第三話「再会」
盗賊を追ってしばらく路地裏を進むと、またどこかから騒ぎ声が聞こえてくる。
「いたぞ! 盗賊だ!」
路地裏の更へと進んだ方から叫び声が響いた。
「ライアン!」
「はい!」
リオとライアンは頷き合い、声のした方へと駆けていく。路地裏を奥へと進むと、大通りの喧騒は遠くなり、どんどんと荒廃した雰囲気が強まっていった。建物も表通りに並ぶものより、簡易的で荒んだものが多い。瓦礫が散乱した場所に出ると、遠くの方で物音がした。
「いた!」
隣でライアンが叫んだ。
黒いローブを身に纏った男が前方で駆けている。フードを目深に被っていて顔は分からない。
「メロ!」
ライアンはメロを呼ぶ。
「え! ま、魔獣……!?」
「こいつは俺の友達、メロ。大丈夫、魔獣だけど人に危害は加えない」
「そ、そうなんですか……?」
ライアンは驚いた表情をしている。リオはそれに構わず、メロに言う。
「メロ頼む!」
「ばう!」
メロはリオの肩へと登ると、そのまま大きく跳躍した。いっきに前方を走るローブの男の前へと出る。そして小さく炎を噴き出した。攻撃力はない。だが、足止めだけなら十分だった。
ローブの男の動きが鈍り、リオ達は男を取り囲んだ。
「さあ、盗賊さんよ。ここまでだぜ!」
リオはローブの男と対峙する。
「こいつは……魔獣」
男は立ち止まると、メロを見てそう言った。男はおもむろに被っていたフードを脱ぎ、隠れていた顔が現れになる。三十代くらいの髭面の男だった。ぼさぼさの赤毛が所どころハネている。
「なぜオレを追う?」
「そりゃ盗賊だからだよ」
「ふむ。盗賊か……オレは盗賊じゃないんだがな」
「盗賊じゃない?」
盗賊でないなら何だというのだろう。
「まあ、いい……どうせ消えてもらうんだからよ」
そう言うと、男は懐から何かを取り出した。
「これが手に入ったんだ。もうオレに刃向かえるものはない」
手に持っていたのは赤い鉱石。それが不思議と淡く光り始めた。
するとそれを強く握り込んだ。
「うっ……!」
男が唸る。そして、蹲った。
「ど、どうしたんだ……?」
状況がまったくわからず、混乱するリオ。ライアンも隣でいきなりおかしな挙動をした男を見て怯えている。
「ふっ……ははは」
すると、男が笑い始める。
「これが……これがそうか……やっとわかったぜ」
「なんなんだよ……?」
「お前らよく見ているといい……これが幻獣使いとなった者の力だァ……!」
そう言うと、こちらに手の平を向ける。
「力を貸せ! 幻獣……!」
そう言うと、男の手から膨大な熱量の炎が噴き出した。
「魔法……!?」
リオは慌ててライアンを抱いて、転げる。熱波が肌を掠めたが、なんとか避けることができた。すぐに体制を立て直し、元居た場所の状況を見て愕然とした。放たれた炎は遠くまで伸び、後方に並ぶ民家を焼き払い炎が吹き荒れていたのだ。見れば熱で地面が少しえぐれている。熱波で肌がぢりぢりと痛んだ。
「なんだこの力は……」
「ふ、普通の魔法じゃありません……!」
ライアンがそう叫ぶ。
彼の言う通り、高等魔法でもこれほどの威力は相当な実力者でなければ放つことはできない。
「くっ……」
辺りが燃え、住民の叫び声で辺りが騒がしくなっていく。騒ぎは広まり、近くに住むスラム街の住人たちが一斉に逃げ出し始めた。
「力を制御しきれなかったか……」
男がそう言い、自らの手を見つめた。
「お前! なにしたかわかってんのか……! 盗みの罪どころじゃなくなったからな!」
「どうでもいいことだ」
男はそう言うと、またこちらに攻撃を放とうとする。
「やめるんだ、ヴァンス」
すると、背後から声がした。
「え……?」
リオは驚きで一瞬、固まる。まるで時が止まったかのような感覚。
聞き覚えのある声だった。とても懐かしい声。
過去の記憶が過った。それは友人と話した記憶。むかし聞いた声が脳内に再生され、反響する。
「まだ制御できないだろう? その力を」
再び聞こえてきたその声にやはり聞き覚えがあって、リオは思わず振り返った。
そこにいたのは真っ黒な背広を着た青年。自分が何年ものあいだ探し求めていた友人の姿。
肩ほどまで伸びた銀色の髪。綺麗に整った眉目。そして、頬にある縦に伸びる小さな傷痕。見間違おうはずがない。
探していた友人、ルイスがそこにいた。




