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F級冒険者:ジーノ

「今、モンスターに襲われたら終わるなあ」


 ジーノは最下層のフロアを一人で歩いていた。


 事の発端は数日前の酒場にある。


 ドラゴンは体の構造さえわかっていればソロで倒せる、というホラ話を友人たちにしていたところ、たまたま近くの席にいたC級パーティーに声を掛けられて、今回の探索に誘われたのだ。


 ジーノは酒に酔っていたこともあり、その場で安請け合いをしたことを忘れていて、当日の朝に宿屋に迎えに来られると、あとには退けず、同行する羽目になった。


 彼らは他国から出稼ぎに来たC級パーティーで、ジーノはF級冒険者なので、普通なら同行を頼まれるようなことはない。


 わざとランクをあげないように戦果を調整していると言うジーノの見栄と、飲み仲間たちが悪のりで、あんた達はラッキーだ、ジーノとダンジョンに潜って生還できなかった奴は(潜った奴も)0人だ、などと囃し立てなければ。


──10階層に幻影トラップありますよ、あれ、ご存じないw?

──まあ他国のぬるいダンジョンとは違うってことなんでしょうねww

──いや魔封エリアくらいあるに決まってるじゃないですか、え、逆に何でないと思ったのか教えてほしいんですけどwww


 これは全てジーノが彼らに言った台詞だ。ジーノは人の気持ちを考えない。


 ダンジョンの何階層まで潜ったのかという質問には答えず、ギルドで仕入れた情報のみをまくしたてている内に、彼らはジーノを、性格に難はあるが、実力はあるタイプの冒険者だと思ったようだ。


「どう考えてもオレのせいではないよなあ」


 最下層についた途端、メイジタイガーの強襲があり、先制で放たれた炎系魔法がジーノを襲ったが、タンクがかばってダメージを負い、爆炎が広がって視界を塞がれる中でパーティーは追撃に備えて防御姿勢を取り、ジーノは一人で背後に逃走した。ジーノは逃げ足が速い。


 通路の入り組んだ場所まで非難して、一息ついた。


「あー、危なかったー。もうちょっとで怪我するところやったわ」


 そしてたっぷりと休憩を取り、水分補給と携帯食も食べて、そろそろ戦闘も終わった頃だろうと、今はパーティーの元へ戻るためにフロア通路を引き返している。ジーノは面の皮が厚い。


 実際のところ、ジーノは冒険者に詳しく、ダンジョンに関する知識もかなりある。


 公開されているマップは、あらかた頭に入っているし、到達歴や魔物分布、トラップ情報なども記憶している。


 もともとはただの趣味で情報を集め始め、同じ趣味を持つ少数の仲間たちと、日々、情報を交換し合ったり、冒険者たちの武勇伝や失敗談を酒のつまみに語り合うのが何よりの喜びだった。


 自分が冒険者の資格を取ったのもその延長で、冒険がしたいとか世界を救いたいとかいう志はなく、ただ仲間たちにマウントを取るためだった。ジーノは性質が悪いタイプのオタクだ。


「しかし、リアルなダンジョンてのは、ええなあ。何か肌寒いのも雰囲気あるわ」


 ジーノはメモを取る。今回のパーティーは他国からの出稼ぎ組なので情報がなく、自筆の名鑑に書き加えるために、メンバーの名前と職業、スキルなどをわかる範囲で書き込み、備考欄には「雑魚 いけてB級 リーダーが偽善者っぽい」と記した。ジーノの審査は厳しい。


 運よく魔物に出くわさずフロアを歩き続け、角を曲がろうとした時に話し声が聞こえて、そっと顔を出すと、パーティーの姿が見えた。


「何や、無事やったんか。え、どうやって登場しよ」


──もうほっとけよ、あんな奴。


 向こうで戦闘をしていたという言いわけのために疲れた表情を作っていると、メンバーの一人が言うのが聞こえた。


──大体さあ、ジーノだっけ。あいつ、怪しくねえ?

「え……、オレの話してる?」

──ファイアバードに魔法撃てって言ったら、むかし文鳥飼ってたから鳥は撃てないって言うし。

「くっ、無理があったか」

──バジリスク倒したっていうから、どうやってって聞いたら、急に咳き込んで、呪いを受けてて喋ろうとするとのどが焼けるとかさ、今考えたら不自然だよ。

「その場で気付けや、それは」

──待ってくれよ! 俺は、あいつを信じるよ。

「おお、さすがリーダー。C級やけどw」

──仲間は見捨てない。それがこのパーティーの流儀だろう?

「いい奴過ぎて、胸が痛むわー」

──ただ、ここはいったん退こうか。危険が多過ぎる。

「最初から信用してなかったわ」


 そしてパーティーは上の階層へ向けて、あっさりと退却していった。


「ちぇっ。何や、あいつら」


 声に力はなく、うつむいて壁の破片を蹴飛ばした。ジーノは傷付きやすい。


「仲間放置でギルドに訴えよ。冒険者資格、停止になるかもやからな」


 王立学園時代、羽目を外して酒盛りをした同級生たちを匿名で告発して、停学になった時は「こんなのやり過ぎだよ」と、涙ぐんで同情している振りをして心の中で喜びに打ち震えていた。ジーノは告発的なことが好きだ。


「しかし、まずいな。帰り道はわかるけど、あいつら戦闘しながらだし、途中で追い付いたら、さすがに気まずいわ」


 時間を置いてから出口に向かうことにして、それまで暇潰しにフロアを探索することにした。


 最下層フロアは広大で、完全なマップは未だに制作されていない。


 把握しきれていない場所を進むことは、ジーノにはかなり危険だが、それ以上に胸が躍る行為でもあった。ジーノはダンジョン探索が好きだ。


 音が聞こえて、耳を澄ます。爆発音と複数の人の声。戦闘している。


 ダンジョンの最深部では、上階との通路も複数あるため、同時に複数のパーティーが潜っていることも多い。


 ジーノは走る。足音を立てないことや、盗み聞きや、身をひそめるなどの行為は得意分野だった。ジーノは泥棒に向いている。


 現場付近へたどり着くと、激しい戦闘で壁が破壊された残骸が多くあり、それらの陰に隠れて、状況を把握する。


「うお、マンティコアか。けっこうでかいな。これは見物やぞ」


 未確認のボスを除けば、ダンジョン最強とされているマンティコアと、四人組のパーティーが激しい戦闘をしている。周囲の破壊範囲の広さからして、かなりの時間、戦闘を続けているらしい。


「あれ、A級の《白銀の風》やんな。有名パーティーで実力も確からしいけど、さすがにマンティコア相手やと微妙か」


 かなり疲弊している様子で、特に後衛の回復術師と思しき女性は、傍目にわかるほどぎりぎりの状態だ。


「ジリ貧か。こうなったらオレも──、気合い入れて見学したるしかないなあ」


 しっかりと腰を据えて、疲れない姿勢を取る。冒険者オタクのジーノにとって、高レベルの戦闘をライブで見られることは至福の時間だった。ジーノは性根が腐っている。


──ふふ、うふふ。


 近くで誰かの笑い声が聞こえて、ジーノは腰を抜かした。


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