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#0 果ての地で。


・・・あぁ、着けたのか。


彼が目を覚ました時、まず寒さを感じた。だが感覚はほとんど麻痺していた。恐らく氷点下を優に超えているだろうが彼はただ『かなり寒い』という感想しか持ち得なかった。


しかし身体の異常は知覚していた。声は出ず、体の一部も欠損か、完全に感覚が無くなっていると感じたのだ。思うように動かせない。幸い目は両方とも無事だった。右の視界がかなり掠れてはいたが。

少し目を動かすと、左手で黒ずみ破れた布切れを持っているのが見えた。55という数字が、黄金(こがね)色の糸で、所々焦げたように暗くなってはいたが刺繍されてあることが伺えた。


そして次に場所を探った。まだ夢にいるのか寝ぼけているのか、不思議な色彩が視界いっぱいに広がっていた。それは青いのか、ピンク色をしているのか、はたまた橙なのかも分からないような色。それをとても大きなキャンバスに描いたような・・・そして明るい光・・・太陽が視界の上端に入った。それは空だった。


冷たい風の音が容赦なく耳に響いていることも理解した。


記憶も曖昧だった。だがこの場所に辿り着くことが目的だったことだけは少なくとも覚えており、今見ているこの摩訶不思議な美しい情景が現実であることを彼は認めた。


だがこの場所はなんだろう?


彼は、自分がこのまま仰向けに伏せた状態で何年も時が過ぎている気がしていた。空が見えているのに、日が変わったのかどうかもわからない。時の流れが何倍にも早まり、ただ暗く見える時間が無くなったのか、それとも本当に1日も経っていないのか。瞬きの度に空が変わっている気もした。が、何故そうなってしまっているのか、彼のぼろぼろの頭では考えることすら面倒に感じた。


もっとずっと時間が経って、夜になった。

空には満天の星が白や青、赤など多様な色彩で瞬いていて、満月はまるで、物語の最後にして最強の敵のように高いところから自分を見下すように光っていた。


ここまでか・・・


彼は苦笑とも、心からの幸せともとれる笑いを浮かべた。顎がない気がした。


次第にまた眠気が襲ってきた。今や彼を脅かす敵は眠気だけになっていた。


このまま目を瞑ったら二度と起きないで欲しいなぁ。


彼はそう願って、目を閉じた。




明るい・・・




明るい・・・




明るい・・・




自分はきっと死んだんだ。


彼は死後の世界の可能性に心を踊らせた。


まず何が見えるのだろうか?


どんな景色が広がっているのだろうか?


それとも既にあの空が死後の世界の光景だったのだろうか?


明るさは刻々と増してきた。まだ目を開けれるような気がして、彼は光の正体が何かが気になりその眼を開く。


暗闇の中で、一つ明るく輝く光が近づいてくる。まるで星が降ってくるように。


その光が彼のすぐ上まで来ると、手が伸びてきた。差し伸べて来たのだ。

訳が分からないないながらも、彼は自分の『本能』ともいうべきものがその手を取れと命令するままに、自分のぼろぼろの右手を挙げて、差し伸べられた手を握った。


瞬間、全てが流れた。

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