表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】夜明けの猫は、致死量の愛の夢を見る  作者: 文野さと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/62

第41話 セルヴァンテの思惑 3

 ユカリノは北へ、そして東へと道を急いだ。

 大陸北東、神聖セルヴァンテの都、セルヴァ。

 聖都セルヴァと呼ばれる神殿都市。


 北東、不吉な方角だ。

 

 ヤマトの古い言い伝えでは、厄災とは北東の方角からやってくるという。

 誰から聞いたのだったか、そんな伝説を。

 ユカリノの守屋があるインゲルの森から、セルヴァまではかなり遠いが、途中で馬を手に入れることができたので、行程がよほど捗った。

 目立つ黒髪はフードとマントの中に隠し、霊剣は布で巻いて荷物に紛れ込ませている。

 急いではいたが、真夜中の旅を避けていたので、ケガレとはほぼ遭遇しなかったし、ガキの出現は皆無だった。おかげで今はもう、セルヴァの郊外の村だ。

 ユカリノは情報を集めている。

 宿では宿泊客の会話の聞き取りをするために、普段出入りしない酒場の隅で夜を過ごした。

 そしてわかってきたことは。

「なぁ、聞いているか? 最近悪霊たちが人間の姿で出るようになったってよ」

「ええ……ってことは、ひょっとしたら、目の前のおめぇが悪霊だってこともあるってことか?」

「馬鹿言え! 悪霊に知能なんてあるかよ。けど、恐ろしいじゃないか。噂じゃ、罪人や、死んだばかりの奴の姿で人を襲うっていうぜ」

「うわぁ、怖くて夜は出歩けねぇな……って、真っ昼間以外は出るって話もある」

「恐ろしい話だ。城壁の外だけでなく、人気のない暗い町外れも危ねぇって聞く。ここらじゃあまだ噂程度だが、聖都セルヴァじゃあ、かなり深刻になっているって話だ」

「聖都が!? あそこは神官達が守りを固めているんじゃないのか? 神官長のアルブレロ様だっていらっしゃるし」

「けどほら、ここら辺の宿がこんなに混み合っているのは、聖都から逃げ出した奴らが多いからだ。きっとセルヴァで何かが起きている」

 横から大柄な男が口を挟む。

「セルヴァンテは隠したがっているが、みんな危ないって思ってるんだろう」


 ケガレが聖都に向かっている? ここまでケガレに出会わなかったのも、そのためか? あえて夜旅を避けていたけれど。


 ユカリノが夜旅を避けていたのは、ケガレと戦うことで体力を消耗し、旅を遅らせたくないからだった。

 けれど今の話によると、そんな必要はなかったのかもしれない。

 しかし、この村は聖都から半日余りのところに立地している。ケガレがセルヴァを目指しているのであれば、おそらく──。

「ご馳走様。お勘定を置いておく」

 ユカリノは店の奥に立つ店主に向かって、銅貨数枚を並べた。

「ちょ、ちょっとお兄さん、夜は危ないよ。この上は宿屋だ、今夜は泊まっていきな。あいにく部屋は空いてないけど、相部屋を頼んでみるから」

「大丈夫だ。ありがとう」

 心配そうな店主を前に、ユカリノは出口へと踵を返す。

「兄さん、そんなちっさな体で無茶だよ!」

「そうだ、俺も部屋を取れなかったんだ。今夜はここで俺たちと飲み明かそうぜ」

 そう言った男がユカリノのマントの背中を掴む。その拍子にフードが滑り落ちた。黒髪、そして異国風の美貌が灯火の下に明らかになった。

 途端に賑やかだった酒場が静まり返る。

「あんた……ヤマトの人か」

「すげぇ、俺初めて見た。まだ子どもじゃねぇか」

「けったいな格好だ……けど、綺麗なもんだな」

 ユカリノは構わず歩き出す。

「おい、あんた」

 呼び止めたのは大柄な男だった。

「あんたはヤマトか」

「……」

 ユカリノは小さく頷いた。

「ならさっきから話は聞いていたな。あんたがここにいるってことは、この村もやばいってことか?」

「それを確かめるために来た」

「そんなちっさな体で戦えるのか? 俺はこれでも元兵士だ。何だったら手を貸すぜ」

「必要ない」

「怖くないのか? 武器は」

「ある。見せられないが」

「どうやって悪霊と戦う?」

 よほど腕に自信があるのか、それともユカリノに興味が湧いたのか、男は執拗だった。

「祓う」

「ハラウ? なんだそれ」

 男が手を伸ばすのを、ユカリノはさっと避けた。

「おい! 失礼だろ……あ」

 立ち上がった大きな男を遮るように、水平に構えられた霊刀フツ。鞘を見ただけでも、それが通常の武器ではないとわかる。額に汗を浮かべて男は下がった。

「もう行く」

 ユカリノはフードを被り直すと、今度こそ酒場を後にした。

 男たちの視線が、自分の背中に集まっているのを感じる。

 皆、怖いのだ。

 ケガレが。

 ──そして、自分が。

 ユカリノは明るい宿屋を後に、夜の道を一人進んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ