デコポンハンター
それは私の実家の母が家に遊びに来ていた時のこと……
ミカンが大好きな殿の為に母がデコポン(柑橘類の一種)を買ってきてくれたので、仕事で不在のパパを除いて三人でおやつにデコポンを食べた。
とても甘くて美味しいデコポンに、殿はニコニコ笑顔で完食。
そしてパパが帰宅後、「おかえりー」と出迎えた殿はその足でデコポンの入った袋へと駆け出し、その中の一つを手に取ると「パパも食べる?」と問いかけた。
端から見ると、とっても美味しかったデコポンをまだ食べていないパパに勧めてあげる、そんな微笑ましい光景に見える……
しかし彼奴は違った!
これは殿が食べたい物があるときの常套句で、両親が食べているものを欲しがれば大抵のものは無条件で自分に分けてくれるだろうという、私達が殿に激甘な事を承知の上で勧めているのだ。
労せずしておこぼれにあずかる……ハイエナの如き狡猾さである。
しかし両親もそこまで甘くない。
「パパは夜ご飯を食べてから、頂くでござるよ」
「そうそう、デコポンはデザートだからね」
そう言われると、殿は少し残念そうにしながらも納得したようで、夕食を先に食べることにした。
そしてご飯を食べ終わった殿は再度ニコニコ笑顔で「パパミカン食べる?」と問いかける。
それに対し私は少し意地悪をしてみた。
「デコポンはパパが全部食べてもいい?」
私にそう聞かれて少しフリーズする殿。
しかし何かを思いついたのか「いいのよ」と頷いた。
そして……
右手をパパに差し出してこう言い放ったのだ。
「タネがないか僕がみてあげるねっ」
「えっ……」
困惑する両親を尻目に、早く寄越せと言わんばかりに手を伸ばす殿。
「じゃ、じゃあお願いするでござるよ」
パパがデコポンを一房取って、殿の掌に乗せる。
殿はそのデコポンをパキッと半分に割ると、「タネないねぇ」と種の有無を確認した。
そしてパパとデコポンを交互に見ながら、しばらくパパと見つめ合った後……
「これタネ無かったから食べてもいい?」
上目遣いでお願いする殿。
完敗である。
そうだよね?食べたかったんだよね!?
種の確認を口実に、殿にデコポンを渡したときから気づいてはいた。
めちゃくちゃ狙ってるなーって……
でも可愛いからあげちゃうって!
殿なりにどうしたらデコポンが手に入るか考えた結果、この作戦だったのかと思うといじらしい。
二歳ってこんな駆け引きも出来るのかと驚いた出来事なのでした。