったかは知らんが、真の法具で仕留めてやろう!」
「刃物を人に向けるって本気か? ここは法治国家だぞ」
恵美奈の言葉をそのまま使わせてもらった。
いい煽りになったっぽい。
パーカーは顔を真っ赤にして、
「そんなもん、もみ消せるんだよぉーっ! 死ねやぁ!!」
剣を振り下ろしてきた!
これを拳で受けたら危ないか……!?
いや、下手に避けたらなんかそこから追ってきそう。
なら、初手で弾く!
タイミングを見計らい、刹那を捉える。
ここ!
拳で刃を弾く!
PERFECT!
「いてっ!」
ちょっと拳が切られたか!
だが……。
「なにぃーっ!? す、す、素手で法具を受けた!? バカな……そんなバカな……! お前、どういうイカサマを……!!」
『PERFECT20連コンボ達成! ランクアップします!』
あたしの拳も金色に輝き出した。
血が止まり、痛みも消える。
「よっしゃ、レアリティがレアだ! これで相手と五分五分ね!」
あたしは身構える。
パーカーはあたしを見て、目を見開きながら叫ぶ。
「ありえねえ! そんな……そんなバカな! お前……お前、何をやりやがった!」
ちょうどここで、音楽が切り替わる。
アップテンポな曲から、可愛い系のポップスだ。
音ゲーのやり方も戦い方も一緒。
大事なのは音楽に乗ること。
「ここからはやさしーく可愛がってやるからねえ! 行くぞオラァ!」
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




