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第13話

「ごめんね、私、今日は帰る」

 短い沈黙に耐えられず、和は立ち上がった。鳴海の顔は未だに見ることができないまま、足早にプールから出ようとする。和が急に動いたからか、黒猫はパッとまた茂みに消えていった。

「なごちゃん」

 鳴海の声が背中に当たる。待って、と呼び止められているけれど、和は立ち止まることも振り返ることができなかった。

 鳴海への気持ちを自覚したら、どんな顔をすればいいのか分からなくなってしまった。

 鳴海の腕に触れた女の子の手が忘れられない。同じ話題で盛り上がることができて、彼女は自分の知らないクラスメイトとしての鳴海の表情を知っているのだと思ったら、ひどく心が荒んでいく。

 それと同時に虚しさが心を覆いつくしていくのを感じていた。じゃあ、同じ学校に通っていたら、自分は彼女と同じように彼に触れることができたのだろうか。

……きっと、できない。

 どれだけ好きでも、大好きでも、きっと触れられない。

 恐怖がいつだって隙を窺うように隣にあって、あの日の男の人の温もりがじっとりと纏わりついている自分の心では、無理だ。きっと。絶対。

 さっきまでとは違う、誰もいない静かなグラウンドを全速力で駆け抜ける。

 息が苦しい。

 早く逃げ出したい。息が、できる場所へ。

「待って……!」

 正門の前に置いていた自転車のスタンドを外したとき、横から伸びてきた手が力強くカゴを掴んだ。自転車が大きく揺れる。

「は、離して」

「離さない」

「どうして、」

「だって、なんか、もう会えなくなる気がする」

そう続けた鳴海と目が合った。曇りのない鳴海の瞳が和を捉える。射抜かれたように、和は動けない。

「俺、それだけは絶対に嫌だ」

「どうして」

もう一度、和は震える声で呟くように尋ねた。

「なごちゃんのことが、好きだから」

逸らされない瞳。一拍も間を置かれることなく鳴海から紡がれた言葉は、夏の空気を纏った風に乗り、和の横髪を揺らした。

「だから、俺、なごちゃんに鳴海くんって呼ばれるのすげぇ嬉しいなって思って……さっきはびっくりしすぎて、ちょっと反応遅れたけど」

 徐々に鳴海の顔に紅が差し出す。和は突然の告白に、ただ鳴海を見つめ返すことしかできない。自転車のハンドルを握り直す手に、汗がじんわりと滲んだ。

 鳴海は、視線を彷徨わせる。

 カゴを掴んでいた手をゆっくりと離した。

「返事は、なくていいから。難しく考えないで欲しい。ただ、俺の気持ちを知って欲しかっただけ」

 すっかりと夏の陽射しを色濃く放つ太陽に雲がかかる。もう一度、和を見た鳴海は、その目を柔らかく細めて小首を傾げた。

「こんな俺でも良かったら、また会ってよ」

 低く掠れた声。鳴海の髪がさらりと揺れる。和は目を離すことができなかった。


明日の土曜日と明後日の日曜日の更新をお休みさせていただきます。

明日公開するお話のあと物語が大きく一歩前進する予定で、本日金曜日~日曜日までの3日間を使って、より楽しんでいただける内容にできるよう執筆して参ります。

再開は6日(月)朝6時です!よろしくお願いいたします!

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