6 私、孤児院で暮らすなんて初めてなんですが。
体調不良だから休む……ということにしてもらえたおかげで今日は料理の手伝い等々しなくて済みました。
明日元に戻れるならいいけれど、何日もこのままだった場合ごまかしきれないですね……。
料理なんてできないし、どうしましょう。
覚えなきゃいけないわけ?
古着に着替えて、小さなベッドに潜り込みます。
手足が長くて細い。何食べて生きたらこんなに細くなるのでしょう。
うちのバスルームより狭い部屋に、古いベッドが三つ。
布団は干してあったのか、思いの外ふっくらしていて温かい。
同じ国の中に、こんな小さすぎる家があるなんて信じられない。
寝て覚めたら元の体に戻ってないかな。
ぼんやり低い天井を見上げていたら、ボーイとリリー、マリーがそばによってきました。
「ジン兄ちゃん元気になれよな。そんで、元気になったら遊んで」
「またあそんでね」
「げんきになってね」
まだ青い香りのするシロツメクサを枕元に置かれました。
普段の私なら「雑草なんて要らない」と言ってしまいそう。
でも、この子達にもらうと不思議と穏やかな気持ちになりますね。
体がジンだから、そう思うのでしょうか?
「ありがとう」
ジンを演じるのでなく、素直に答えます。
「俺、今日は先生のとこで寝るから兄ちゃんゆっくりしてくれよな」
子どもたちが出ていってしばらくすると、院長先生が食事をはこんで来ました。
「ジン。ごはん食べられそう?」
作りたてで湯気の立つ、パンのおかゆです。
うちの食事と比べ物にならないほど少ない。
でも何かお腹に入れないと、ジンの体が保たないものね。
「いただきます」
ふむふむ。パンをヤギのミルクで煮込んで調味しただけのものだけど、悪くはないですね。
そばで食べるところを見ていた院長先生が、口を開きました。
「あなた、ジンじゃないわね」
「!?」
スプーンを落としそうになった。
入れ替わったことについて何も話していないのに、バレたのですが?
「な、なにを……」
「ジンは左利きなのよ。あなたは右手でスプーンを持ったでしょう。それに、雰囲気や表情が全然違う。わたしはジンが赤ちゃんのときから見ているのよ。間違えるわけないわ」
なんて素晴らしい観察眼。
この人なら、信用していい。
力になってくれるに違いありません!
「あなたは誰?」
「お察しのとおりです。……私は、フィーネ・エンデバー。階段から落ちたとき、ジンと入れ替わってしまったみたいなんです」
院長先生はじっと私を見つめ返して、そっと頭をなでてくれた。
「そうなのね。突然のことであなたも戸惑っているでしょうに。あの子達を心配させないように、ジンとして振る舞ってくれていたのでしょ? ありがとう。優しい人なのね、フィーネさんは」
どうしましょう。どうするのが正解?
お父様からもお母様からも、こんなふうにしてもらったことがないからわかりません。
動けずにいる私に、院長先生は言います。
「きっと元に戻れるわ。だから顔を上げて」
「……はい」
ここに来るまで、孤児院というのは親のいない子どもが放り込まれるひどい環境のところというおおざっぱな印象しかなかった。
でも、血のつながりはなくてもこんなに温かい繋がりがある場所なのですね。
ジンが穏やかな性格に育ったのが頷けます。
「この体はなんとかして、必ず、ジンに返します。だから院長先生も心配ならさないでくださいませ」
「ありがとう、フィーネさん」
院長先生が微笑む。
こうして、初の孤児院生活は過ぎていきました。




