3 僕の姿でお嬢様言葉はやめてほしい。
送迎の馬車が準備され、二人で乗り込んだ。
フィーネさんが暮らしているエンデバー家の別邸は、孤児院と同じ町にあるらしい。
馬車は平民住宅街の孤児院に停まってから、町の一等地のエンデバー家へと向かう予定になっている。
フィーネさんの体で孤児院に帰るわけにはいかないから、フィーネさん(体は僕)が孤児院に帰ることになる。
ここで一つ問題があった。
「現在うちの孤児院には僕を含めて五人が住んでいる。院長先生、それから僕以外に三人の子ども。七歳のボーイ。四歳の双子リリーとマリー。院長先生一人では大変だから、幼い子どもたちの世話や料理や洗濯は僕が手伝っている」
「ちょっと待って。いまは私がジンなんですよ!? 建物内のことを何も知らないし、貴方のふりをするにしても、料理も洗濯もできないです! 子どもの世話なんてしたことないし! 怪しまれるでしょ!?」
仕草や口調が違う時点でもう怪しいわけだが。
「ええと……まず僕が一緒に孤児院に行くから「クラスメートが来たから自己紹介と院内の案内をして」と子どもたちに言って。寝室や台所、食堂も一通り見ることができる。「階段から落ちて頭を打ったから早退したんだ、安静にしないといけない」とそこだけ伝えれば今日の洗濯料理は回避できる…………たぶん」
「……たぶんって。私は元に戻れるまで貴方として生活しないといけないの!? 料理も洗濯も掃除も使用人の仕事です。なぜ私がそんな汚れ仕事しないといけないのです」
「ひどい言われようだなぁ……」
僕が平民なのは変えようがない。
家事手伝いは当たり前のこと。
貴族からすると「そんなの使用人の仕事」
根本的に違うんだな。
食事は使用人、掃除も洗濯も使用人。本人は何して生きているんだろ。
同じ学園に通っていても、僕は貴族の日常を何も知らない。
一年近く経つけれど、いつも僕は一人で黙々勉強しているから。
フィーネさんだけでなく、他のクラスメートとも挨拶以外の言葉を交わしたことがない。
「……セント・クレメンタインに入学してこんなに誰かと話したの、初めてかもしれない。同い年なのに、貴族の子女は家事手伝いなんてしないんだり知らなかったよ」
「貴方、日頃からそういうことしているなら、使用人になれると思いますよ? お金がないなら私がお父様に頼んでエンデバー家の雑務として雇って差し上げてもよろしいのですよ」
高飛車なお嬢様笑いする僕(の体のフィーネさん)。
痛い。痛すぎる。つらい。
「あの、僕の顔でその言葉遣いやめてもらえない?? なんか、すごくいたたまれない」
「失敬な!」
馬車の中が二人きりで良かった。女言葉の僕を他の人に見られるのほんと無理。