第21話 想いの名前 1
市場を楽しんだユカリノは帰途につく。
荷物はオーリが背に担ぎ、空いた手は自然にユカリノの指先を握っていた。
「大きくなったな、オーリ」
ユカリノは自分より頭一つ以上大きくなった青年を見上げた。
首も、肩幅も、腕も、何もかも大きく強く、逞しくなった。けれど、自分を見る優しい眼差しは、いつまでも変わらない。
「ユカリノ様?」
「なんでもない。さぁ、行くぞ」
二人は守屋に戻り、オーリは早速買ったものを整理しはじめる。
私達には少し距離感が必要なのかな?
人との交わりを制限すること。
それはヤマトとして生を受けた者にとって、諦めとも運命とも言えるものだ。戦う民に幸せになる選択肢はない。
「ご飯にしますね。今日はちょっと色々作れそうです」
なぜだか炉の側で黙り込んでしまったユカリノに背を向け、オーリは保存食の調理を始めた。
すき、好き。好きってなんだろう?
ミラは俺のことが好きって言ったけど、俺だってミラのことは好きだ。でも、ミラとユカリノ様を同等には考えられない。
じゃあ、この感情はなんと言うのだろう?
いつも一緒にいたい。ずっと見つめていたい。微笑んでほしい。
俺に、守らせてほしい。
柔らかいところに触れたい。そして、触れてほしい。
「てっ!」
「どうした!」
ユカリノは指を洗っているオーリへ駆け寄る。
「いやぁ……ぼんやりしてたらナイフで指を突いちゃって」
「見せてみろ……ああ、結構血が出ているな」
そう言いながら、ユカリノはオーリの指をぱくんと咥えた。
「あっ……」
自分の無骨な指先を、桜色の小さな唇が包み込んでいる。青年の体の奥が脈を打った。熱い塊が迫り上がる。
こんな時に!
大人の兵士たちは男なら普通だと笑って話すが、オーリには自分が汚れているとしか思えない。
これは「好き」なんていう、綺麗な言葉では表せない。
もっと昏い感情だ。こんなものをユカリノ様に絶対知られたくない!
「あ、あの……もう大丈夫です。野菜が汚れないように、油紙を巻きますから!」
オーリが腰を引きながらユカリノから指を引き抜いた時、勢いよく扉が開いた。
「ユカリノ! どうなってるんだ! 町で落ち合う約束だったろうが!」
ユカリノよりも年嵩のヤマト、トモエがぷりぷりしながら入ってきた。




