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14 懐かれるのも悪くない

 いつもの帰り道。

 二人は公園の中を歩く。


 同じように公園内を通って帰る学生達が川のように流れて行く。

 晴れた日の午後ののんびりとした時間だ。


 そこへ離れたところから、「ワンワンワンワン!」と興奮した犬の鳴き声がした。


 何処から声がするのかと顔を上げたところで、亮太にでかい犬が飛びかかって来た。

「うわっ」


 勢いはいいけれど、それほど大きくはないシバ犬だった。

 帰りによく会う犬だ。

 近所のおばちゃんが散歩をしているのだけれど、愛想のいい犬で、いつも可愛がってくれる人を見つけては飛び石のように渡り歩いている。


「あらあら、ごめんなさいね」

 リードの先で、ニコニコと品のいいおばちゃんが微笑んだ。


「いえいえ。久しぶりだな、ところてん」

「ワフッ」


 ひとしきり尻尾を振ると、今度は礼央に飛びかかっていこうとした。


「れおくんも、」

 言いかけたところで、

「うわぁっ」

 と礼央の声がした。


「え」


 くるりと振り向くと、礼央は怖々と犬を見ている。


「れおくん、もしかして犬怖い?」

 亮太はところてんを両手ではがいじめにしつつ、尋ねる。


「え!?」


 その、あまりにも“突拍子もないことを聞かれた”感のある顔を見て、亮太も、その手に持ち上げられたところてんも目が点になってしまう。


 いや、どう見ても怖がってたぞ……?


「いや、怖いっていうか」

 困ったような笑顔が返ってきた。

「僕、犬……というか、動物全般と関わり合う事あんまりなくて。かわいいとは思うんだけど」


「なるほどね」


 亮太は、すっと、両手で持っていたところてんを差し出す。

 ところてんは人慣れしすぎているのか大人しいもので、特にどうということもない顔で手にぶら下げられている。


「じゃあ、触ってみる?」


「え」


 礼央が、キョトンとした。

 触るなんて、想像もした事が無かったのだろうか。


「えと……」

 礼央がじ……っとところてんを見る。

「うん……」

 決意の目だった。


 そ……っと手を出す。


 礼央の指が、そっと、薄茶の短く柔らかな毛で覆われた、小さな手に伸びる。

 そっと触れる。

 そして、また刺激してはいけないとでも思っているのか、そっと手を離した。

 ところてんはピクリともせず、ただハァハァとしながら、終始じっと礼央の顔を見ていた。


 ふっと顔を上げた礼央が、あまりにも、満足げな顔だったので、亮太は「ぶふっ」と吹き出す。


 触れてよほど嬉しかったらしい。

 こいつもこんな顔するんだな。


 思えば、礼央はけっこう表情豊かな方だ。


 そうだな。

 わかりやすいし、いいやつだし。

 こういう奴に懐かれるのは悪くない。

心太て書いてところてんて読むの、かわいいですよね。

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