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虐げられた魔法植物師の家出先は、聖騎士様の腕の中(旧題:裏方令嬢と過保護な聖騎士の結婚~自由になるための契約婚が溺愛婚に変わるまで~)  作者: 当麻月菜
傷口に触れて愛を知る

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22

 レオシュの生殺与奪の権利を奪い合う親子を目の当たりにして、テルミィはハクの毛に埋もれたままオロオロすることしかできない。


 でも頭の隅で、やっぱりなと冷静に思う自分がいる。


 なぜなら温室に乱入してきたラジェインが斧を担いでいたからだ。しかも木こりが愛用する手斧ではない。バトルアックスと呼ばれる魔獣討伐に使われる刃も柄もすべて白銀製で、ハクとどっこいどっこいの大きさときたものだ。


 殺傷能力が極めて高いそれを軽々と担いで登場したラジェインに、これどうするの?と尋ねる方が野暮である。


 薄情だと重々承知の上で、テルミィはレオシュの命を救うことを諦めた。


 その代わり、相棒の真っ白な毛並みだけは守ろうとハクを背にかばう。幸いなことにハクは嫌がる素振りを見せず、大人しくテルミィの後ろでちょこんとお座りをしてくれた。


 そんな中、生殺与奪権の奪い合いはいつしか、親子喧嘩に発展していく。


「だいたい父上はもう騎士団を引退された身じゃありませんか!ここは現役の騎士に任せて母上と茶でも飲んでてください!」

「馬鹿め、息子よ。儂が引退したのは、衰えたからじゃない!もう面倒臭いと思ったからだ!」

「なっ、面倒臭いだと!?よくもまぁそんなことを平気な顔で言えたもんですねっ」

「ああ、言う!なぜなら儂の父も同じ理由で引退したからだっ」

「なんだって!?」


 ぎょっと目を剥くルドルクに、ラジェインはカッカッカッと豪快に笑う。


 どうでもいいがこの二人、ヒートアップしているせいもあり、とにかく声がでかい。人より聴覚が鋭いハクが前足で耳を押さえながら、テルミィに「ねぇ、なんとかしてよぅ」とキュンキュン鳴いて訴える。


 相棒の切なる願いを叶えたいテルミィだが、親子喧嘩の仲裁をするなどハイレベル過ぎて不可能だ。


 そんな状況の中、ルドルクの一撃で脳震盪を起こしていたレオシュが、低い呻き声を上げながらむくりと起き上がった。


 ──ああ……どうせなら、ずっと気絶していたほうが幸せだったのに……。


 レオシュの末路を知っているテルミィは、助けるつもりはないが心から同情する。


 対してルドルクとラジェインは親子喧嘩をピタリと止め、同時にレオシュに視線を向けた。


「よう、よく眠れたか?小僧」


 最初に口を開いたのは、ラジェインだった。


 彼は肩に担いだ斧をドスンと床に付けると、そのまま腰を落としてレオシュを覗き込んだ。


「我が家の大切な娘をよくもまぁ痛めつけてくれたなぁ。ん?小僧、ウチの家族に手を出したってことは、それ相応の覚悟はあるんだろうなぁ。あ゛?」


 大股でしゃがんでレオシュを下から上に睨みつけるラジェインの姿は、控えめに言って盗賊の親分ようだ。


 あまりの迫力にテルミィは、ひぃっと小さな悲鳴を上げる。レオシュに至っては唇の端に泡を吹かせて、気絶寸前の状態だ。けれども彼は意識を根性で保って口を開いた。


「な、なにが家族だよ。寝ぼけたことを言ってんじゃない。こいつは──」

「婦女子を指差すな!たわけ者!!」


 レオシュがテルミィに人差し指を向けた途端、ラジェインはカッと目を見開きゲンコツをレオシュにお見舞いした。


 ゴッチンと脳天が割れるような音が辺りに響く。


「小僧、良く聞け。テルミィは代々サムリア領を治めるニクル家の長男ルドルクの妻になった。未来永劫、彼女は儂らの家族であり貴様の家族ではない」


 ラジェインの言葉に、状況を忘れてテルミィはジーンと胸が熱くなる。

 

 でもレオシュは納得できない様子で、頭のてっぺんを押さえながら涙目になりつつも、信じられないと言った感じで首を横に振る。


「……なっ、そ……そんな……お父様に無断でこいつが結婚なんかできるわけ……」

「できるわ!疑うなら陛下にでも訊いてこい。と、言いたいところだが、小僧はここで死ぬから無理だな。カッカッカッ」


 大口を開けて笑うラジェインだが、その眼はちっとも笑っていない。


 これは思っている以上に肉片が飛び散るかもしれない。温室の惨状を想像したテルミィは、ハクだけは真っ白なままでいさせてやりたいと震える手足をなんとか動かして、相棒を抱え込む。


 ……しかしラジェインは、レオシュに斧を振り下ろさなかった。


 ギロリとレオシュを睨みつけたラジェインは瞬き一つで怒りを消し、立ち上がった。


「ま、小僧にはいろいろ訊きたいことがあるから、しばらく地下牢で過ごしてもらおうか」

「待ってください、父上!」

「ルド、落ち着け。こやつなどいつでも殺せる。だが、こやつしか知らないことを吐いてもらった後でも遅くはない」

「しかし!……っ……わかりました」


 静かな口調で語るラジェインに一度は反発したルドルクだが、ラジェインになにやら耳打ちをされると、悔しそうな顔をしつつ頷いた。


 それからすぐにダナと執事のディムドが、少し遅れてサフィーナが温室に飛び込んで来た。


 三人はテルミィが無傷であることに安堵し、脇腹に傷を負ったハクに涙し、犯人であるレオシュに侮蔑と殺気の籠もった視線を向けた。


 再び命の危険に晒されたレオシュであるが、ルドルクのおかげで僅かに寿命が伸びた。


「ディムドはこいつを地下牢にぶち込んでおけ。ダナはハクの手当を。それと父上、母上、俺はテルミィと話があるから二人っきりにしてくれ」


 この言葉で寿命が縮んだのはテルミィである。


 ついさっき、ラジェインがルドルクにした耳打ち。そしてわざわざ人払いをした状況。


 これまで虐げられてきたテルミィに、悪い方に考えるなというのは土台無理な話である。

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