勇者召喚で召喚されたのは予想外のものだった
「そなた達、我を召喚して何がしたいんだ?」
目の前にいる人物に問い掛けるが目の前の人物は恐怖でも感じてるのか震えて尻餅をついている。
何故ならその人物に問い掛けたのはドラゴンだったからである。
さて何故このような状況になったかを簡単に説明しよう。
この世界に魔王がいる。
人間と魔王は戦争をしている。
魔王が攻めて来たら大変だからどうしよう。
そうだ勇者召喚をして異世界の勇者に魔王を倒してもらおう。
勇者召喚したらドラゴンが召喚された。
そして現在。
「そこに尻餅をついているそなた、そなたがこの国の王と見て間違いないか?」
ドラゴンが問い掛けるが王と思われる尻餅をついている男は恐怖で口をパクパクさせている。
「ふむ、困ったな、おい誰か説明できる者はおらぬか?」
ドラゴンは周りにいる他の者達にも問い掛けるが他の者達も恐怖でただ立ち尽くしている者もいれば兵士と思われる者達は剣を構えてはいるが相手がドラゴンなため震えている兵士達も多くいた。
「ふむ、我に恐怖してるか、人間なら無理もないだろう、ならそなた達が落ち着くまで我はここで待つとしよう」
そう言ってドラゴンはその場で横になり王達が落ち着くのを待つのだった。
少しして落ち着いたのか尻餅をついていた王が立ち上がりドラゴンに話し掛ける。
「あ、あの」
「おお、落ち着かれたようだな、それで話を戻すが我を呼び出したのは何故だ?」
「あ、ああ、話そう」
王はこの世界で人間と魔族が戦争をしていてどうにかしようと話し合った結果、異世界から勇者を召喚しようという話になり勇者召喚を行った事をドラゴンに話す。
「ふむ、事情はわかったが、まず聞きたいのは何故異世界の者達に頼る?」
「え?」
「だから何故異世界の者達に頼るんだ? この世界の問題ならこの世界の者達でどうにかしようと考えるのが普通ではないか? 異世界の者に頼るという事は自分達の世界の人間は何もできない無能な集まりだと異世界の者に証明しているようなものだと思わんのか?」
王に対してあまりにも無礼な発言であり相手が人間だったら誰かが申したが相手がドラゴンであると下手したらこの国が滅びる危険性も高いし何が原因で怒りを買うかもわからないため下手に言えないのであった。
「そもそも異世界の者を召喚したとしてその者が善人だと何故言い切れる? もしかしたら勇者という権限を好き勝手に使って女を片っ端から自分の物にして気に入らない奴やムカつく奴は殺したりするとんでもない悪人かもしれないんだぞ?」
「しかし、今まで召喚された勇者は皆魔王を倒すために戦ってくれた善人であったから」
「そもそも、召喚したとして魔王を倒したらちゃんと元の世界に帰したんだよな?」
「え?」
「だから魔王を倒して元の世界にちゃんと帰したのかと聞いておるのだ」
「いや、今まで勇者召喚で召喚された勇者が元の世界に帰ったという記録はどこにも書かれていない」
「つまり、元の世界に帰す方法もないのに勝手に余所の世界の者を召喚したのか? そなた達、それは誘拐と同じだぞ、そなた達の勝手な都合で関係ない者を本人の意思を無視して勝手に連れ去ったんだからな」
「し、しかし、我々も世界の危機だったんだ!!」
「それはそなた達の都合だ、召喚された者には関係ない事だ、なら逆に聞くがそなた家族はいるか?」
「つ、妻と息子と娘がいるが」
ドラゴンの問いに王は答える。
「ほう、ならそなた達はどうだ?」
ドラゴンに問い掛けられた者達はそれぞれ家族がいる事を答える。
「ふむ、ならそなた、妻と子供達を愛しているか?」
「もちろんだ」
「その妻と子供達と離れ離れになってもう二度と会えないとしたら、そなたはその運命を受け入れるか?」
「ふざけるな!! そんなの受け入れられるか!!」
「そう、受け入れられないはずだ、そなたのその怒りは今まで召喚された勇者達も感じていたのではないのか?」
ドラゴンの言葉に王やその場にいた者達はハッとする。
「今まで召喚された勇者にも家族がいた、中には恋人がいた者も婚約者がいた者もいたはずだ、ましてや近いうちに結婚する事が決まっていた者もいたはずだし、もしかしたらもうすぐ子供が生まれて親になる者もいたかもしれない、家族との楽しい時間を予定していた者もいたかもしれない、明日は家族で旅行に行こうと楽しみにしていた者もいたかもしれない、言い出せばきりがないがその幸せをそなた達は奪ったのだぞ、それをわかっているのか?」
「そ、それは」
「まさか、自分達の世界と関係ない世界の人間だからどうでもいいと思っているのか?」
ドラゴンに言われて王や周りの貴族や兵士達は言葉を失う。
「それとこの兵士達が持っている腕輪は何だ? まさか召喚した者が魔王討伐を拒否した場合に備えて奴隷として強制的に魔王討伐させようとしていたのか?」
その問いに王達は顔を逸らす。
その態度で答えは言っているようなものであった。
「それでまさかと思うが魔王討伐が完了した瞬間その勇者を殺して排除させるとか言わないよな? もしそうなら今まで召喚された勇者達も同じようにしたという事だぞ」
その問いにも答えない王達を見てドラゴンは全てを察した。
「愚かな事を、何故殺したのだ? 関係ないそなた達の世界のために命の危険を冒してまで戦ってくれたと言うのに恩を仇で返すとは」
「詳しくは書かれていないが、おそらく殺したのは魔王がいなくなれば次に我々の脅威になるのは勇者だと思って敵になる前に排除したかったか、あるいは王である自分の地位を狙うんじゃないかと恐れたのかと思われる」
「愚かな、その脅威となるのを召喚したのは自分達だというのに、ましてや王の地位を狙っていると? なら逆に聞くが王よ、そなたを守るこの兵士達がそなたと戦ったらそなたは勝てるか?」
「そんなの無理に決まっているだろ、確かに私も少しは剣を扱えるが日々鍛錬をしている兵士達に勝てるわけがない」
「なら答えは出てるではないか」
「何?」
ドラゴンの言葉を理解できずに疑問の声を上げる王。
「わからぬか? そなたは兵士と戦って勝てないと言った、つまり兵士達はその気になれば自分達が王であるそなたを殺して王の座を奪う事もできると言う事だ、なのにその兵士達がそれをしないと言うのなら何故異世界の勇者がその座を狙うと思う?」
「あ」
ドラゴンの言葉で王や周りの貴族、兵士達もようやく理解した。
「よいか、王になるのならこの国の全てを理解する事が絶対条件だろ? この国の全てどころか常識も法律も何もかも知らない異世界の勇者が仮に王を殺して自身が国の王になったとしたら、何も知らない勇者にその国を上手く動かす事ができると思うのか? 力だけの支配は長く続かない、王になるのに必要なのは国の全てを理解する知性と自分について来る者達との信頼関係そして民達を思う慈悲の心じゃないのか?」
「た、確かに」
「それに、異世界召喚された勇者が最も望む事は元の世界に帰る事じゃないのか? 決してその世界で暮す事ではないはずだろ?」
「う、うむ」
「今まで召喚された勇者達が魔王を倒した後の生活の記録がない、つまりそう言う事としか考えられない、恥ずかしいとは思わないのか? 自分達の勝手な都合で関係ない者を連れ去り奴隷として無理やりにでも従わせ挙句の果てには目的を成し遂げたら切り捨てる、これが人間のやる事だと本気で思ってるのか? 世界を救うために必要な犠牲だとほざくのなら我がブレスでそなた達を焼き殺すぞ」
ドラゴンが威厳を込めて言うと王達は顔面蒼白となる。
「そなた達が世界を救いたいという思い、だがそのための犠牲は決して仕方ない事だと思うな、そなた達は救世主でも何でもない、多くの関係ない者達の人生や幸せを奪った大罪人なのだ」
「そうだな、そなたの言う通りだ、我々が軽率だった」
王がそう言うと他の者達も罪悪感に駆られる。
ドラゴンに言われて冷静に考えていかに自分達の事しか考えていないかを思い知らされたのだった。
「そなた達が心から反省してくれる事を願うぞ、でなければ今まで召喚された勇者達がいた世界の神々がこの世界の人間を一度消滅させるからな」
「ど、どう言う事だ!?」
消滅という言葉を聞いた王は驚きのあまりドラゴンに問う。
周りの貴族や兵士達にも動揺が走る。
「実はな、我もかつては人間だったんだ」
「何だと!?」
「我も他の勇者達のように別の世界で召喚されて魔王を倒してくれと言われたんだ、我はわけがわからずただ元の世界に帰して欲しいと叫んだ、するとその国の者達は魔王を討伐すれば元の世界に帰る事ができると言った、だから我は元の世界に帰るために必死に魔王を倒すために頑張った、そして魔王を倒した我に待っていたのは仲間だと思っていた者達からの裏切りだった」
その時を思い返したのかドラゴンはどこか悲しそうな感じで話す。
「魔王を倒した途端に背後から攻撃された、どうやら最初からそうすると王からの命令だったようだ、つまり我を元の世界に帰すなんて嘘だったという事さ、我の頑張りは何だったのか、何のために頑張ったのか、我は悲しみと裏切りへの憎悪を抱いたまま死んだ、死んだ後我の目の前に女神が現れた」
「め、女神が?」
「ああ、その女神が言うにはどうやら我以外にも勇者召喚された世界の者が多くいてその者達も我と同じ運命を辿っていたようで、どうやら我の死を機に今まで召喚された勇者達が元いた世界の神々がとうとう怒りを露わにしたんだ」
「神々がお怒りに」
王達は顔面蒼白となり本当ならその続きは聞きたくないという者も多くいた。
ここまでの話を聞けばどうなったのか想像できたからだ。
「自分達の世界の問題なのに勝手に自分達の世界の者達を連れ去りしかも元の世界に帰すと嘘をつき用済みとなったら排除した、それをずっと繰り返して来たその世界の神々に勇者が元いた世界の神々は怒りを露わにしてこう言ったんだ、勇者召喚し続けた世界の人間を一度消滅させろ、それができないなら我々の手でこの世界そのものを消滅させると、それを聞いた神々は悩んだ末に自分達の世界の人間達を一度滅ぼす事にしようと決めた、しかし神々は自分達が管理する世界の者達に干渉するわけにはいかないため、滅ぼすための別の存在を生み出した、その一つが我だった、女神は我を人間が滅びる脅威となる存在に転生させようと言ってきた、その時の我はその世界の人間達への憎悪でいっぱいだったからその転生を受ける事にした、そして我はドラゴンであるこの姿に転生した、そこからはあっと言う間だった、我は怒りに任せてブレスで我を召喚した国を焼き尽くした、城を焼き、逃げまどう王族、貴族達、そしてかつての仲間だった者達が我に剣を向けた、我はドラゴンの姿になっても話す事ができたから声を出したら驚いていたよ、そして我は怒りの限りこの国を滅ぼすと言ってブレスを吐き鋭い爪で城を破壊し尽くした、そしたら勇者だった時よりも強かった我に自分達の圧倒的な差を感じたのか元仲間達は我に命乞いをしてきた、王に命令されて仕方なくやった事だと、逆らう事ができなかったと、本当はこんな事したくなかったと、それを聞いた時、いつもの我ならきっと躊躇ったがドラゴンになった影響なのか、元仲間達に何も感じずブレスで全員焼き殺した、そして王族も貴族もその子供達もさらにはその国に住む全ての者達全員を焼き殺した、そしてその国が完全に滅んだ」
ドラゴンの長い話を黙って聞いていた王達は目を見開き唖然としている。
「そ、それで、ドラゴンよ、その国が滅んだ後はどうしたのだ?」
勇気を振り絞ったのか王は恐る恐るドラゴンに問う。
「ふむ、そうだな、我を召喚した国を滅ぼした後女神は人間を消滅すると言っていたから他の国の人間達も滅ぼすのかと思っていたら、女神が我の前に再び現れそして我に言った、勇者召喚をした国だけを滅ぼせば良いと、だがそれを消滅させろと言った神々は良しとしなかった」
「それは、何故なのだ?」
「今はその国だけでしか勇者召喚されていないが、もし何かのきっかけで勇者召喚の方法を誰かが知ってしまった場合また同じ事が繰り返されるはずだ、だからその世界に今いる人間全てを滅ぼし新しく人間を作り変えるんだとな」
「新しく作り変える?」
「そうだ、このような愚行を何度も繰り返した人間は失敗作だと、失敗作は一度消して新たに作り変えるのだと言ってな、それでも勇者召喚を行い続けた世界の神々はどうしてもそれを承諾できなかった」
ドラゴンの言葉に王達も内心その通りだと思った。
勇者召喚を行い非道な行いをしてきた国ならまだ仕方ないと思うかもしれないが勇者召喚に関わっていない人間も全て消滅させるのは納得できるわけがなかった。
「だが結果的にその世界の人間は全て消滅して新たな人間に作り変えた」
「何故だ? 神々はあれだけ反対していたと言うのに?」
「今まで勇者召喚された世界の神々が要求を呑まないのなら今まで召喚された世界の神々が全勢力を持って勇者召喚を行った世界の神々を消して自分達がその世界を管理すると言った、それを聞いてさすがに神々も自分達が消滅するのは嫌だったのだろう、神々も結局は我が身が大事だったという事さ」
神々にとって人間は自分達が危険に晒されれば切り捨てられる存在だという事に王達は絶句した。
「一つ勘違いしないでもらいたいのは、消滅させろと言った神々もそんなに酷い存在ではない事だ」
「何だと?」
「神々も慈悲の心を持っている方達ばかりだった、普通なら勇者召喚を行った国だけを滅ぼせばそれだけで良かった、普通ならな、だが普通ではなかった、その世界は今までの歴史で勇者召喚を何度も行い数々の世界の人間を連れ去り非道な扱いをしてきた、わかっているだけで勇者召喚で九つの世界の人間が連れ去られ勇者召喚を行った回数は千を超えると言われている、つまり一つの世界から百人の人間を連れ去り犠牲にさせたと言えるだろう、さすがに千回も同じ事を繰り返し全員を同じように扱い死なせた事で神々も怒りを露わにさせその世界の人間を全て消滅させる事になった、まあ我からすればもっと早く行動すべきだったと思うがな、少なくとも千人も犠牲にせずに済んだかもしれない、神々自身も行動が遅すぎたと言っていた」
「せ、千人」
王達は驚愕した。
まさかそんなにたくさんの勇者召喚を行っていたとは思いもしなかったからだ。
それと同時に神々の怒りも理解してしまった。
さすがにそれほど多くの数の別世界の人間を自分達の都合に勝手に巻き込ませて道具のように使い捨てたのだ、怒らない方がおかしい。
「それほど多くの数の別世界の人間を犠牲にさせたのだ、そこまで繰り返すほどその世界の人間は成長の見込みがないと、ならば他の国の人間達も似たようなものと判断したのだろう、だからその世界の全ての人間を消滅させたのだ」
「消滅させた後はどうなったのだ?」
「神々が再び人間を作り出した、また同じような事が起これば失敗作の人間を生み出した神々が消滅すると脅した事で神々は必死に新しい人間を作り出そうとしたがそのためには世界そのものを作り変える必要がある事に気づいたため、人間以外の種族も消滅させる事になってしまった」
「世界そのものを変えるために人間以外の種族も消滅させただと!?」
「そうだ、そして世界は新しく作り変えられた、まず人間達は魔法が使えないようにした、そうする事で勇者召喚そのものができないようにな、そして人間以外の種族を生み出さないようにした、様々な種族がいるから争いが起き別の世界の者達に頼ってしまう事になると判断したからだ、その世界を見て我が人間だった時にいた世界と似たような世界へと変わった、こうして勇者召喚を行い続けた世界が一度消滅して新しく生まれた、そして今、同じ事が再び起こる可能性がある」
「それが、我々の世界だと?」
「そうだ、この世界も同じような状況になる可能性があると我は考える、だが我はそれを望まないし、そなた達もそんなつもりで勇者召喚を行ったわけではないだろ?」
ドラゴンの言葉に王達は何度も頷く。
まさか世界そのものが消滅するなど思いもしなかったからだ。
だがドラゴンの話を聞かなかったらきっと自分達もそしてこの先の未来の者達も同じ事を繰り返していたかもしれなかった。
「単純に考えると魔王をどうにかして人間と魔族の戦争を終わらせれば済む話だな」
「そうだが、どうするつもりだ?」
「ふむ、単純に戦って勝つしかないと思うが、それでは根本的な解決にはならない、何故なら人間の王には後継者がいるのなら魔王にも後継者がいるはず、つまり倒したとしても時が来ればまた新たな魔王が現れる可能性がある、なら魔族を全て殺せば良いと言うが、この世界の魔族領域はどれくらいだ?」
「ちょうど人間と半分ずつと言ったところだ」
「なら無理だな、世界の半分でも相当広い、どこかでひっそりと見つからずに数を増やしていくだろう、結果魔族を根絶やしにするのも無理だ、それは魔族側からも言える事だ」
「なら、どうするのだ?」
「そうだな、そなた達が今までやってこなかった事、魔族と話し合いで解決する」
「魔族と話し合い!? 何をバカな事を!?」
ドラゴンの提案に王達はありえないと口々に言う。
今まで戦争して来た相手と話し合いで解決するという選択肢は彼等にはなかったからだ。
「バカな事をと言うが、戦争をしたいわけではないのだろ? 平和に解決できるならそうしたいとは思わないのか?」
「それは、平和に解決できるなら我々だってそうしたい」
「なら話し合えば良いだけではないか、魔族の姿はそなた達人間に近い姿をしているのではないのか?」
「確かに見た目は我々人間の姿をしているな、違う所があるとすれば頭に角があったり背中に羽が生えていたり尻尾が生えていたり肌の色が違ったりしているがそれをのぞけば大体人間と同じ姿をしているな」
「人間と同じ姿をしているのなら話し合えば良いだろ、何故そうしない?」
「魔族はずっと敵だった、話し合いなどできるわけがない」
「なら何故、人間の姿をしていないドラゴンの我とはこうして話せているのだ?」
ドラゴンは疑問に思った事を口にする。
最初は恐る恐る話していた王も今はこうして普通に話せている。
人の姿ではなく動物に近い姿をしているドラゴンと話せているのなら人の姿に近い魔族とはもっと簡単に話せるはずではないかと思ったからだ。
「ドラゴンの我とこうして話せてるんだ、きっと魔族とも話せるはずだ、今までこの世界に召喚された勇者の中にも魔族と話し合おうとした者がいたのではないか?」
「うーむ、文献には何も記されていなかったから確かめる術はないが、そなたのような者が過去に召喚されていたのなら可能性はあったかもしれない」
「ふむ、そもそも何故そなた達人間は魔族と戦争をしている? そうなった事の発端は何なんだ?」
「すまないがわからないんだ、ただ私の祖父も曾祖父も生まれた時から魔族とは戦争をしている、魔族は人間の敵だとずっと言われてきたから何が原因で魔族と人間が争っているのかわからないんだ、ただ敵だとしか言われなかった」
「なるほど、大人達が皆そう言っていたから当時幼かったそなた達も魔族は敵だという認識になってしまったのか、だが戦争をするからには必ずそのきっかけとなった事があるはずだ、よし決めたぞ」
「何を決めたんだ?」
「今から魔王城に言って魔王と話してくる」
「え!?」
ドラゴンの言葉に王達はいきなりすぎて驚きのあまり開いた口が塞がらない。
「片方だけの話では意味がない、だからこそ魔族側の話も聞くべきだ、それにいい加減にこの戦争を終わらせないとまた新たな勇者召喚を行う者が現れてしまう、そうなれば神々もそろそろ黙ってはいない、そなた達消えたくはないだろ?」
ドラゴンの問いに王達は激しく頷く。
「なら、今から魔族領に行って魔王と話してこよう、魔王城の場所はわかっているのか?」
「ああ、もちろんだ」
王は臣下に地図を持って来させて広げて魔王城の場所をドラゴンに教える。
「うむ、わかった、では早速向かおう、そこの者達、我は飛び立つから窓を開けてくれ」
ドラゴンに言われ王も頷くと窓の近くにいた兵士達が窓を開ける。
「では、行ってくるぞ」
言ってドラゴンは翼を広げて窓から飛び去るのだった。
「さて、急ぐか」
ドラゴンは猛スピードで魔王城へと急ぐ。
人間の歩きだとかなりの時間が掛かるが空を飛べばましてやドラゴンだから他の魔物達も近寄らずに一時間くらいで魔王城に到着するのだった。
「ふむ、そこの玉座に座る者よ、そなたが魔王か?」
「何だお前は!?」
「我はついさっき勇者召喚されたドラゴンだ、ほれ一応これが証拠だ」
ドラゴンは魔王の前に手を出すと手の甲に何かの紋章が浮かび上がる。
「確かに何度も見た召喚された勇者の紋章だな、まさかドラゴンを召喚したとは」
「やはりそなた達も人間だと思ったか? まあ間違ってはいないかもな」
「どういう事だ?」
「その辺も含めて今から説明する、我の話を聞いてくれるな?」
「・・・・・・良いだろう」
魔王も魔族の兵士達もドラゴンの話を聞く事にした。
相手が人間なら問答無用で戦いに入ったが相手がドラゴンだと自分達の被害も相当なものだと判断した。
魔族側でもそうするほどこの世界のドラゴンも脅威だったのだ。
魔族側が話を聞いてくれる姿勢になったのを確認したドラゴンは魔王達にも同じ説明をするのだった。
「以上の事から我はそなた達魔族との戦争を終わらせるためにそなた達とも魔族と話をしたいと思ってここに来た、早速だが聞かせてもらおうか、そなた達は人間を滅ぼしたいのか? そうであるのならば我は戦争を止めるために戦わなければならない、だが我はそれを望まないし、そなた達も本気を出した我と戦えば被害は相当なものになると考えられるが」
「そうだな、全力のドラゴンと戦えば我が軍も相当な犠牲が出るだろう、だから答えだけを言わせてもらうと人間を滅ぼして世界を支配する気はない、無益な血を流さずに戦争が終わるのならそれに越した事はない、だが」
「うむ、そなた達もずっと人間と戦争をして来たのだ、今更話し合いなど納得しない者も多くいるのはわかっている、そなた達魔族は人間よりも寿命が長いから余計に人間達への敵意が強いと言えるだろう」
「そうだ、我々魔族にとっても長いと感じてしまうくらい人間と戦争を繰り返して来た」
魔王の言葉に他の魔族達も頷く。
長い時間と共に人間は悪というのが魔族達に染みついてしまったのだろう。
「ふむ、しかしこのままでは我が召喚された世界と同じ運命を辿ってしまうぞ、神々はどちらかと言うとほとんどの者が人間の味方だからな」
「消滅か、いっそその方がもう戦争をしなくて済むのかもしれないが、魔族領にも戦えない者や子供達、そして生まれたばかりの赤子もいる、その者達を消滅させる事を私は望まない」
他の魔族達も頷く。
魔族も人間と同じで関係ない者達の犠牲を望まないようだ。
「そもそも何故人間と魔族は戦争をしているのだ? 事の発端は何だ? 長く生きているそなた達なら何か知っていないか?」
「それなんだが、私にもわからないんだ、私が魔王になる前からすでに人間との戦争は起きていた、私も幼い頃から人間は悪だと敵だと聞かされてきたからな」
「そうなのか、他の者達はどうだ?」
他の魔族にも問うが全員同じ反応をする。
「ふむそうか、事の発端さえわかればどちらに非があるのかがわかりお互いに話し合いやすくできると思ったのだが、今までこの場所に辿り着いた勇者はいたのか?」
「辿り着いた者はいた、私も何人かと戦った事がある」
「では、その中に魔王と話し合いを持ちかけた者はいたか? 戦争を終わらせようとそなた達魔族の事を知ろうと話し掛けた者はいるか?」
「何人かいたな、私が魔王になった時も話し合いをしようと、魔族の事を知りたいと言った者達はいた、だが結局は戦う結末になったがな」
「それは、今更話し合いで解決する事に納得いかない者がいたんだな? 」
「ああ、話し合いでわかり合おうとするには、あまりにも多くの犠牲が出てしまった、おそらく人間側も同じ気持ちだろう、多くの犠牲が出たからお互いに退くに退けない状況になってしまった」
「だが、戦争を続けたいわけではないのだろ?」
「当たり前だ」
魔王がそう言うと他の魔族達も頷く。
「いい加減人間との戦争をやめたいと考える者は増えている、私も人間との戦いに意味があるのかと思っている、だが」
「ここで話し合いでの解決を望めば今まで犠牲になった者達に申し訳ないと思っているのか?」
「そうだ、話し合いを望めば人間との戦いで家族や大切な者達を失った者達からしたら、なら何故もっと早くそうしなかったのか、あれだけの犠牲を出して今更話し合いで戦争を終わらせるなど、大切な者を失った者達からしたら誰が納得できる、だがこれ以上終わらない戦争をして意味もなく犠牲を増やしたいとも思わない、だが」
「ふむ、そなた達の気持ちはわかった、そこでだ、我に任せて見る気はないか?」
「何をするつもりだ?」
「今から我を召喚した国に行く、そこで人間の王とそなたを連れて行きたいと思う」
「どこへだ?」
「そうだな、ここへ来る途中魔族領と人間領のちょうど中間地点に話し合いができる場所があった、そこへ我も交えて話し合いをしたいと思う、そこでそなたに頼みたい事があるのだが、そもそもそれができるのかが知りたい」
「何がしたいんだ?」
「ふむ、それはだな」
ドラゴンは魔王にしてほしい事を伝えるが魔王も魔族も首を傾げる。
「そう言った魔道具はあるが、何に使うんだ?」
「後で説明する、とにかく魔王よ、我の背中に乗れ目的の場所に向かう」
ドラゴンは魔王を背に乗せて飛び立ちドラゴンが言った話し合いできる魔族と人間の領地の中間地点に降りる。
「では、我を召喚した人間の王を連れて来るからさっき言ったものの準備をしておいてくれ」
「わかった」
魔王が頷くのを見たドラゴンは再び翼を広げて飛び立つ。
今度は再び自分を召喚した城に着く。
「待たせたな」
「もう戻って来たのか!?」
「ふむ、今から説明する」
ドラゴンは先程魔王と会話した事を王達に話すと王達は信じられないと言う顔をしていた。
「つまりだな、信じられぬかもしれぬが、魔族側も人間との戦争を終わりにしたいと思っている者達も多くいるのだが、今までの犠牲者やその関係者達の事を考えるとな」
「当然だな、私達も同じようなものだ、戦争を終わりにしたいが今まで犠牲になった者達の事を考えるとな」
「ふむ、そこでだ、そなたが人間の代表としてそなたと魔王と我の三人で交えての会話をしたいと思っている、そのために今人間と魔族の領地の真ん中に魔王が待っている、そなたにも我と共に来てもらいたい」
「そなたも交えた三人でか」
王は顎に手を当て考える。
この話を受けるべきかどうかを。
他の者達は王一人で行かせるのは危険だと思う者も多くいるが、何せ相手がドラゴンであるため無理やりにでも連れて行くと言われればそれまでなので何も言えずにいると王が決心したのかドラゴンに歩み寄る。
「わかった、魔王とそなた三人で話をしよう、ただしもしもの時はそなたは私を守ってくれるか?」
「ふむ、そうなってほしくはないが、もしもの時は弱いそなたを守ろう」
「なら良い、そこだけが不安だったんだ」
「心配するな、我もできる限り犠牲は出したくないからな、では行くとしよう、我の背に乗るが良い」
「わかった」
王が背に乗ったのを確認したドラゴンは再び飛び立ち魔王が待っている場所に降り立つと魔王が何かの準備をしていた。
「準備の方はどうだ?」
「ああ、今終わったところだ」
「そうか、こっちも連れて来たぞ」
ドラゴンの背から降りた王は魔王と対面する。
「そなたが魔王か?」
「そうだ」
魔王と王は対面するがお互いに何を話せばいいのかわからずに緊張が走る。
「そなた達だけでは話が進まないと見た、魔王よ早速始めてくれ」
「あ、ああ」
ドラゴンに言われて魔王は道具を出す。
「何だそれは?」
「これは見た景色をそのまま上空に映す事ができる魔道具だ、景色だけでなく会話や音を聴く事もできる」
「もしや、そなた達魔王がよく上空に出現するのはこの道具によるものなのか?」
「そうだ」
「便利な道具があるんだな」
「感心してないで早速それを使うぞ」
ドラゴンに言われて魔王は魔道具を作動させると空にドラゴン達の姿が大きく映る。
「おお、我達が映ってるな、声もちゃんと聞こえるし」
映像がちゃんと作動している事を確認したドラゴンは続ける。
「あー、もしもし、この世界にいる者達聞こえるか? 我はドラゴンだ」
((何でそんな軽い感じに言ってるんだ!?))
心の中で人間と魔族の意思が一つになった瞬間だった。
「急な我の出現で驚いている者達も多くいると思うが、我は人間が勇者召喚した勇者だ、現在魔族が用意した魔道具を使ってこの世界にいる人間と魔族達に話し掛けている、現在人間の王と魔王と我の二人と一匹で話をしている」
((自分の事は一匹で良いのか?))
心の中でまた人間と魔族の意思が一つになった。
「その証拠に二人も映すぞ、ほらここにいるのが我を召喚した人間の王と魔王だ」
ドラゴンは場所を変えると王と魔王が映る。
「現在、我々は集まって話し合いをしようと思う、その話の内容は人間と魔族の戦争についてだ、話を聞くと人間側も魔族側ももう戦争をしたくないというのが本音だ、だがお互いに退くに退けないという状況になってしまっている、そもそも人間と魔族の戦いの発端になったのは何だったのか、まずはそれを知りたいと思う、そのためにこうして世界の人々に語り掛けている」
「ドラゴンよ、原因を知るのは良いが、どうするんだ?」
「それも問題ない」
魔王の問いにドラゴンは問題はないと言い天に向かって叫ぶ。
「聞こえてるか、この世界の神々よ!! 我の声が聞こえていたなら我が人間の王と会話した内容も聞いているはずだ!! かつての我を召喚した世界と同じ運命を辿りたくないのなら、この戦争が起きた原因をこの世界に生きる者達に見せてくれ!!」
ドラゴンがそう言うと声が神々に届いたのか空中に何かの映像が流れるのだった。
「これは、もしやこの戦争の発端となった出来事を映しているのか?」
「何だと!? ではこれを見れば」
「我々が戦争をしなければならなかった原因がわかるのか」
「そうかもしれないな、なら早速見てみようか」
ドラゴン達は空に映された映像を見るのだった。
その映像には人間と魔族が別々に暮らしていた。
どちらの種族も助け合って幸せに暮らしていたがある日一人の魔族の男性と人間の女性が出会ってしまった。
お互いに見た事ない姿だったから戸惑っていたが言葉を交わすうちにお互いに仲良くなっていきそれからお互いに毎日のように会って話をするようになった。
そうしてお互いに毎日会い言葉を交わした事でいつの間にか二人は愛し合うようになった。
「ふむ、この二人を見ると人間と魔族との共存も可能だと希望が持てるが」
ドラゴンの言葉に王と魔王も同じ気持ちだった。
だが映像は悲劇を映した。
二人が出会っているのがお互いの親にバレてしまう。
実は魔族の男性は魔王の息子で人間の女性は王の娘だったのだ。
二人はすぐに引き離されてしまい会う事ができなくなってしまった。
二人は父親に魔族も人間も悪い者達ではない事を伝えるが王と魔王は二人の言葉に聞く耳を持たなかった。
王と魔王はお互いに見た事がない姿をしていたのでお互いに自分達の国を滅ぼすのではないかと思い込んでいた。
それでも二人は諦めずに王と魔王を説得する。
そしてついに二人の思いが通じたのか王と魔王は話し合いをする事に応じるのだった。
二人は当然喜んだ、自分達の思いが通じたのだと。
ここから人間と魔族がお互いに歩み寄るのだと希望を抱いていた。
しかし、その希望は打ち砕かれた。
話し合いをする前日の夜に二人は殺された。
殺したのは暗殺部隊の者達でその指示を出したのは信じられない事に二人の父親、つまり王と魔王だったのだ。
そう、二人は話し合いなどする気はなかった、むしろそんな事をする自分達の子供を邪魔だと思い排除する事にした。
二人にはたくさんの子供がいたので一人くらい減っても大した事じゃない。
二人にとって我が子はそのくらいの価値でしかなかったのだ。
そして二人はお互いにお互いの暗殺者に子供が殺された事にした。
つまり魔王の子は人間が送り込んだ暗殺者に王の子は魔族が送り込んだ暗殺者にそれぞれ殺されたと嘘を言ったのだ。
真実を知らない者達はその言葉を信じてお互いに憎むようになり戦争までに発展する。
そして現在もその戦争は続いているのだった。
「ふむ、これが戦争の発端になった出来事か、何とも愚かな王と魔王だな、自分の子を殺すなど親のする事ではない」
「何と言う事だ」
「魔族は魔族自身が、人間は人間自身が戦争を起こす原因を作ったとは」
王も魔王もこの事実を受け入れられなかった。
まさかお互いに相手ではなく自らの種族がこの戦争を起こしたなんて思いたくなかったからだ。
「王の娘と魔王の息子、この二人は人間と魔族の懸け橋になれた存在だった、なのに二人の思いは叶うどころか戦争を起こし今日まで多くの犠牲を出してしまった、お互いに自分達が支配されるかもしれない、知らないから敵だと思う、この時の王と魔王はまるで今のそなた達のようだな」
今の映像を見た事でドラゴンの言葉に二人は何も言えなかった。
「事の発端がわかればこの戦争をする意味があるのかどうかハッキリわかると思ったが、そなた達はどうしたい?」
ドラゴンは二人に問う。
戦争の発端を知ったうえでどうしたいかを代表の二人が決めるべきだと判断したからだ。
「私は戦争を終わらせたい、だがそれは難しいと思う」
「ああ、思い込みで決めつけ、嘘の言葉で起きなくていい戦争が起きてしまった、こんなバカげた事は今すぐ終わらせるべきだろう、だが、こんな事が発端でこの戦争が起きたと言うなら尚更戦争で犠牲になった者達、戦争で大切な者を失った者達のやるせない気持ちはどうなる?」
「ふむ、やはりこうなるか、話し合うにはあまりにも遅すぎたようだな」
「ドラゴンよ、我々は戦争をしたくないし、まだ少しの時間だがこうして魔王と話して悪ではない事も何となくわかるしあの映像を見れば人間と魔族がわかり合える事もできるかもしれない、だが」
「ああ、きっと心のどこかで抱いている憎しみなのか怒りなのか、それを消す事は簡単にはできない、これでも戦争を終わらせて和解できる方法があると言うのか?」
「別に無理に終わらせる必要も和解する必要もない」
ドラゴンの言葉に王と魔王は首を傾げる。
「そなた達の気持ちは理解した、おそらくこの映像を見ている人間と魔族もこの戦争を終わりにしてお互いに怯えずに平穏に暮らしたいと思う者も多くいるだろう、だが長い戦争で受けた傷はあまりにも大きい、簡単には治らない、だからこそ無理に終わらせる必要も和解する必要もない、ただ簡単に戦争ができないようにするだけだ」
「どう言う事だ?」
「戦争をできなくさせる?」
「簡単な事だ、この人間と魔族の領地の中間地点に我が君臨して第三の領地とすれば良い」
ドラゴンの言葉が理解できない二人はどう言う事だと言いたげな顔でドラゴンを見る。
「そなた達が治める人間の国と魔族の国、そしてこの中間地点に我が治める第三の国を作り三つの勢力で均衡を保てば良い」
「三つの勢力で」
「均衡を保つ」
「そうだ、そなた達は今まで戦争を長く続けて来たのはそなた達人間と魔族以外の国が存在しなかったからだ、二つの国しか存在しないから簡単に戦争ができた、だがそれが三つになったらどうなる?」
「そうか、三つの国がそれぞれ敵同士の関係になれば、おいそれと敵国に攻めにくくなる」
「確かに、例えば魔族の国が人間の国と戦争をして勝ったとしても、勝利した国の兵士達は戦いで疲弊している、そこを戦争に参加してなかったもう一つの国に攻められれば、疲弊した状態の兵士達と万全な状態の兵士達、どちらが勝つかは考えるまでもない」
「そうだ、片方をやればもう片方にやられる、だから我がそなた達の新たな敵として君臨する、それに今は無理でもいつか誰かが言うと思うぞ、人間と魔族と話し合ってみたいと思う者達が、そうなった時は我を訪ねると良い、我の国が話し合いの場として提供しよう、無論第三者の我が入って仲介もしよう、だが取りあえずこれで戦争は起きにくくなるだろう、そして落ち着いて気が向いたら人間と魔族の和解と共存も考えてみると良い、その時は我も協力する」
「確かに、我々は戦争ばかりしていて落ち着いて考える時間がなかったかもしれない」
「ああ、寝て起きたらまた戦争と言った感じだったからな、この勇者ドラゴンが第三の勢力としていてくれれば戦争の事しか考えてなかった者達も冷静になって話し合えるかもしれないな」
「ならばこれで良いだろうか? 戦争を終わらせるというよりは休戦と言った形になるがな」
「十分だ、そしてすまなかった」
「急にどうした?」
ドラゴンは王が何に謝罪しているのかがわからなかった。
「そなたを勝手にこの世界に召喚した事だ、今まで召喚された全ての勇者達にもな」
「気にするな、我はもうあの世界での役目を終えたし、後はただ誰にも知られずひっそりと暮らすだけだったからな、新たな役目ができて我自身は良いと思っている、それと召喚された今までの勇者達もきっと大丈夫だ」
「そうなのか?」
「ああ、そうだろ? この世界の神々よ!!」
ドラゴンが天に問うと王の身体が光り出す。
「お、おお!!」
光が消えると王はその場で地面に手をつく。
「大丈夫か?」
「ああ、さっきの光で今までこの世界に召喚された勇者達の映像が流れて来た、皆それぞれ転生して幸せに暮らしていた」
「そうか、良かったな、勝手に召喚して人生をめちゃくちゃにしたのは許されない罪だが、これで少しは心が軽くなったか?」
「ああ、そして二度と勇者召喚などしないように関連する物を全て破棄して魔族との和解と共存のために何年掛かろうと全力で取り組むつもりだ、もし私の代で無理だったとしても、私の息子に必ず引き継がせる、息子も魔族との戦争を終わらせられないかと考えていたからな」
「私も同じだ、人間との和解と共存に全力で取り組んでみようと思う、私の所にも人間との共存を望み戦争を終わらせたいと思う幹部や四天王がいるからな」
「ふむ、後はそなた達の頑張り次第だ、頑張れ、我もそのための協力は惜しまないのでな」
その後、人間と魔族の中間の領地に召喚された勇者ドラゴンが治める第三の国が誕生し、人間、魔族、ドラゴンの三国がそれぞれ睨み合う形でお互いに簡単に戦争をして攻め込まないようになり人間と魔族の長い戦争は一時休戦と言う形で終わりを迎える事になる。
王と魔王も和解、共存のために全力で取り組むようになった。
戦争が休戦を迎えた事で落ち着いて話し合える時間ができた事により、人間と魔族の位の高い者同士がドラゴンの国で話し合いお互いに話し合う機会が増えていった。
当然その時にはドラゴンも加わりその様子を空に映像を映す魔道具を用いて世界中に見えるようにした。
すると人間側も魔族側も戦争を終わらせたいと願う者が多くいる事がわかり、お互いに話し合いを繰り返す事で少しずつだがお互いに共存できるのではないかと考えるようになった。
やがてそれは民達にも届いたのか一般の人間と魔族も話し合うと意外に意気投合する者も多くいて、試しにドラゴンが治める第三の国で一緒に暮らしてみないかというドラゴンの提案に乗り一緒に暮らしてみると案外共に暮らしていける事がわかり、ドラゴンの国では人間と魔族の共存を望む者達が暮らす国となるのだった。
人間と魔族が共に歩むのはまだまだ時間が掛かるがそれでも少しずつ歩み寄ってるのは確かであり、これなら戦争も休戦ではなくいつか終戦になる日もきっとそう遠くない話である。
そして、これは未来の話であるが、人間と魔族の戦争が終わりを告げる発表をした時にその発端となってくれた勇者ドラゴンと王と魔王が英雄として称えられ銅像が作られる事になり、それを見たドラゴン達はお互いを見合って大笑いするのだった。
読んでいただきありがとうございます。
新年に入って最初の短編投稿です。
そして初めての一万文字以上の短編です。
頑張ったと思ったら評価してくれると嬉しいです。
他にも連載している作品があるのでこれを機にそちらも読んで評価してポイントをくれると嬉しいです。