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第六章 影より来たる

第六章 影より来たる


それは一通の密書から始まった。


「陛下の御身に危険が迫っています」


送り主不明、封蝋には見覚えのない紋章。だが文面は異様なまでに具体的だった。王が朝の視察に出る時間、道順、そして予定されていた護衛の配置。


「……誰かが、内側にいるな」


鯨岡は呟いた。すぐさま警備体制を変更し、自身の行動を取りやめた。その判断が、命を救うことになる。


予定されていた王の通行路で、時刻通りに爆裂音が響いた。護衛に変装していた兵が、炸薬を仕掛けていたのだ。


騒然とする王宮。犯人は逃走したが、王は即座に軍内の洗査を命じた。調査は厳しく、容赦なく行われた。結果、6名の将校が拘束された。


その中には、元老院軍部代表・ハーゲン将軍の側近が含まれていた。


「軍の一部が動いたか……」


キエ・エッシェンバッハ大公は、軍の要職を歴任してきた経歴を持つ。彼の表情に、かつてないほどの険しさが浮かんでいた。


「彼らは、権益を守ろうとしている」


それは単なる暗殺未遂ではない。王による財政改革、課税制度の変更、貴族制の再編――これらすべてが、軍の既得権益を脅かしていた。


「このままでは、反乱の火種が燻る」


鯨岡はうなずいた。「だからこそ、我々が先手を打たねばならない」



三日後、王は異例の形で軍司令部を訪問した。


王の登場に、将校たちは沈黙した。だが、鯨岡は逃げなかった。王座に座るのではなく、円卓の端に立った。


「私の命を狙った者が、あなた方の中にいた。だが私は、軍を疑ってはいない。私は“腐った根”だけを断つ。組織の幹までは枯らさない」


沈黙。


「この国は変わらねばならない。私もまた、その責任を背負う覚悟でここに立っている」


その日以降、軍は二つに割れた。

一つは王に忠誠を誓い、新たな軍制改革に協力する者たち。

もう一つは陰に潜り、王を排除しようとする者たち。


鯨岡は、分かっていた。

「これは始まりにすぎない。だが、腐敗に剣を振るうのならば、私はその矢面に立とう」


王の覚悟は、確かに試されようとしていた。

第六章、静かなる内戦の幕が、音もなく上がった。



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