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 生まれ持った責務を全うするのに、愛だの恋だのという甘いものは自分には一生不要で縁のないものだとルドルクは思っていた。


 そう、思っていた。ほんの数分前までは──


「あの……えっと……お約束もないのに押しかけてしまい……その……申し訳ありません」


 しんとした玄関ホールで、謝罪の言葉をぼそぼそと紡ぐみすぼらしい少女を、ルドルクは食い入るように見つめた。


 ボロボロの外套に土で汚れたブーツ。行商人のように肩に斜め掛けした大きな鞄。思わず執事のディムドに摘み出されなくて良かったなと言いたくなるような格好だ。


 けれども美しかった。


 顔色こそ青白いが、人形のように愛らしい顔つきをしていた。今の季節の空のような淡い水色の大きな瞳。睫毛は長く、小さな鼻とさくらんぼ色の唇は、男の手のひら程しかない卵形の顔の中に奇麗に配置され、背中まであるアプリコット色の髪は思わず触れてみたくなるほど柔らかそうだった。


 ルドルクが住まうサムリア領は広大だ。土地の広さに比例して、美しく魅力的な女性は沢山いる。


 けれども、これほどまでに心を揺さぶられる異性と出会ったのは初めてだった。


「俺に、何の用だ」


 気持ちを隠す為にわざと不愛想な口調で尋ねると、少女からじっと見つめ返されてしまい、ルドルクは言葉を失った。


「……あー、えっと。何か用があったから、ここに来たのだろう?」 

 

 今度はつとめて優しく問い掛けたのに、少女のさくらんぼ色の唇が震えてしまった。愛らしい顔が俯き、小さな手がたすき掛けにした鞄の紐をぎゅっと掴む。


 酷いいじめをしてしまったような罪悪感がルドルクの胸を刺す。


 怖がらせるつもりはなかったし、どうにかしてあげたい欲求があったからこその質問だったのに。ルドルクは自分の持つ威圧感を初めて邪魔だと思ってしまった。


「まぁ……あれだ、今日は随分と冷えるな。立ち話もなんだから一先ず中に──」

「ここに来たのは貴方に会いたかったからです」


 自分の言葉を遮って顔を上げた少女の表情と、紡いだ言葉があまりに可愛くて、ルドルクは呆気にとられてしまった。


 ──俺に会いたかった……だと?


 鈍くなってしまった思考で、それだけを考える。


 異性から幾度となく言われた台詞が少女の唇から紡がれた瞬間、特別な響きを持つ。


 初めて覚えるその感情にルドルクが戸惑い、狼狽えたその時、少女は大きく息を吸い込むとこう叫んだ。


「ニクル卿、私と結婚してください!!」






 18歳で聖騎士となり早4年。これまで領地を守るために魔獣と死闘を繰り広げてきたルドルクは、並大抵のことでは驚かない。


 しかし出会って数分の少女からの求婚には、腰を抜かすほど驚いた。

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