第40話 セルヴァンテの思惑 2
「掛け合わせ? 復活? というか、掛け合わせって?」
オーリの素直な問いに、サキモリはやや怯んだ。
驚くべきことに、彼が放った異様な輝きは収まっていた。
「そりゃお前……えっとなんだ、その……無理やりつがわせるんだ」
「つが……う」
「わかるか?」
「……はい」
オーリは、非常に不愉快そうに頷いた。その様子は、いつもの素直な青年だ。
「聞きなれない言葉だけど、わかります。大人の男と女が何をするかってことくらい、俺だって知ってる」
「へー。まぁ、お前も十八歳だしな」
サキモリは口の端を釣り上げた。
「けど、俺は誰ともつがわない。俺とって女の人は、ユカリノ様だけです」
「まぁ、それだけダダ漏れじゃあ、皆わかってるだろうよ。で、お前ユカリノとどうにかなったの?」
「なるわけないでしょ。俺はユカリノ様が傷つくようなことは絶対しない」
「聞いてすまんが、お前ひょっとしてその……童貞?」
「そうですよ、それがなんです!」
オーリは胸を張って言い返す。
「あーはいはい。ですよね。ユカリノ様一筋のお前が、他の女と致しているなんて、俺からしても不愉快だわ。悪かった」
「どうでもいいです、そんなこと。それよりも俺はあなたに聞きたいことがある」
オーリはサキモリに目を据えた。
「俺の血がケガレに対する武器になるのなら、ヤマトの役割はどうなる?」
「私もよくは知らない」
「確かに俺の血にはケガレを抑える効果がある。実践済みです。だけどそれは、一時的なものだ。ヤマトのように祓えはしない。俺の血で、ケガレの悪意は消滅しないんだ。一時的に殺せても多分、復活する……と思う」
祓うという行為は、浄化させるということだ。その点でヤマトは、稀有な民族なのだった。
「確かにそうだ。だが、霊刀と違って血は誰にでも扱える。武器に竜族の血を染み込ませただけで、普通の人間でもケガレやガキを殺せる……というか、斃せる。これは大きな利点だ」
「だから血を?」
「ああ、おそらくアルブレロは何らかの実験をして、お前の血で決定的な成果を上げたんだろう。他の二人の竜族は、お前より血の力が弱いらしく、お前の血ほどの成果は上げられなかったみたいだから」
「俺の血が」
ユカリノ様は、だから俺を?
オーリは最後に見たユカリノの背中を思い出した。強くて、儚い背中を。
「アルブレロは、一旦手放したお前を連れてくるよう、ユカリノに書簡を送ったはずだ」
「ユカリノ様はきっと、セルヴァンテの書簡より早く、あなたの知らせを見たんだ。それで、俺をセルヴァンテから隠そうとして、あなたのところへ」
オーリの額に汗が浮かぶ。
「一旦はそうだ。ユカリノといると、どうしても目立つからな。ユカリノはこの書面でお前を私に託した。俺は隻腕で以前のように戦えないから、半ば見捨てられたようなものだ。だから、情報集めというもっともらしい名目で、ここまできたんだ。だが、ここを嗅ぎつけられるのも時間の問題だ。トモエのことがあった今では」
「ええ。ユカリノ様も衝撃を受けておられました。トモエさんの身に何があったんですか?」
「トモエは、おそらく異常化したケガレに喰われた。あいつもずっと薬を飲まされていて、実年齢は四十くらいだった。だからとうに、ヤマトとしての盛りは過ぎていたんだ。しかし依頼を受けて、セルヴァ近くの街に行った。聖都近くなら、大したケガレも出ないと思って油断したんだろう。確かに今までならそうだった」
サキモリの顔が暗くなった。
「死体はなかったそうだ。ただあいつの愛刀、ノワキだけが見つかった」
「どんなケガレだったんです?」
「なぁオーリ、最近ここらじゃケガレを見なくなったろ? 出てもひょろい奴ばかりで」
「ええ。でもそれはユカリノ様のおかげで……」
「当然それはある。だが、俺はケガレの奴らが、セルヴァの近くに移動していると見ている」
「でもどうやって?」
「さぁな。奴らはいわば実態のない死霊だ。地面の中の闇、陰の気を伝っていくのかもしれない」
「それでなんで聖都に集結を? セルヴァはいわば奴らにとって敵の地では?」
「それも俺にはわからない。ただ……もしかしたら復讐なのかもしれない。だが話は一旦ここまでだ。後は道すがら話そう。そら!」
サキモリは部屋の隅から荷袋を投げて寄越した。
「急いでここを発つぞ。俺はお前を託された」
「サキモリさん、礼を言います。でもね、俺、自分のことはどうでもいいんです」
オーリは荷袋を背中に担いだ。
「俺の行くべきところはセルヴァだ。このままではユカリノ様が危ない」
「……まぁ、そういうだろうとは思ったけどもな。だが、神聖セルヴァンテは信用できない。最近のケガレの変容にも彼らが関わっている」
「わかってます」
オーリは既に扉に手をかけている。
「ユカリノ様は言ったんだ。待ってるって。約束だって。だから俺は行かなくちゃいけない」
「死ぬかもしれないぞ」
サキモリの言葉にオーリは笑った。
「サキモリさん、知らないんですね。俺はすごく強いんですよ!」
青年は扉を開く。
その日、最初の朝日が彼を照らし出した。




