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7 それは確信のほど近く

「かんぱーい」

 青空の下。

 オレンジジュースの缶がぶつかって、ぽこんぽこん、と音を立てた。


 金網で囲まれただけの屋上は、少し寒かったけれど、昼休みは人も多く居心地はいい。


「次は勝とうぜ〜!」


 ケントの言葉にみんなが笑う。

「じゃあ、俺が稽古つけてやるから」

 サクがドヤ顔を向ける。


 クラスの女子達が、「おつかれー」「見てたよー」と通りすがっていく。


「れおくんは弁当?」

 サクが礼央の弁当を覗き込む。

「うん」

 礼央は、いかにもお弁当といった雰囲気の、丁寧に彩られ、弁当のセオリーを踏襲したような弁当を持っていた。

「俺も部活の日は弁当。週4」

 と言うサクは、礼央の弁当の三倍はありそうな弁当箱に、白飯白飯唐揚げ、といった様子だ。


「俺らは購買」

 言いながら、ケントがパンを齧る。


「購買の惣菜パン、けっこう美味しくてさ」

 と、亮太も惣菜パンを袋から取り出した。


「美味しそうだね。それ、チキン?」


 礼央が話しかけてくる。


「そそ。てりやき」


 普通に話せるじゃん。


「これ美味しくてさ。最近、購買にハマってんの」


 購買のパンは、どうやら近所のパン屋と提携しているもので、購買では、パン屋の屋号が描かれたトレーに何種類ものパンが並べて置いてある。

 クリームパンやメロンパンといった基本的なパンの他、ピザトーストやドーナツまである。

 最近、亮太が気に入ったのが、この焼きたてのコッペパンに惣菜が挟んである惣菜パンだ。

 焼きそばやウインナーなどもあるけれど、今一番気に入っているのがこれ。

 照り焼きチキンだ。


「へぇ。じゃあ、僕も今度そっち食べてみようかな」


 すごく、普通に話せる。


 なんだ。


 なんともないじゃん。


「じゃ、今度一緒いこ」


 4人で一緒の昼食に、礼央は遠慮がちにしていたけど、それほど居心地悪そうにはしなかった。

 最初の、嫌われてるだか怖がってるだかは何だったんだってくらい普通だった。

 ……好かれてるんじゃないかっていうのも、何かの思い込みだったって、ちゃんと思えるくらいに。


 あの瞬間は、何かの勘違いだったんだって。


 ちゃんとそう、思えるくらいに。


 ズズズ……と音を立てて、パックのコーヒー牛乳をすすり上げる。


 4人で屋上を後にする。


 この4人で一緒に居るのも、悪くないじゃんって、そう思えた。

 正直、居心地はよかった。


 穏やかで、うるさくもない。




 校舎に入って、ケントとサクが先に行ってしまうのを見て。

 階段に差し掛かったあたりで、そういえば、と思い、後ろを歩いているはずの礼央に話しかける。


「れおくんさ、」


 くるりと、振り向いた。


「え……っ」


 小さく声が聞こえたかと思うと。


 へ……?


 予想外の表情の礼央と目が合った。


 まじまじとこちらを見る瞳。

 真っ赤になった顔。


 え?


「な……んで。名前……」


 呟くような、小さな声は、確かにそう言った。


 え?


 なんだって?


 名前?


「ケントだって……、そう呼んでたし……」


「あ、うん」


 直ぐに逸らされる視線。


 あの時と同じように、表情を隠そうとして、口元を抑える手と。


 狼狽えて泣きそうな目と。


 なんだ、これ。


 おずおずと、口を開く。

「……呼ばれるの嫌なら、言って」


「ちが……っ……。ちがくて。ただ、びっくりして…………」


 消え入りそうな声。


 え、なんで。

 名前、呼んだから???


 だってこんなの。


 こんな風にされたらもう……、勘違いかもなんて言えないじゃないか。

共学なんですよ。

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