第11話 収益化!?
女子校……体験してしまった。
何ていうか、別世界だった。
学校帰りに会社……社長いわく、事務所らしい……までやって来た僕。
放心状態で椅子にもたれている。
学校では普段から、目立たない方の僕。
友達らしい友達もいないけど、誰かに嫌われることもない。
そう、空気みたいなキャラだったんだけど……。
花咲里さんの通っている学校で、彼女はとても目立っていたようなのだ。
とても、本来の花咲里さんのテンションを演じることはできない!
僕は体調が悪いふりをして乗り切った。
そうしたらとても心配されてしまった。
な、な、なんて環境の良い学校なんだ……!
「ぼ、僕も頑張って花咲里さんみたいに振る舞えるようにしよう」
「いやー、それはやめておいたほうがいいと思うなあ!」
ファイヤー社長がやって来て、僕の体面に座った。
あれ?
なんだかすっごい笑顔だ。
「やめておいてってどうしてですか? あとそれに、社長すごく嬉しそう」
「あ、分かる? 実はね……。かざりちゃんねるが、収益化したんだよ! やった! ついにやったー!! 苦節半年、何をやっても登録者数がほとんど伸びず、師匠から借りた資金も底を尽きそうだったその時! 君が来たんだよ上鳴くーん!!」
嬉しそうに、僕の肩をポンポン叩いた。
あ、優しいタッチ。
「おっと、これはセクハラだったかな……」
「あっ、いいです。男同士ですし」
「今の君の体は花咲里ちゃんでしょ」
「そ、そうですけどぉ」
内心では!
男の自分を捨てたくなぁい!
「そう、それ! 君のその、必死に何かを演じつつ頑張っている健気さが! 多くの視聴者の心を掴んだんだよ! お陰で、半年間ピクリとも動かなかった二桁前半の登録者数が、いつ五桁になってもおかしくないくらいに!! だから上鳴くん! 君は君のままでいてほしい!!」
「あっ、はい……! ええ……。でもいいのかなあ……」
「いいのいいの! あっ、花咲里ちゃんからメールが……おっと、ペタファイル便? これは……動画かあ……」
社長はぶつぶつ言いながら、作業室に引っ込んでしまった。
動画編集から事務所の雑務まで、全てを担当している社長。
大変だなあ……。
さあ、僕はどうしよう。
今日は配信はしないみたいだけど、家に帰っても何も無いし……。
というか、まだ花咲里さんの体に慣れていない。
「うーん、うーん、うむむ……」
「ああ上鳴くん! もし暇だったらうちのツブヤキックス更新しといて! そこにパスワードのメモあるでしょ」
「あっ、はーい。……ええと……。これは何をすればいいの……?」
ツブヤキックスとかいうSNS?
僕は全くやらないから分からない。
この年まで、退魔師一本でやって来たからなあ。
「ええと……じゃあとりあえず……。こ、ん、に、ち、は、と」
挨拶を打ち込んでみた。
ぼーっと眺めていると、画面下側のベルみたいなマークに青い表示が付く。
「なんだろう……?」
タップしてみたら、通知、という画面が表示された。
『この純朴な反応は……かざりん!!』『新生かざりんだな?』『こんにちはー!』『かわいい!』『次の配信いつですか』『かわいいですね』『ボクっ娘はいいぞ』
「う、うわーっ! いきなりたくさん反応が……!!」
「えっ、ほんと!? うわあ、本当だ!! いつもは俺が広報しても、いいねが三つくらいしか付かないのに。フォロワー数が二桁増えるとこういうことになるんだな……」
社長がしみじみ感心していた。
「ああ、せっかくだから上鳴くん。ファンのみんなに何かやって欲しいこととか聞いておいて。俺が後で見て参考にするから」
「は、はい。ええと……。皆さん、僕に何をやってほしいですか……と」
書き込んだら、ワーッと返答があった。
うわーっ、なんだなんだ。
『ファンネーム決めて!』『かざりんのエゴサタグが欲しい!』『次の配信いつー?』『武器は何使うの!?』『かざりんに早く会いたーい!』
「うわーっ」
「凄いね……。みんな上鳴くんの魔性の魅力に当てられてる……。君はまさしく、我が社の救いの女神だよ」
「男なんですけどぉ!」
「いやいやいや、はっはっは。こりゃあ動画編集どころじゃないな。俺もちょっと、早急に配信先を見つけないと。ダンジョン、ダンジョン……。ちょうどいいのはっと……」
社長も編集部屋から出てきて、こっちでスマホをいじり始めてしまった。
この会社、こんなんでいいのかなあ……。
よそ見をしながらスマホをいじっていたら……。
妙なボタンを押してしまったみたいだった。
「いやね、せっかく収益化したんだから、ここはドカンと稼ぎたいよね」
「収益化ですか……。収益化ってそもそもなんなんですか?」
「それはね、アワチューブの動画で広告収入が入るし、スーパーチャットを投げてもらえるようになるから直接お金も入るってことだよ。今はパトロンボックス一本だけどね。どれもこれも、君のお陰だよ~」
「いえいえ、そんな、僕なんてなんにもしてなくて……。あ、でも、僕がちょっとでもお役に立てたなら嬉しいです。僕、なかなか誰かのために何かするってできなくって……」
……?
なんだか変なツブヤキが投稿されてる。
これもしかして……。
僕と社長の会話がライブ配信されてる……?
えっ、ツブヤキックスってそんな機能あるの!?
次々に通知がやってくる。
『収益化!?』『収益化めでたい!』『っていうかなんで収益化報告がツブヤキックスのライブなのw』『アワチューブの生配信でやんないの?』『これ、操作をミスしたっぽいな』『ポンだw』『真かざりん謙虚~』『けなげかわいい』
「ひ、ひええええ、社長! 社長~!」
「えっ!? 今の全部流れてるの!? まずいよー! せっかくの生配信のネタがこんなところでー!!」
慌てているうちに、僕らのこのミスは沢山の人に知れ渡ってしまったみたいだった。
数え切れないほどの『おめでとうございます!』が表示され、こんなに人に反応されたことがない僕の頭は、パンクしてしまった。
「……もうこれから配信しちゃおうか!」
「社長!?」
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