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第八章 王冠と責務

第八章 王冠と責務


「王とは何か」


鯨岡壮児――いや、ミハアントニス・テ・ハムショウは、その問いに答えるべく王冠を見つめていた。宝石がはめ込まれた王冠は、過去の栄光と権威の象徴であったが、今やそれは重荷でしかないようにも思えた。


朝の陽光が差し込む執務室で、彼は一人、記録簿と対話していた。国家予算、各地の農作物収穫報告、失業率、教育水準――それらは彼にとって、抽象ではなく「現実」だった。


「王は国の象徴ではない。国民の生活を背負う存在だ」


その考えは、もはや信条であった。



鯨岡が王として即位してからの改革は、確かに国を揺るがせた。


歳出の公開、累進課税制度の導入、軍部の粛清、そして三派閥に分かれた政治構造の浮上。


そのすべてが、「王政の再定義」を促していた。


伝統にすがる者たちは、鯨岡の行動を「背信」と呼んだ。


共和を志す者たちは、「中途半端な理想」と罵った。


だが鯨岡は、どちらの意見にも耳を傾けながら、最後に自らの意志で答えを出す覚悟を固めていた。


「私は、形骸化した王ではなく、責任を持って国を導く王となる」



ある日、王は地方の小都市を視察した。


舗装されていない街道を馬車で進み、貧民街を歩き、工房で職人たちと話した。


「お前が、王様か?」


泥まみれの子供が、恐れることなく彼に尋ねた。


「そうだ」


「じゃあ、なんで靴が俺たちと同じくらい汚れてるんだ?」


鯨岡は微笑んで答えた。


「お前たちの歩く道が、私の道だからだ」


この言葉は、その地にいた民の胸に深く刻まれた。


それは一つの象徴となり、後に「道を共にする王」と呼ばれる所以となる。



王宮に戻った後、鯨岡は新たな提案を議会に示した。


「王政を制度として再設計する」


・王は行政の長として執政責任を負う

・王政評議会は立法と監視の権限を持つ

・評議会議員は選挙または任命により構成され、民意を反映する

・王の命令は公開され、議会に対して説明責任を持つ


これは、まさに半共和・半君主制とも言うべき政治体制であった。


「王は法に従い、法に守られる。その上でこそ、信頼される」


この提案は賛否両論を呼び、議場は騒然とした。


だが不思議なことに、かつて王政打倒を叫んでいた改革派の一部が、静かに支持の意思を示した。


「陛下のその姿勢は、私たちが求めていた『説明する権力者』そのものです」


キエ・エッシェンバッハ大公もまた、その場で膝をついた。


「陛下。あなたこそ、我々が信じるべき未来です」



その夜、鯨岡は再び王冠を手にした。


「これは、ただの装飾品ではない」


彼は自らの手で冠を掲げ、ゆっくりと頭に載せた。


「これは、背負う覚悟の証だ」


かつては象徴に過ぎなかった王。


だが今、彼は決断した。


自らの意志で国を背負う王として、運命と向き合うことを。


第八章、王はただの影ではなく、未来を照らす光となる。


それが、ミハアントニス・テ・ハムショウ王政再建の核心であった。



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