第46話 ケガレの真実 3
「オーリヴェール、だと!?」
ユカリノは目を見張った。
オーリ、オーリヴェール……これは何かの符牒なのか!?
「そう。オーリヴェール。あなたの従者の青年の名と、よく似ていますね」
アルブレロの冷めた声が石壁に響く。
「ぐ、偶然だろう」
「ええそうですね。多分そうでしょう。でもね、私も調べたのです。彼のことを」
「ソドラ事件の時、オーリの肌を見たのだろう? 血まで抜いたな」
「人聞きの悪い。彼と取引をして、納得してもらったうえで少し分けて頂いたのですよ。彼は間違いなく竜族の末裔です。それもかなり強い血を持つ血統の」
「そんなことがなぜわかる。純血の竜族が消滅してから、もう長い間経つんだ。血など、とっくに薄まっているはずだ」
「彼の生家はね」
アルブレロはユカリノを無視して続ける。
「セルヴァの名門貴族の家柄なんですよ。そして彼は、現当主と実の妹との間にできた子なんです。つまり血族婚」
「なっ……」
「家の名は申しますまい。今ではすっかり落ちぶれていますから。まぁ、自業自得と言えないこともない。今は私の庇護下にあります」
「……」
「彼の父親――現当主は今も健在です。少なくとも体はね。父親が命じ、不義の子で異形の皮膚を持って生まれたオーリ君は、二重に忌み子として、屋敷から離れたところで隔離された。母である当主の妹君は、すっかり心を病んで、彼を産んでから八年後に自死をされたそうで」
「オーリは、自分が要らない子だと言っていた……」
ユカリノは、あまりにも辛いオーリの生い立ちに、衝撃を受けていた。
「実際そうなんですよ。母親は自分達の犯した罪と、生まれた赤子の皮膚を見て、徐々に気持ちがおかしくなっていったようですから。人間に呪いをかけたオーリヴェールの伝説にあやかって、オーリと名づけたのも彼女だったらしい。最後は気が触れて、部屋から一歩も出されなかったとか」
彼は八歳の時に、セルヴァから遠い危険なイニチャの森に捨てられた。あれは母の死がきっかけだったのだ。
「そんな……オーリ」
いつもユカリノを見つめ、後を追いながら笑いかけてくれた明るい少年。
そして、彼女を守って戦い、好きだ、愛しい、そして愛しいと、抱きしめてくれた優しすぎる青年。
そのオーリの過去は壮絶なものだった。
「オーリはこのことを知っているのか」
「多分知らないでしょう。調べる術が彼にはないですし」
「……」
「ですが、もう彼は要らない子ではありませんよ。ユカリノ殿」
「……血か。お前たちはオーリの血を利用するというのか」
「利用……言い方は悪いですが、それはもちろん。彼の持つ竜の血は、わずか一滴だけでもケガレを滅することができたのです。これで、あなた方ヤマトに苦労をかけずにすみます」
「だがオーリはどうなる! 血を搾り取って殺すのか!? させない!」
ユカリノの手はフツの柄にかかる。
「まぁまぁ、落ち着いてください。ユカリノ殿」
アルブレロはにこやかに両手を広げた。
「殺すですって? 誰がそんな残酷で無駄なことをするものですか。我々は彼をセルヴァンテで大切に保護し、良いものを食べていただき、時折少し血を頂くだけです。もちろん同意の上で」
「信用できない」
「しかし事実です。カルロたちの放った矢の威力を見たでしょう? オーリ殿の血に少々混ぜ物をした溶液に鏃を浸したのです」
「少々の混ぜ物?」
「いいですか? 竜族最後の青年は、人間に呪いをかけたオーリヴェールだ。ケガレが大陸中に現れたのは、その死の後から。純粋な竜族の王の血統には、それだけの力があったのです。信じられないことですが。だから、その呪いを収めるのもまた、その血を引き継ぐものでなければならないのです」
「嫌だ……ケガレは私が祓う。オーリをこれ以上巻き込みたくない」
「おっしゃいますが、最初に彼を巻き込んだのは、あなたではないですか、ユカリノ」
アルブレロは微笑んだ。
「それは!」
自分を見上げる、少年の瞳があまりに澄んでいたから。
こんな自分を慕い、愛してくれる青年があまりにも愛しかったから。
──いいや、違う。もう心を偽るな!
「……そうだ」
ユカリノはふっと笑った。
「その通りだ。私が巻き込んだ。私がオーリを傍に置きたかった。彼の愛を独占したかった……私はオーリを愛している。誰にもやらない」
「ほう、とても興味深い」
「なんだと?」
「私は竜族同士の掛け合わせを考えたが、確かに《《それ》》も一興だ」
アルブレロは、ぶつぶつと独り言を呟いている。その瞳がぎらぎらと輝き始めていた。
「竜族とヤマトの掛け合わせ。これは試す価値がある」
「お前はなにを言っている?」
「ホーリア。彼らを連れてきなさい」
アルブレロはユカリノを無視して言った。ホーリアは黙って出てゆき、程なくして、若い娘と壮年の男を連れて戻ってきた。
「誰だ?」
「ユカリノ殿、これらはソリティアとクエーサー。オーリ殿と同じく、竜族の末裔です」




