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第七章 三つ巴の影

第七章 三つ巴の影


暗殺未遂事件の余波は、想像以上に大きかった。


軍部における粛清と再編が始まると同時に、国内の政治構造にも大きな揺らぎが訪れていた。もはや、王国の中枢は単純な「王と臣下」の構図ではなかった。


王を支持する王党派。

変革を求める改革派。

そして伝統を守ろうとする旧体制派。


この三勢力が、王宮と元老院、地方評議会、そして都市の経済界にまで複雑に絡み合い、密かに、しかし激しく火花を散らしていた。



王党派は、鯨岡の覚悟と行動に感銘を受けた若手官僚、地方の有志領主、新制度に期待をかける都市民などで構成されていた。

彼らは「正しき王の下に、新しい秩序を築くべきだ」と信じていた。


だがその理念は、常に改革派とぶつかる。


改革派は元々、王政を否定する思想の者も含んでおり、共和制や議会主導の統治を主張する者もいた。学者、都市の商工会、そして一部の官僚がこれに加担していた。


「陛下がいかに聡明でも、王という存在そのものが旧時代の遺物ではないか?」


彼らはそう論じた。


一方、旧体制派は貴族階級とその配下である地方軍閥、そして大教会の一部勢力が核だった。彼らは鯨岡の改革により、特権と影響力を著しく削がれていた。


「改革とは、破壊だ。陛下は国を壊している」


その言葉が、密かに多くの特権層の支持を集めていた。



ある夜、キエ・エッシェンバッハは王の執務室で報告書を差し出した。


「三派の動向をまとめました。王党派は拡大傾向。改革派は都市部で勢力を強めています。旧体制派は、どうやら国外に支援を求め始めたようです」


「内乱の予兆か」


鯨岡の声は低く、それでいて揺るぎなかった。


「……陛下、いま必要なのは、戦うことではなく、位置を定めることです」


「位置を、定める?」


キエはうなずいた。


「三つの派閥のうち、どれか一つに重心を置くこと。それが政権の安定を生む」


「だが、私は……真の変革を望む。派閥のためでなく、国の未来のために」


「ならば、“第四の道”を作ることです」



第四の道――それは、いかなる派閥にも組み込まれず、それでいて全派閥から信頼される中立的な道だった。


翌朝、鯨岡は王政評議会にて演説を行った。


「王政は、もはや過去の遺産ではない。我々は、責任ある執政者として生まれ変わる。王は象徴ではなく、判断と行動の中心であるべきだ」


「私は、いかなる派閥にも属さぬ。だが、全ての派閥と対話し、妥協と信念の上に、新たな政治体制を築くことを約束する」


議場に静寂が走った。


それは宣戦布告ではなかった。


だが、明確な意思表明だった。


こうして、王党派は勢いを増し、改革派の一部も王に協調姿勢を見せ始めた。


だが、旧体制派は沈黙の中で牙を研ぎ、反乱の機を狙い続けていた。


第七章、政争はもはや政争ではなく、国家の形を問う戦いへと姿を変えようとしていた。



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