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本日はルドルク視点ですm(_ _"m)
西の果てにあるスコルを封じている結界は、人里離れた深い森の中にある。最寄りの集落までは歩いて丸一日かかるし、森の入り口には一般人がうっかり入り込まないよう、頑丈な柵がぐるりと張り巡らされてある。
そんな人の気配がまったくしない獣道を、ルドルクを始め聖騎士と魔術師達は無言で歩いている。
結界まではあと少し。誰もが緊張の色を隠せないと思っていた。けれども──
「ミィは……ちゃんと食事を取っているだろうか」
先頭を歩くルドルクは、切なげな表情を浮かべて空を見上げた。厚みのある灰色の雲が今にも落ちてきそうだ。
出立してからまだ10日も経っていないのに、これほど恋しくなるとは思ってもいなかった。
泣きそうな顔で見送ったテルミィの顔が、ルドルクの脳裏に焼き付いて離れない。
馬鹿だな、そんな顔をするな。そう言って駆け寄り、ぎゅっと抱きしめて深く口付けをしたかった。青白い顔を真っ赤に染めてやりたいと思った。
しかしそれをグッと堪えて遠征に向かったルドルクは、カッコつけたかったわけではない。一刻も早くスコルを抹殺してニクル邸に戻る必要があったのだ。
「ふっく団長ぉー、まぁーた若奥様のこと考えてるんですね」
ルドルクの独り言をしっかり聞き取ったのは、先月めでたく聖騎士に昇進したリッド・パウムだった。
栗色の癖毛がトレードマークの彼は、切なそうな顔をしているルドルクを覗き込みながらニマニマ笑う。いや、リッドだけではない。ルドルクの後ろを歩く聖騎士達は、揃いも揃って生温い笑みを浮かべていた。
ルドルクは足を止めると、部下たちに振り返ってこう言った。
「皆、すまない。気付いていると思うが、今回のスコル討伐は私情が入ったものだ。こんなものに付き合わせて申し訳ない。今からでも引き返したい者は」
戻ってくれて構わない──と、ルドルクは部下たちに伝えるつもりでいた。しかし、最後まで言い終えぬうちに、リッドが「ない、ない、なぁーい」と両腕を交差しバツを作る。
「ふっく団長ー、言っておきますけどね、俺らだってこの討伐には私情が混ざってるんですよ。どぉーしても行きたい理由があるんですよ。ね、先輩?」
先輩、とリッドに同意を求められた茶髪の聖騎士は「そうだ」と大きく頷く。
「副団長。これは知られたくなかったんですが、俺らがこのスコル討伐に向かってるのは、ニクル家への忠誠心が9割。残り一割は私情……ぶっちゃけて言うと女の子にモテたいからです!」
ビシッと敬礼をして告げられた内容に、ルドルクは唖然とした。最後尾を歩く魔術師達は、あらぬ方向に視線を向けている。聞かなかったことにするという意思表示だろう。
「……モテたいって……お前らなぁ」
やっとのことで絞り出したルドルクの言葉に、聖騎士達は不満そうな顔をする。
「副団長はモテなかったことが無いから、そんな顔ができるんですよ!言っておきますが、聖騎士だけど俺らだって年頃の男ですよ?女の子に素敵とかカッコイイとかキャアキャア言われたいんです!」
「そうですよ!大体、副団長の顔が良すぎるから聖騎士の基準が爆上がりしちゃってるんですよ!?俺が制服着て街を歩いると女の子が「あいつが?」っぽい目で見るんですよ?辛いっすよ、地元じゃ5番目にイイ男って言われてたのに……くそっ」
「あーもー副団長、そんな目で僕たちを見ないでくださいよ。僕たちだって結婚したいんですよ、切実に!だからスコルを討伐して、その武勇伝と給料三ヶ月分の指輪を持って花屋のメリーちゃんに告白するって決めてるんです!」
途端に始まった僻み混じりの本音大会に、ルドルクは呆れや苛立ちを通り越して、「なんだよそれ」と言いながら声を上げて笑った。
「そうか。なら遠慮なくお前たちには存分に戦ってもらおう。それと帰還したら、特別休暇を貰えるよう俺が団長に直談判してやる。ついでに酒盛りだ。父上の秘蔵の酒を振舞おう」
ルドルクの粋な計らいに、聖騎士達は「よっしゃー!」と叫び、大口を開けて笑い出す。
その光景は、今から死地に向かう騎士とは到底思えなく、後ろに控えている魔術師達は苦笑する。途端に陰鬱な森が妙にほんわかするけれど、その中で一人だけ苦々しい顔をする男がいた。
二十代半ばのこの男、銀髪紫色の瞳で長身。黙っていれば気品があるが、中身は身勝手なお子ちゃまだった。
「お前らいい加減にしろ。陛下に逐一報告してやるからな!」
顔を真っ赤にして地団太を踏んで叫んだのは、ヘルライン国の第二王子ケーニス・フォゼ・ヘルライン。彼は国王から目付け役を命じられ、スコル討伐に同行している。
危険な場所であるにもかかわらず、行けと命令されたケーニスは道中ずっと不機嫌だった。そしてとうとう我慢の限界が来たようで、再び地団太を踏むと、目に付いた木の枝を乱暴に折り、それを地面に投げつけた。
「だいたい予定を大幅に早めてここに来る理由がどこにある!?この俺様に休む間を与えないなど重罪だ!それにこの足場の悪い道はなんだ!?事前に俺様が歩くのに相応しく整備するのが当たり前だろ!?」
掴みかかるように怒鳴り散らすケーニスに魔術師は青ざめるが、聖騎士達はどこ吹く風。だからどうした?と言いたげに肩すらすくめる者もいる。
聖騎士達にとって、ここは戦場だ。王都と同じような扱いを求めることなど愚の骨頂。目付け役という名の足手まといは、黙ってすっこんでいろというのが本音である。
とはいえ相手は王族。このまま放置すれば更に足手まといになる。
「失礼しました、ケーニス殿下。これは我ら騎士団の士気を上げるためのもの。どうかお許しください」
一歩前に出て慇懃に礼を執るルドルクの表情は、ぞっとするほど冷たい薄笑いを浮かべていた。
ルドルクの圧に押し負けたケーニスが、悔しそうにわなわなと唇を震わせる。
「……お、お前……なんだその態度は……」
「ああ、これも申し訳ございません。聖騎士は戦闘前に聖力を高める必要があるため、少々目付きが悪くなるのです。ご理解ください」
「なっ、なっ……」
「それと予定を早めたのは、お忙しい殿下を長々と束縛するのが心苦しかったためのこと。全てケーニス殿下を慕う気持ちからの行動です」
「う、嘘だ!」
咄嗟に言い返したケーニスに、ルドルクは悲し気な表情を浮かべ項垂れた。しかし心の中では、まったく違うことを呟いていた。
──ったく、誰がお前なんかを気遣うかくそったれ。予定を早めたのは、一刻も早く家に戻りたいからだ、ばーか。
非常に問題発言であるが、声に出さなきゃバレやしない。それにルドルクにはケーニスに対して暴言を吐いて良い権利がある。
……という事情はあるけれど、ルドルクはとにかくこのワガママ王子に付き合っている暇はなかった。一刻も早くスコルを討伐して、家に帰りたくて堪らない。
なにせルドルクは、現在お預けをくらっている身なのだ。家に戻らなければ、愛する人と初夜の続きができないからである。
明日もルドルク視点になります(o*。_。)oペコッ




