第48話 竜族 2
ケガレもガキも言葉はもたない。彼らのただ一つの望みは人間に戻りたい、それだけで人を襲うのだ。戻れるわけもないのに。
「……」
しかし、トモエのガキは、何かを叫ぶように口を大きく開けた。
真っ黒な虚からは、腐った肺の音を吐きだすだけで、言葉を紡ぐことはできない。
けれど、ユカリノにはわかった。
ヤマトは元来、土地と共に生きる民である。だから、穢れた地から生まれるケガレと成り果てた、トモエの最後の思考が流れ込んできたのだ。
《私を土に返してくれ》
「承知!」
ユカリノはひらりと跳ぶと、トモエの胸に深々とフツを突き刺した。
「トモエ! アキツクニへ帰れ!」
「……!」
トモエだったものが、どうと斃れた。
ユカリノはその最後を見届けるために駆け寄る。彼女の肉体は、ほろほろと崩れ、大地に還っていった。フツにより、穢れは祓われたのだ。
「すまぬ、トモエ。我もいつか共に土に帰るほどに、今は許せ」
しかし、感慨に耽っている暇はなかった。ガキの群れはすぐそこまで迫っている。
「やれやれ、昨夜といい、今日といい。全く勤勉なことだ!」
ユカリノは恐れげもなく、ガキの群れに突っ込み、右へ左へとガキを斬っていった。ケガレと違って、腐っても肉体を持つガキは、深く斬らないと祓えない。とても一人で捌ける数ではなかった。
しかし、昨夜のような援軍は期待できない。というか、カルロの隊は今夜は来ないだろうとユカリノは思っている。
しかし、ユカリノは構わなかった。昨夜より、ガキの動きが鈍い気がする。中にはぼんやりと突っ立っているものもいるのだ。ここが竜族の王の墓であることも影響しているのだろうと、ユカリノは見当をつけた。
ひらりと身を返して、小山に駆け上る。
「不敬は承知であるが、許されよ。竜王殿、あなたの側にはこやつらも寄って来れまい!」
それはその通りで、ガキの群れは一体も陵墓に近づこうとはしなかった。一定の距離を保ちながらゆらゆらと蠢いている。
さて、これで一息つける。フツよ、もう少し頑張ってくれ!
「はっ!」
息を整えたユカリノは、再びフツと共に斜面を駆け降りる。
その時。
居並ぶガキがざっと道を開けた。というよりも、ユカリノの進路の両側に後退さったのだ。
「……さま〜あ!」
はるか向こうから、すごい勢いで駆けて来る影がある。腐敗した大気を割って花の香りの風が吹き込んだ。
「こちらですかぁ~?」
どんどん声が近づいてくる。限りなく慕わしい、愛しいあの声が。
黒髪を遊ばせて、ユカリノはふわりと笑った。
「ばか。来なくていいのに」
「ユーカーリーノさまーっ!」
オーリはガキが開けた道を、真っ直ぐにユカリノに向かって駆けてきた。
「遅れてすみません!」
「時間を指定した覚えはない」
ユカリノは緩みそうになる口元に、力を込めて堪えた。
オーリはそんなユカリノの心情にちっとも頓着しない。褒めて欲しい気持ちをいっぱいに、ひたすら腕を伸ばしてくる。
「でも、約束だったでしょう!? ここで落ち合うって! だから俺、来たんです。来ました!」
「そういえばそうか」
「そうですよ! やっと追いつきました! もう離しません!」
オーリは笑いながらユカリノを強く抱きしめた。
「死ぬまで、いーや、死んでも俺から離れないで!」




