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君が僕を好きなことを知ってる  作者: 大天使ミコエル


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78 敵情視察(3)

 えっ……なんでこの人泣いてるの!?


 陽子さんも驚いたのか、

「すみません店長さん!ウインナーコーヒー!ウインナー増し増し!」

 と、怪しげなタイミングで暗号を使ってしまっている。

 おかげで店長達が聞き耳を立てて様々な状況に対応してくれようとしているけど。


 とりあえず、慌てた律は、怪しまれないよう、

「えっと……。大丈夫ですか?」

 と、声を掛けた。


「あ、はい」

 と言いながらも、高坂さんはポロポロと泣いている。

 律がハンカチを渡すと、素直に受け取った。

 次の瞬間、ビービー言いながらすっかり泣いてしまった。


 どうしたのかと聞く前に、高坂さんが自分で語り出す。


「礼央は……。礼央は……私の子なのに……」


「…………」

 つい、律も陽子さんも唖然とした顔をした。


「私の方が……、何も知らなくて……っ」


 ……どうやら、関わり合いがないのは本当だけれど、息子として見てないわけではないようだ。


 陽子さんが、高坂さんの背中を撫ぜてやる。


「私……。再婚なんですけど、礼央は……、前の夫の子なんです」


「…………」

 律は、コーヒーを一口啜る。

 よかった、ブラックコーヒーにして。

 甘いコーヒーだったら、飲む気にならなかったかもしれない。


「けど、あの子が小学生の頃に、夫が亡くなって。借金だけが残ってしまって。600万円。パートタイムだけで、返せる金額ではなくて。その時、今の夫になる人が……、言ったんです。その時働いていた店の、お客さんです。『結婚したら、学費も全て出してやる』って」


 弱そうな人。ううん、見た目だけじゃない。きっととても弱い人。

 けど、お茶の誘いに乗ってきた人。

 人前で泣いて。勝手にこんなに喋って。


 この人は、……もう限界だったんだ。

 誰かに話さないと、視野が狭くなるくらいに。


 誘いに乗ったのも、助けを求めるような気持ちだったのかもしれない。


「だから、結婚してもらったんです。あっという間に借金は無くなって、学費も全て出す約束をしてもらって。けど、結婚してすぐの頃から、家の中で礼央と話すと、睨まれるようになりました。それで……私は……、礼央がターゲットにならないように、家の中でも、礼央の事を無視するようになって……」


 それにしたって、なんて話を聞かされているのだろう。

 お金を見返りに結婚するとか。

 対等であるべき結婚を、してもらったと表現するとか。

 実の息子を無視するとか。


 イジメの状況。

 この人が……、実行犯。傍観者。


 律は目を閉じた。


 最悪だ。


 けど、この人を責めても何もならないわね。


 店長の手によって席へ届けられたウインナー増し増しのウインナーコーヒーは、体裁を整えるためか、陽子さんが高坂さんへ勧めた。

 それにしても、ウインナーコーヒーのウインナーって……何を増したのかしら。

「これ、この店の売り出し商品なの。美味しいから、疲れてるならこれ飲んでみて」


「ありがとうございます」

 高坂さんが、涙を拭いながら微笑む。

 確かに、礼央くんの笑顔に少し似ている。


 この人に必要なのはきっと……、悩みを相談できる相手。気軽に話せる友人……。


 そうね、これは乗りかかった船というやつだ。


「そんな気分の時は、やっぱりケーキがいいと思うの。次、いつが空いてるかしら」

れおくん編は次回で最後にしようと思います。

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