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12 雨の日(2)

「………………」


 教室の自分の席に座る礼央の後ろで、亮太は腕組みをした。


 目の前にあるモコモコをどうにかしなくては。


「さ、触っていい?」


 手のひらを礼央の頭の上で止めて、尋ねる。


 なんかこれ……、普段の5センチくらいは浮いてるんじゃ……?


「う、うん」


 気合の入った返事。


「な、何この緊張感」

 二人を見ていたケントが面白がって茶々を入れた。


 唾を一度飲み込んで、亮太はそのモコモコとした髪に手を触れる。

 少し、礼央がぴくりと動いたのが分かった。

 別に……変なことはしてないよな。


 手が沈み込む。

 アルパカか?こいつは。


 とりあえず、ケントが女子から借りてきたスタイリングスプレーをぱしゅぱしゅとかける。


「う〜ん、いい匂い」

 ケントがうるさい。


 するするっと手で落ち着かせてみたけれど、また直ぐにくるりと戻ってしまう。


 何度かやってみたけれど、スプレーがもったいないだけなので、諦めた。


「ダメだな……」

 亮太が真剣な顔で顎に手をやると、ケントもそれを真似て、

「この頑固者め……」

 と真面目な顔をする。


「はは……」

 礼央の苦笑が聞こえた。


「何してんの?お前ら」

 そこに来たのが、サクだった。


「あ〜……」


「…………」


 沈黙の末、サクのワックスを借りてみた。

「ハードだけど大丈夫?」


「わかんない」


 本当に、どうなるかわからなかった。

 ただ、固めてしまえばそれなりにはなるだろうと、そんな風に、楽観的に思った。


 結果的に。


「…………」


「…………」


 その場に居た亮太達を含むクラスメイト全員が、静かに沈黙した。


 これで、「なんで?」なんて声をあげようものなら、礼央が泣いてしまうかもしれない。そう思った。


 けど、亮太は言わなければいけなかった。


「なんか…………、ごめん」


「みかみくん……」

 と振り向いた礼央は、すでに半分泣いていた。


 それは申し訳ないことをしたのだけれど。


 簡単に言うと、想像だけでアーティスト風イケメンヘアを作ろうとして失敗したヤクザみたいな風貌だ。


 その顔を見ると少し、笑ってしまいそうになる。

 笑ってしまいそうになったことに対して、亮太はまた、

「ごめん…………」

 と謝った。


 それ以上どうにもならずに、ホームルームが始まった。

 いつもピシッとしている担任の数学教師は、二度見した上で目を逸らした。


 昼になって、

「はぁ……」

 と、礼央は気の抜けたため息を吐いた。


「いいじゃん」


 見慣れてくるとこれでいいやって気もしてくるものだ。


「他人事だと思って……」

 ジト目で睨まれる。

 睨んではくるものの、それでも笑ってしまいそうになる髪型だ。


「いいって。似合ってる」


 亮太が結局最後に笑ってしまったものだから、礼央はまた、

「はぁ〜〜〜」

 と大きなため息を吐いた。

亮太は地味であまり周りに興味を持たないタイプですが、時折妙に優しく見えるので、それに落ちる人もいます。

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