エピソード9「焦燥」
「お嬢様、王宮から手紙が届いております」
エマが、アルフレッド殿下からのものらしい封筒を差し出した。
(またお茶会の招待状かな? それとも、またドレスのプレゼント?)
封を切り、中身を読み始める。
『ルイーゼへ』
まず、その書き出しにドキリとする。これまでは『ルイーゼ公爵令嬢へ』だった。呼び捨てにされたのは茶会の時だけだと思っていたのに、手紙でもか。
『いつもの茶会とは違い、二人でゆっくり話をしたいと思い、筆を執った。明後日、王宮の敷地内にある離宮にて、君を迎えることを望む。時間は君の都合に合わせるが、午後が良いだろうか。返信を待っている。アルフレッド』
手紙から漂う、いつもと違う雰囲気。いつもの事務的な招待状とはまるで違う。二人きりで、ゆっくり話したい? しかも離宮?
(なんや、これ……? いつもの茶会でええやん。離宮なんて、特別な時しか使わへん場所やんか……)
私の頭の中で、様々な可能性が駆け巡る。
(まさか、婚約破棄の前触れか? でも、それならもっとフォーマルな場で、父上も交えて話があるはずやし……)
(それとも、ヒロインちゃんが見つかったとか? それで、事前に私に説明しておこうってこと?)
(いや、まさか……)
最も考えたくない可能性が、頭の片隅をよぎる。彼が、私に、その『真実の愛』を、まだ見ぬヒロインではなく、私に向けている、という可能性。
(いやいや、ないない! あんなん、物語の都合でヒロインに発動するチートみたいなもんやん! 私みたいな、計画通りに動いてる転生者に向けられるわけないやん!)
強く否定するものの、アルフレッドの最近の言動や、この手紙の真剣な雰囲気が、私の不安を煽る。
「お嬢様?」
私の顔色が悪いのを見て、エマが心配そうに声をかける。
「……エマ。明後日、王宮の離宮に、アルフレッド様にお招きいただいたわ。準備をお願い」
「かしこまりました!どのような装いがよろしいでしょうか?普段よりも少し改まった方がよろしいかと……」
「……そうね。ええと……そうねえ……」
頭が全く回らない。優雅な身のこなしも、完璧な返答も、今の私には難しい。
(なんでこんな時に! 頼むから、ヒロインちゃん! 早く登場してくれー!)
運命の歯車が、予想外の方向へ音を立てて動き始めたような、嫌な予感がした。これは、私の『マブダチ作戦』にとって、最大の危機かもしれない。あるいは……新たな物語の始まり、なのか。
私は手紙を握りしめ、深い溜息をついた。マブダチになるはずが、どうやら状況はより複雑になってしまったようだ。
そして明後日。私はアルフレッド王子の待つ離宮へと向かうことになる。そこで、一体何が語られるのか。私の平穏な老後計画は、どうなってしまうのか。
これからの展開に、期待と不安が入り混じりながらも、私は顔を上げた。物語の主人公は、私なのだから。どんな展開になろうと、私が望む未来を、この手で掴み取ってみせる。物理のパワー(と、ちょっぴりの計画)で、何とかしてやる!
そう固く心に誓ったのだった。




