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魔法使い:マリー

「やばいでしょ、これは。マジやばい。激ヤバ」


 マリーは困惑している。


「リアルに《白銀の風》のアシュリー様が降臨してるんですけど。やば過ぎでしょ」


 ダンジョン最下層、戦闘で崩れた瓦礫の山にひそみながら、魔物と戦闘中の冒険者パーティーを目で追っている。


「はあー、推しの美形賢者、マジ眼福すぎる。誰か医者よんでー(笑)」


 興奮のおさまらないマリーは、だけど一人きりだった。


  〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 マリーはE級冒険者だが、どこのパーティーにも正式に所属したことはなく、ギルドにフリー登録をしており、ヘルプの依頼があった時だけ、どこかのパーティーに同行する。


 魔法の才があり、食べていく手段として冒険者になったものの、冒険への憧れや功名心もないので、昇級申請もせずにE級のままでいる。


 受ける依頼はほとんどがダンジョン探索の補助なのだが、探索中は常に、さっさと依頼を達成して休養したいなと考えており、指示があれば従うが、積極的に立ち回ることはない。


 この国には多くのダンジョンがあり、多くの冒険者が活発に町を行き来するため、それに合わせた産業や文化が栄えていて、その一つが、町の愛好家の間で形成された、有名冒険者たちのファンコミュニティである。


 彼らの似顔絵や行動記録が出回り、冒険譚の書籍化、いかがわしい空想小説まで闇で取り引きされるなど、若者を中心にちょっとした流行を生んでおり、それらがマリーの生きがいだった。


 好みの冒険者のグッズを買い集めるためになら、パーティーに同行し、苦手なコミュニケーションを取りながら、ダンジョンへ潜ることも耐えられた。


 しかし今回はひどかった。


「下らなかったなー、あいつら。マジでファックだったわ。転移ミスって亜空間に落ちてればいいのに(笑)」


 探索が始まった時から違和感はあったのだが、どうやら槍使い(男)と弓使い(男)が、聖職者(女)を巡って対立しているようで、マリーにも感じ取れるほど、パーティー内の空気がギスギスしていた。


「そもそもあの女のどこに取り合う要素があるんだっての。どう見ても困った振りして状況楽しんでるビッチだったじゃん。姫プレイの駒だっての、何でわかんないかねー。ふ、聖職者とか(笑)」


 だんだんと探索中のイライラが積もっていき、最下層で帰還のための転移術を聖職者が構築している間にも、男二人の口論が続いていたので、とうとう我慢が切れて、発動直前の魔法陣から出て、転移する彼らを、中指を立てて見送った。


 あと少し我慢すれば帰還してギルドに活動報告して解散できただろうが、それよりも珍しく自分の意思をはっきりと示せたことで、マリーはとても晴れやかな気分だった。


 それはいいのだが、帰る手段がない。


 常に持ち歩いている似顔絵たちを眺めて現実逃避でもしていたいが、ダンジョン最下層ではそうもいかない。


 結局はどこかのパーティーを探して助けてもらうしかないかと、ため息を連発しながらフロアをさ迷っていたところで、かすかに爆発音が聞こえた。


 様子を見に行くと、似顔絵や空想小説の登場人物たちが、現実のものとして戦っていた。賢者アシュリー率いる、A級パーティー《白銀の翼》だ。


  〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「ど、ど、ど、どうしよう。助けに入るべきかな、きっとそうだよね」


 彼らはすでに長時間戦ってるようで、それぞれが負傷しており、アシュリーの白い肌に滴る血の筋に、マリーは興奮して意識を失いそうになる。


「いま助けるのはもったいない、機を待とう」


 敵はマンティコアで、マリーも実際に見るのは初めてだったが、まあA級だし全滅するようなこともないだろう、と考えた。


「戦闘が終わったら出ていけばいいや。足を怪我して歩けませんとか言って。それは大変でしたね、とか言われて。え、私、お姫様抱っこで運ばれる? いや、鼻血出るっつーの。それか、おんぶでもいいな。で、アシュリー様も意外と強気で、『黙って背中乗ってろよ』みたいな。おほっ、やばいって、マジで孕むってそんなの。あ、重戦士のサイラスさんもカッコいいわー」

「……おい」

「ガチムチは私は専門じゃないけどアシュリー様と並ぶとやっぱり絵になるわー。ギャー! 距離近いって! 何二人そんな顔近づけて話すんだっての、仲良しかってーの! 何ですか、あれですか? 『あんまり俺から離れるなよ』みたいな? 『こんな掠り傷にヒールいらねえよ、舐めとけば治るさ』『じゃあそうさせてもらおう』みたいな? ブヒィイイイイー! アシュ×サイでご飯が進むー!」

「なあ、あんたって」

「──へ?」


 少し離れたところで、同じように瓦礫に隠れた男がいる。美しくはない。


「あんた、ずっと何をブツブツ言ってるん? 頭おかしいんか?」


 何だこいつ、と、マリーは思った。


「そんなとこでボサッと見てないで加勢したれや、あいつら頑張って戦ってるやん」

「……別に、パーティーじゃないし」


 マリーにとって美しくない男は虫とか花とかと同じ分類なので、コミュニケーションが苦手という以前に、まともに会話をするつもりがなく、取り乱しているところを見られた恥ずかしさもない。


「いや、それ関係ある? 普通、ピンチの人おったら助けるもんじゃないの?」

「……じゃあ、あなたが助けてあげればいいじゃないですか」

「オレは無理や。怪我してるし」


 ここにいる事情はともかく、男が嘘をついており、どっしり座って気楽に戦闘を見物しているだけのやじ馬だということはマリーにはすぐわかったが、自分もそんなようなものなので、批判はせず、無視をすることに決めた。


「しっかし、アシュリーも結局、口ばっかりやな。こんなダンジョンで手間取ってたら、魔王をどうこうするとかの夢は一生叶わんやろな」


 魔法杖を男に向けて爆撃魔法を発動しかけていたマリーだったが、ある疑問が浮かんで手を下ろした。


「……気のせいか、彼のことを知ってるような口ぶりですね?」

「あー? ああ、アシュリーは何回か飲んだことあるで。他は知らんけど」

「私はマリーって言います。少し、お話しませんか?」


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