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第17話

「なごちゃん、どうして俺のことが好きだって気付いたの?」

 カフェから和の家までの帰り道。徒歩の和に合わせて、鳴海はその隣を自転車を引いて歩く。

 帰りが遅くなってしまうし、送ってもらうのは申し訳ないと和は言ったのだけれど、「俺がもうちょっと一緒にいたいだけだから」と鳴海は笑った。

 そんな鳴海からの問いかけに、和は「んっ」と息を詰まらせた。恋を自覚した決定的瞬間は、自分でも理解している。

 けれど、それを口にすることに少しだけ躊躇してしまう。

「……嫌な気持ちにさせちゃったら、ごめんね?」

「え? うん」

「あの、」和は唇を薄く、一度二度開いては閉じた。

「鳴海くんが、他の女の子に名前で呼ばれて、それから腕、触られてて、ちょっと嫌だなって思って……それで、そのときに、私、鳴海くんのことが好きだから、嫌だって思ったんだ……って」

 言葉の最後のほうは、もう声にすらなっていなかった。

 キッと音を鳴らして鳴海の自転車が止まる。

「えっ、いつ?」

驚いたような鳴海の声に、数歩遅れて和も足を止めた。おそるおそる鳴海のほうを振り向く。

「この前、私が鳴海くんの学校に行ったとき。校門のところで、鳴海くんと同じクラスの女の子が話しかけてきたでしょう? そのとき」

 今思い出しても、少しだけ胸の奥がモヤモヤとしてしまう。

 遠慮なく触れられる勢いが羨ましい。

 私の知らない鳴海くんの体温を知っていることが羨ましい。

 和は、鳴海に触れることのできない自分の手が悔しくて、スカートの裾を握り込んだ。

「……ヤキモチ、妬いてくれてたってこと?」

鳴海からの問いかけに、和は躊躇う。その表現で間違いないけれど、素直に認めていいものかと悩んだ。ヤキモチを妬くなんて、小さな子どもみたいだ。ましてや、自分が触れられないからだなんて、あまりに自分勝手で。

「うん」と消えいってしまいそうな声で、和は小さく頷いた。

「……」

「……」

 沈黙が流れる。それはたった数秒だったかもしれないけれど、和にはとても長く思えた。耐えきれず、「ごめん」と口を開きかけたときだ。

「……やばい」

 鳴海の小さな声が零れ落ちてくる。顔を上げれば、真っ赤な顔の口元を片手で隠す鳴海がいて、和は目を丸くした。

「ちょっと、嬉しい」

「……え?」

 想像もしていなかった言葉に、和は首を傾げた。

「いや、だから、『鳴海くん』って呼びたいって言ってくれたんだなって思って」

――やばい、かわいい。

 そう続けた鳴海に、和は一瞬呆けて、それから一気に顔を真っ赤に染めた。

「ち、違うのっ」

 両手を顔の前で大きく振る。

「違うの?」

「いや、あの、違わないけど……!」

 慌てる和を見て、鳴海は「どっち」と可笑しそうに笑い声をあげた。

 うう、と和が言葉を詰まらせると、鳴海は「俺さ」と軽い口調で話し出した。

「俺と一緒だって、嬉しかったんだよ」

「鳴海くんと、一緒?」

「うん」と鳴海は頷いた。

「俺も、なごちゃんの幼馴染のあいつが、『なご』って呼んでるのが羨ましかったから……」

 鳴海の口が拗ねている。初めて見る表情だ。

「なごちゃんに遠慮なく近付けるあいつが羨ましい。俺も、なごちゃんの幼馴染になれたらいいのになって、ずっと嫉妬してた」

 どこか、ムスッとした鳴海の声。

――かわいい。

 言いかけて、和は慌てて口をつぐむ。鳴海がどうして「かわいい」なんて言葉が出たのか分かった気がした。嫉妬されることが嬉しいという気持ちも。

 あのときも私のことを好きでいてくれたんだと、答え合わせをしているようだ。

 少し前まではもう夕焼けに染まる時間帯なのに、まだ空は青く明るい。

 蝉の音が、二人を囃し立てるように響いている。

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