第二話「盗賊」
アンナを振り切り、路地裏を抜けて人通りの多い場所へと出た。港町であるこの町は商人や旅人など外から来る者も多く、とても賑わっている。多くの露店が並び、肉の焼ける匂いや果実の甘酸っぱい香りが鼻をくすぐった。
「しかし、メロ」
リオは上着のポケットに隠れているメロに話しかける。
先ほどの引っ張り合いで鞄が壊れて使い物にならなくなったので、しょうがなくメロにはポケットに隠れてもらうことにしたのだ。狭いだろうと思ったが、思いのほか上着のポケットが気に入ったらしく、メロは心地よさそうにしている。
「初っ端から騎士に目を付けられるなんて、俺らの旅、どうなっちまうかね?」
「ばうっ」
やれやれといった風にメロは首を振った。
「困ったもんだ……」
しかし、これからどうしたものだろうかとリオは思う。ルイスを見つけ出すため旅に出たが、あてがない。
「まっ、まずは聞き込みかな……」
大通りを歩き、とりあえず近くを歩いていた青年にリオは話しかける。
「ちょっといいか? 人を探しているんだが……」
「急いでいるんだ」
そう言うと、青年は去っていく。
「うーん……こりゃ大変そうだな」
聞き込みで見つけるのはなかなか骨が折れそうだ。
「うん?」
前方のほうから叫び声が聞こえた。それからなにやら辺り騒がしくなる。
「いたぞ!」
裏通りから出てきた騎士が、そう叫んだ。
「例の盗賊か?」
「あっちにいたぞー!」
通行人が路地へと続く道を指さしている。どうやらそちらに逃げ込んだようだ。
「盗賊のせいで、アンナに目を付けられっちまったわけだし、そいつがどんな奴か見に行くのも悪くないか。なあ、メロ?」
「ばうっ!」
「人様の物盗んでんだ。ほっとくわけにもいかねえしな」
通行人が指さした路地へと入る。入り組んだ道を直感で突き進んだ。奥のほうで声がする。どうやらほかにも追っている者がいるようだ。
路地の曲がり角へと差し掛かり、曲がろうとしたその時、
「ぐはっ!」
向こうからやってきた者とぶつかってしまった。しかし、ぶつかった相手が小柄だったため、リオは咄嗟に相手を抱きとめていた。
「おっと……」
「す、すみません……!」
そう言って頭を下げたのは眼鏡をかけた小柄な男の子。まだ幼さの残る顔をした茶髪の少年だった。気弱そうな瞳をしていて、おどおどとこちらに頭を下げている。
「お前も盗賊を追っていたのか?」
「え、ええ……」
「どっちに行った?」
「み、見失ってしまいました……もう帰ろうかなと」
「そうか……」
もう少し探してみようかと思ったが、そこまでして盗賊を追う理由もないかと、リオは思った。
「ま、しょうがねえな。見失っちまったんじゃ。お前もさっきの騒ぎを聞きつけて、追ってたのか?」
「え、ええ……僕、盗賊に入れてもらいたくて」
「は?」
驚いて聞き返してしまう。
盗賊に入りたい? 捕まえるために追っていたのではなかったのだろうか。リオは疑問に思い、少年に問いかける。
「おいおい、なに言ってるんだよ? 悪党になろうってのか?」
「ぼ、僕……学校で勉強しかできない弱虫って呼ばれてて……盗賊になったらそんなこと言われないかなって」
「盗賊になったら、学校になんか行けないだろう。騎士団に捕まる」
「そ、それもそうですけど……」
「分かってんならやめといたほうがいいと思うぞ……?」
「でも、もう弱虫って呼ばれるの嫌なんです……盗賊はみんなに恐れられてるし、僕も入れば……!」
「それで盗賊か……極端だな」
それほど追い詰められているということなのだろうか。
「お前、名前は?」
「ライアンです……」
「そうか、俺はリオだ。ライアン、盗賊になったら後悔するかもしれないぞ? なにか違うことで、周りに認められるようにしてみたらどうだ……?」
「分かってます……盗賊なんかなってもしょうがないって。でも、どうしたらいいかわからなくて……」
「んじゃ、俺と盗賊捕まえてみるってのはどうだ?」
「え?」
「盗賊になるより、盗賊捕まえたほうが一目置かれるだろう」
「た、確かに……!」
目をきらきらさせ、それだと言わんばかりにライアンは頷いた。
「よし、決まりだ! 一緒に盗賊探そうぜ!」




