第13話 すでにカワイイがカワイイをさらに作れ
「あああああああ~」
「明すごいじゃん! 登録者数がついに一万人……って、なんでテーブルに突っ伏してんの?」
「あー、花咲里ちゃんおかえりー。彼ね、自分のアーカイブを見返したら見たことのない仕草をする自分がいて、自分でダメージ受けてるんだよ」
「は? あれ、無意識でやってたの!? 喋ってる内容は普通に真っ当なのに、仕草と声色だけでリスナー……カザトモだっけ? 完全に落ちてたじゃん。魔性の女……ってあたしも戦慄してたのに。あれが……素……!?」
花咲里さんがドカドカ歩いてきて、テーブルにドンッと手を突いた。
うわーっ、僕がやらない荒っぽい男らしい動作!
「こ、こいつ、才能がある……ありすぎる……悔しい……! そしてあたしに、なんか荒事の才能があるっぽいのも悔しい……!」
荒事の才能?
花咲里さんも何かしていたんだろうか。
「社長! あたしが送った動画、編集してくれた?」
「今やるとこー」
「コラァ! 随分前に送ったでしょー! 今一番ホットな明だけに集中するってこと!? あたしと一緒に再起しようって誓ったのは嘘だったのかコノヤロー!」
「わーっ! 花咲里さん落ち着いて落ち着いて!」
慌てて花咲里さんを止めようと腰にしがみつくけど、全然刃が立たない!
ぐいぐい引っ張り回される!
「うわあああすごいパワーだ僕の体強い」
「抱きつくな明ー!? 絵面がヤバい! 絵面がヤバいから! 社長ー! あたしも男性配信者としてデビューして、ファイヤー・アンド・ウインドの所属配信者を二人にしようって言ってんの! つべこべ言わず編集やれー!」
「へいへい! 花咲里ちゃんは不屈だなあ。美味しそうなシーンをピックしてまとめてアップしとくよ。PickPockとショート動画でいい? あ、チャンネル作らなきゃって思ったらもう作ってあるじゃないか。準備いいなー」
「当然! よし、そんじゃあ帰るわよ明。あんたには教えることがある!」
「教える……こと……!?」
「メイクよ、メイク! 今まであたしがやったげてたけど、すっぴんだと街中で一発でバレるからね!? 冒険配信者ってアバターを被って活動してる人が多いけど、うちは予算不足でどうしても生身だから。そのうち収入が増えたらアバターを買う……」
「な、なるほど……」
「あと! あたしの顔はすでにカワイイけど、メイクによってさらにカワイイを作る! これ、人前に出る人気商売の鉄則。徹底的に叩き込んでやるからね……」
「ひーん」
「ひーんって言うな! メイクは妥協も泣き言も禁止だぞ! なお、予算はあまりないのでお手頃なコスメだけを使う技なのだ」
こうして僕は、花咲里さんにメイク修行をさせられてしまうのだった。
ちょっと前まで退魔師生活だったのに、今、想像もできなかった状況にいる……!
ちなみに、花咲里さんのショート動画はあまり伸びなかったらしい。
き、厳しい世界だ……!!
なんで僕は伸びてるんだ……!?
「というかあれ、法術を僕以上に使いこなしてる……。あれ? でも、法術は門外不出の技だったはずだけど、僕の体でこれを一般公開してて問題にならないかな……」
ちょっと不安になる僕。
いや、でも僕だしな。
僕程度の法術なら問題ないだろう。
なんか、悪霊を叩く度に手にした即席法具の格が上がっていき、動画最後の瞬間は退魔師の家がそれぞれ秘蔵する、家宝に匹敵する格に達してた気がするけど。
きっと気のせいだろう。
気のせいだと思いたい。
いや、花咲里さん!
君、退魔師としての才能が凄いよ……!!
翌日から、僕の忙しい生活が始まった。
活動への理解があるクラスメイトと教師に囲まれた、理想的な学園生活。
放課後は事務所で仕事の話。
花咲里さんに教わったメイクをやってみるけど……。
わ……割とできてるんじゃないかな。
「えっ!? 上鳴くん自分でメイクできるの!? すごいじゃーん。できてるじゃん!」
「本当ですか!? あ、いやあ、こういう方面のセンスがあるっていうのも複雑な気持ちで……」
時折配信はするけれど、ダンジョン配信ばかりとはいかない。
何しろ、ダンジョンは取り合いだ。
発生するなり、迷宮省と退魔師たちで奪い合いが発生し、迷宮省に登録された霊郭がダンジョンとされて、今度は配信者で予約合戦がスタートする。
「それにダンジョン配信ばかりだと、配信者も疲れちゃうからね。だから月の大半は雑談やゲーム配信が多いかな。歌枠もあるけど、これは版元に連絡してお金を払わなくちゃいけないんだよね……。ちなみに花咲里ちゃんは歌は上手いんだけど音程取るのが苦手で……」
「あ、僕、法術の詠唱の練習してたんで音程とか抑揚は得意です」
「ア、アイドルになるために生まれてきたような人だなあ君はあ!」
社長に持ち上げられてしまった!
嬉しいけど!
嬉しいけど嬉しくない!
「あ、それから今日は偉い人が来るから。メイクしてくれて助かった」
「偉い人……? 偉い人って、どなたなんですか?」
「チャラウェイさんって言ってね、俺の師匠なんだけど……」
社長の言葉が終わるより早く、扉がノックされた。
「は、はいはい!」
社長が巨体に見合わぬスピードで飛び出していく。
なんだろう……!?
すぐに戻ってきた社長だけど、その後ろに男の人を連れていた。
伸ばした髪を後ろでまとめていて、肌がとても日焼けしている。
真っ白なスーツ姿だけど、ワイシャツが明らかに柄物の開襟シャツで……。
一言で現すなら、が、ガラが悪い……!!
「おー、ここ来んのも久しぶりだなあー。お前んとこの活躍はちゃんと見てるぜファイヤー」
「はっ! 光栄ですチャラウェイさん!」
「おう。ああ、この娘がそうなんだな? なーるほど……中身が入れ替わったってのは本当らしい」
社長が椅子を引き、チャラウェイと呼ばれた人が腰掛ける。
「はじめまして、かざりんちゃん。俺はチャラウェイだ。知ってると思うが、ファイヤー社長のバックアップをやってる。今日はファイヤーに呼ばれてやって来たわけだが……」
「は、はい!」
なんだろう。
凄みを感じる人だ……!
「ぶっちゃけて聞くぜ。本心から答えてくれ」
「は、はい!」
「配信で被るアバター、どんなのがいい?」
「は……はい?」
想像もしなかった質問に、僕の思考はどこかに飛んでいくのだった。
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