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3 嫌いっていうより

 ただ、静かな教室だった。


 明るい日差しの入る南向きの教室で。

 亮太はただ、礼央の瞳を覗くことができた。


 一瞬だった。


 眼鏡越しだったし、直ぐに逸らされてしまった。


 けど。


 へ?


 紅潮した頬。

 奥で光る瞳。


「あっ……」


 小さく漏れた声と。

 そんな顔を隠すように持ち上げられた腕と。


 なんで…………。


 目が離せなかった。


 なんで、そんな顔、すんだよ…………。


 名前を呼んだのも、特に用があるわけじゃないみたいだった。

 ノートを借りっぱなしだったことに文句を言われるわけでもなく、抜き打ちはどうだったのかって会話をするでもなく。

 睨みつけてくるわけでもなかった。


 嫌いなら。


 もし、嫌いなら。


 普通は怯えた目になったり、嫌そうにしたり、素っ気なくしたりするもんだろ。


 なんでそんな……。


 まるで緊張してるみたいな。


 逃げるんじゃなくて、隠れたいみたいな。


 なんか、少女漫画で読んだことあるみたいな。


 なんかこれって……………………。




 そんな変な思考に行き着いて。

 そんな思考に行き着いた自分が嫌で。


 亮太は教室を早足で出て行った。


 気付けば、隣の校舎の音楽室から、吹奏楽部の音が聞こえていた。

 外ではジョギングをしているサッカー部が居た。


 いつもの、放課後の風景。


 何処か、非日常の世界から、いつもの世界に戻ってきたみたいだった。


 なんだよ、あの顔。


 きっと英語の時間、ノートが無くて困っただろうに。


 なんかちょっと…………嬉しそうだっ………………。


「…………」


 そんな思考になって。

 出来るだけ苦い顔を作った。

 出来るだけ早く歩いたし、出来るだけ人と会わなそうな帰り道を選んだ。


 校門の前の並木道の木漏れ日が、頭の上から降り注いだ。

 いつもの公園を通り抜けずに歩いた。

 いつも会う人懐こい犬にも、今日だけは会いたくなかった。


 どれだけ早く歩いて、どれだけ振り払おうとしても、あの顔が、脳裏から離れることがなかった。

 火照った頬と。

 眼鏡の奥の瞳が。


 おかしいって……。


 おかしいって!


 家に入って、なんとか「ただいま」を絞り出す。

 妹が学校鞄を背中に背負ったまま台所を物色しているのに気付いたけれど、声を掛けることもしなかった。


 階段を転がるように上がった。


 だって、俺は男で。

 あいつだって男だった。


 だから、あり得ない想像をしている。


 まるで、好きな人を前にして、戸惑ってるみたいだった、なんて。


 もしかしたら。


 もしかしたら、あいつが、俺のことを好きかもしれない…………なんて。


 そんな、こと。


 階段から足が滑りそうになって、ギリギリのところで堪える。


 自室のドアを閉めて、やっと、亮太は久しぶりに息をしたような気がした。


 何考えてんだよ。俺は。


 けどやっぱり、どうしても、あの顔を……。

 あのれおくんの顔を、考えずにはいられなかった。

ちなみに、主人公のみかみくんは、三上亮太くんです。

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