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虐げられた魔法植物師の家出先は、聖騎士様の腕の中(旧題:裏方令嬢と過保護な聖騎士の結婚~自由になるための契約婚が溺愛婚に変わるまで~)  作者: 当麻月菜
傷口に触れて愛を知る

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21

 温室に差し込む陽の光を浴びたルドルクは、視線だけで人を殺せるような怒気を纏っていた。


 しかしレオシュは、訓練服姿のルドルクを平民と勘違いしたのだろう。眉間に皺を寄せ、出て行けと顎をしゃくる。


 当然、ルドルクは出て行くわけもない。汚いものを見る目つきで、大股でレオシュに近づいた。


「なっ、何だよ……お前。無礼な奴だな」


 近づけば近づくほど体格差がはっきりとわかり、レオシュはたじろぐ。そんな彼に向け、ルドルクは目を細めて口を開いた。


「貴様が、噂の毒虫か。想像より醜いな」

「なっ、てめぇ」


 高身長のルドルクに見下ろされながら暴言を吐かれたレオシュは、怒りに任せてルドルクの胸倉を掴もうとする。


「おい貴様、言葉に気を付けろよ。俺は──」

「うるさい。口を閉じろ」

 

 胸元に伸ばされた手をひらりと避けたルドルクは、問答無用でレオシュを殴り飛ばした。


 肉が抉られる音と共に吹っ飛ばされたレオシュは道具箱に当たり、ガッシャン!と派手な音を立てて床に崩れ落ちた。


「テルミィ」


 ルドルクから別人のような柔らかい口調で名を呼ばれ、一部始終を呆然と見ていたテルミィの瞳から、涙が零れる。


「……ルドルクさん」


 反射的に名を呼び返したのと、ルドルクがテルミィの前に跪いたのはほぼ同時だった。


「待たせて悪かった。怖かっただろう」


 ルドルクの途方もなく優しい声と労りに満ちた表情が、テルミィを包む。


「……ぁ……っ……」


 貴方が来てくれたから、もう大丈夫だと伝えたい。なのに上手く呼吸ができなくて、言葉にできずもどかしい。


「本当に……すまなかった」


 それを見ていたルドルクは、まるで自分が酷い目にあったかのように顔をくしゃりと歪め、そぉっとテルミィを抱き寄せた。


「……っ……ご、ごめ」

「謝るな、馬鹿。こういう時は俺を罵れ」

「……そ、そんなぁ……で、できま……せんよぉ」


 ありえない要求を突き付けられたテルミィは、か細く震える声で無理だと訴える。


 それをどう受け止めたのかわからないがルドルクは、テルミィの背を何度も優しく撫でた。


「どこも怪我はしていないか?」

「……は、はい」

「痛いところもないか?」

「は……はい」

「じゃあ、ちょっとあそこに転がってるゴミを片付けてくるから待っとけ」

「はい?」


 さらりと紡がれたルドルクの言葉が理解できなくて、テルミィは首を傾げた。


 温室は理路整然とはしていないが、専属メイドのダナのおかげでゴミは一つも落ちていない。


 強いて言えば、ルドルクの渾身の一撃を喰らったレオシュが床に伸びているだけだ。この温室で不要なものはコレしかない。つまり……


「兄を……片付け……る?」

「ああ、埋めた方がいいならそうするが?」


 くいっと片眉を上げてテルミィに尋ねるルドルクの手は、もう腰に差した剣に触れている。


 てっきり叩き切ると言ってくれたのは、自分を安心させるために大袈裟に言ってくれたものだと思っていたテルミィはぎょっとする。


「ちょ、ちょっと……ちょっとお待ち……ください。ルドルクさん」


 一先ず彼の袖を掴んで、動きを止める。


「ル、ルドルクさんの剣は……神聖なもので……その……あんなのに使う必要は……」

「お前に害成すものは全部魔獣だ。俺の剣はそれを斬るためにある」


 あり得ない持論を展開したルドルクの視線は、まっすぐレオシュに向かっている。冴え冴えとした眼差し。加えて、訓練の時より何倍も真剣な表情。


 彼の頭の中は、レオシュをどう切り刻もうかでいっぱいであることは間違いない。


「で、でも……あの……」 


 殺さないでと懇願するほどテルミィはレオシュに情は無い。


 ではなぜルドルクを引き留めているかといえば、そんなの一つしか無い。自分のせいで彼が人殺しという汚名を受けるのが嫌だからだ。


 なのにルドルクはそんなテルミィの気持ちにちっとも気付く様子もなく、己の袖を掴んでいる小さな手を優しく解く。


 お座りを命じられていたハクも、なぜかここに来て、再びルドルクの袖を掴もうとしたテルミィの邪魔をする。ただその動きはヨタヨタとしていた。


「そうか……ハク、頑張ったんだな。後は任せておけ」


 すぐにハクの身に何があったか察したルドルクは、すぅーっと息を整えると音もなく立ち上がった。


「このクズが。簡単に死ねると思うなよ」 


 物騒極まりない台詞を吐いたと同時に、ルドルクは鞘から剣を抜く。シャッという金属の擦れ合う音が、なぜかレオシュの首が跳ぶ音に聞こえて仕方がない。


「あ、ル、ルドルクさん……ま、まって……」


 助けに来てくれただけで十分だ。こんな人間の為に彼が手を汚す必要は無い。


 そう彼に伝えたくてテルミィは懲りずに手を伸ばしたけれど、今度はハクが壁となり届かない。


「ハ、ハクぅ……ぅう……」

 

 恨みがましい目で相棒を見つめて押しのけようとしても、大型モフモフ犬はびくともしない。使用人達から貰ったおやつが、こんな時に裏目に出るとは。


 涙目になりながらテルミィが格闘していても、ルドルクはこちらに振り返ることなく真っすぐレオシュに向かっている。


「さて害虫駆除の時間といこうか」 


 もはやレオシュを人として認識していないルドルクは、無表情で剣を掲げ振り下ろす。


 しかし切っ先が、まさにレオシュに届こうとしたその瞬間──温室に地響きのような足音を立てて一人の大柄な男が乱入した。ピタリとルドルクの動きが止まった。


 大柄な男は温室に入るや否や、ぐるりと辺りを見渡した。殺害現場に居合わせたことに驚く様子もない。ただ立ち去ることはせず、今まさにレオシュを殺そうとしているルドルクに向けこう言った。


「息子よ、こやつに制裁を下すのは領主である儂の役目だ。退け」


 人を従わせることに慣れた厳かな声が温室に響いた途端、ルドルクはちっと舌打ちをして大柄な男に視線を向けた。


「父上、息子に対して権勢を振るうなど大人として恥ずかしくないのですか?」

「ない!」


 食い気味に言い切った大柄な男──ラジェインに対し、ルドルクは苦虫を噛み潰したような顔をした。

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